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王子みっしょん  作者: シラ猫


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クラウディアの脅威再び(閑話)

クラウディアの話なので残虐描写あります

苦手な方は読み飛ばしてください


 俺の名はドッソ。


 クラウディアの部下だ。


 いつから部下になったのかは思い出せない。


 まぁ、些細なことだな。


 俺はクラウディアの顔を知らない。一度も見たことがない。


 用心深いのか、アイツは姿を隠すのがうまい。


 時刻は夜。


 一定間隔で建てられた夜光灯が辺りを照らしている。


 クラウディアが俺に囁いた。


「私はあの女がいいと思う。貴方はどう? オーシャン?」


 彼女はいつも俺のことをオーシャンと呼ぶ。理由は知らないが、彼女の部下になると名を与えるそうだ。そのことに不問はないからどうでもいい。


「俺も別にあの女でいいぞ」


「乗り気じゃないなら、他の女でもいいのよ?」


「いや、アレでいい。行くか」


「ちゃんと武器を持っているのでしょうね?」


「大丈夫だ。心配するな」


 木製のこん棒は用意してある。小ぶりなサイズだ。


 目当ての女は前方を歩いている。ちょうどパン屋から出てきたところで、片手に袋を抱えている。家族が待っているのだろうか、嬉しそうな顔している。


 俺が女との距離を縮めているのに、気づいた様子もない。周りに人が歩いていないことを確認して、いっきに近づいた。


 チクショウ!! 失敗した。


 女が俺の気配に気づいて走り去っていく。


 走る速度を上げて追い付くと、こん棒を後ろに大きく振りかぶって頭を殴りつけた。気を失ったのか女はピクリともしない。



 連れ込む場所は決まっている。ここから遠くない。


 獲物を手に入れてクラウディアは喜ぶだろうな。彼女の残忍さは分かっている。女性を切り裂いて殺すことに喜々している。異常と思えるのに彼女が近くにいると不思議と平気になる。



 こん棒を羽織っている上着の内側にある留め具に引っかける。このために苦手な裁縫を駆使して準備した。


 俺を見て怯えた女の顔を思い出すと、なんとも言えない快感がわき起こる。


 あれ? 違和感がする。



 女を背負い歩きだした。一軒家の前を通り過ぎようとした時に家の中から声が聞こえてきた。


 女を地面に降ろしてから、抱えるように持ち直す。そのまま壁際にピタリと身を寄せて息をひそめる。



 逃げる時に女が少し悲鳴を漏らしたのが聞かれたのか?


 しばらくじっとしていたが、何も起きなかった。大丈夫そうだ。もう一度背負い直すと、目的の場所まで歩きだす。



 こんなに苦労したのにクラウディアは手を貸してくれない。


 俺が部下だから仕方ないが、二人でやった方が確実だろうに。



 真っ暗な路地を通り抜けると目的の場所に付いた。ずいぶん前に潰れたままになっている鍛冶場だ。日用品を専門にしていたはず。ドアを開け中に入る。鍵は昨日の夜に来て壊しておいた。



 女と一緒に中に入ってから床に置き、入り口近くに用意してあったランプを点ける。女の足を持って、奥に引きずっていく。


「うう……」


 女がうめき声をあげた。気がついたのか?



 しばらく見ていたが変化はない。まだ起きていない。ランプを取りに行って、女の近くにある木箱の上に置く。灯りに照らされている女は思ったよりも若かった。


 30歳くらいと思っていたけど、20歳前半くらいか。女性にしては長身で痩せている。服装を見ると貧民特有の継ぎ接ぎ(つぎはぎ)だらけの服ではない。割と裕福な家庭なのだろう。


 もう家に帰れないのに、女をかわいそうだという感情がでてこない。



 それにしてもクラウディアは遅いな。



 女が目を覚ます前に来てほしいのだが。鍛冶場だから多少の音漏れは大丈夫だと思うが、それでも油断はできない。


 女が起きたらこん棒で殴るしかないが、殺してしまったらクラウディアの怒りが怖い。彼女は生きた状態の女をなぶり殺すのが好きだからな。その脅威を俺に向かないことを祈るしかない。


「始めようか」


 クラウディアが耳元でささやくように言った。


 誰かが入ってきた気配はしなかったのに、いつの間に来たんだ?


 いつものように彼女の姿は認識できない。声がするから側にはいるんだろうけど。



 クラウディアがナイフで女の腹を刺した。何度も。彼女は姿は見えないのにナイフで女を刺しているのは分かる。


 あれ? 俺はどこからそれを見ているんだ?


 クラウディアは女の腕を持ち上げてから、もう片方の手で撫でている。


「お前も食いたいか?」


 上司とは言え恐ろしい事をきいてきた。


「いや、俺は大丈夫だ。お前の好きにしろ」


 俺が拒否してのにクラウディアは気にした素振りもない。


 素振り? あれ?


「ああ、久しぶりだ。もうたまらん」


 クラウディアが女の腕にかぶりついた。


 なぜか、俺も食べているような気分になる。


 どうしてだ。

 俺はおかしくなってしまったのか。


 その後もクラウディアの狂気は続いた。女はすでにこと切れているのだろう。動く様子もない。


 俺はもう疲れて横になりたかったのに、体が言うこときかない。


 本当は嫌なのに、なんでクラウディアに従っているんだろう。



「オーシャン、灯りを消せ!!」


 クラウディアが怒鳴り声で命令してきた。


 俺は急いでランプを消した。入り口周辺に撒いておいた小石が踏まれる音がした。誰かが来たようだ。


 ドアの前に来たのか、ドアノブを回す音がした。


 俺が後ずさったときに、工具箱を蹴ってしまい、音が響く。


 相手は俺たちがいることに気づいたのか、走り去ったようだ。


「チッ! 持ち込んだ道具を全部持って逃げるぞ」


 クラウディアが怒鳴る。言われた通りに麻袋に道具を全て入れた。


 残されたのはクラウディアに遊ばれた死体だけだ。


 俺は麻袋をかつぐと、窓から外に飛び出した。


 誰にも気づかれないように家路に向かった。

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