June of garden 4
シャリエが市街を突っ切るトモズ川のほとりのベンチで待っていたところ、懐かしい声に後ろから呼ばれた。
「シャリエ!」
「休日に呼び出して悪かったね」
「いや、驚いたが、久しぶりに連絡をもらえて嬉しかったよ。俺が新聞社に入社して以来か?」
およそ三年ぶりに見る旧友の姿は、当時とあまり変わっていなかった。年を食ってややくたびれた風な印象も受けるが、安い古着のコートが少し丈夫な生地に変わったくらいか。
「お前が帝国一のジャーナリストになると言って下宿を出て行って以来だよ。それから俺は二倍になった家賃代をどう工面するかで5キロ痩せたんだ。お前の記事をたまに紙面で読むよ。いい記者になってるみたいじゃないか」
「中立性だけは定評のあるローレンス・フリーマンだからな。宮廷医の方はどうだ?」
「まあ、ぼちぼちってところだよ」
それで? とローレンスは早速話を促した。新聞記者というのは常に時間に追われている人種らしい。
「ニル・クリムのことについて教えてほしいんだ」
その時、ローレンスの顔つきが変わるのがシャリエにはわかった。ローレンスはシャリエの隣に座ると、煙草を吸ってもいいかな、とシャリエに訊ねた。
「おいおい、俺は政治記者だぞ、ゴシップ誌の記者じゃない」
「わかってるよ。俺もニルの恋人の有無が知りたくてわざわざお前を呼び出した訳じゃないからな」
「だったら尚更だ。あいつはだめだ。あいつのことは何もわからない」
重たい香りのする煙を吐き出しながら、ローレンスは首を横にふった。
「どういうことだ?」
「さあな。記者仲間がみんな言ってた、まるでガラスの天井があるみたいだと。誰も知らないんだとよ。彼がプラントアカデミーに入るまでのことを知ってる奴が」
「ホスキング博士の隠し子ってのはどう思う」
「ホラ話だと思ってる奴が大半じゃないか。あれをスクープしたのはライバル社なんだが、なんでも情報屋が一度しか取材を許さなかったらしい。うちもそうだが、どこも後追い取材ができなくて、それ以上情報が出てこないから盛り上がる前に風化しちまうだろうな」
「情報屋が情報を出ししぶるなんて、そんなことあるのか?」
「あいつらはたいてい金さえ払えばどんな情報でも売ってくれるハイエナだが、今回ばかりはよほどのハイリスクハイリターンってことなのだろう」
ホスキング博士はもともと大の新聞嫌いだし、ニルクリムもそうらしいから、案外親子の可能性も捨てきれないんじゃないか、と茶化した口調でローレンスは付け加えた。
「本人に聞けばいいじゃないか。親しいんだろう、知ってるぞ」
「アホかと一蹴されて終わりだよ。まあ俺だって信じちゃいないけど、あいつは秘密主義だから」
なあ、とシャリエは足を組みながら訊ねた。
「情報屋が情報をうりつけにくるのってどんな時かな」
「基本的に金出して買うのが情報だとは思うが、そりゃ、売ろうとしてる相手が絶対に買うっていう情報を手に入れたときじゃないか。あいつらは確実に売れる情報じゃない限り、売ろうとはしないからな」
「もし相手が情報をほしくなかったら?」
「相手から金が取れないとなれば、もうすでに逆方向からもらってる時、じゃないか? 売って欲しいと頼まれてる時だ」
「やっぱりお前もそう思うよなあ。でもそいつが思い当たらないんだよ」
情報屋の少年は、ホスキング博士に情報を売った人物の情報をシャリエに買えと言ってきた。だが、シャリエが博士の情報を売った人物の名前を知ったところで、何もできないのだ。それとも、何かができる人物なのかーーーー?
(全っ然わからん……)
ひとり頭を抱えるシャリエを見て、ローレンスは屋台の珈琲をご馳走してくれた。持つべき者は、沈黙を感じ取ってくれる友人だ。




