監視役
俺がやらかした次の日。
さっそく兄上から呼び出されていた。
予想はしていた。
だけど朝飯を食べている最中に呼ばれるとは予想外だ。
前回はジーン達の同行を許してくれたのに、今回は俺だけのご指名。
はぁ、嫌な予感しかしない。
この前と同じソファーに座り、対面に座っている兄上がジト目で俺を見てくる。何かを語るわけではなく、ため息を零した。
それは俺にたいして失礼だと思う。
自分がやらかした気持ちがあるので何も言わないがな。
兄上は片手で顔を覆い、何か考えている。
気持ちは分かる。逆の立場なら俺もそうなっていたかも。
不甲斐ない弟でごめんよう。
兄上はメイドが淹れてくれたお茶を一口飲み、息を深く吐き出してから口を開く。
「お前は評判を上げたいのか、下げたいのかどっちなんだ?」
失礼な言い方だけど、答えは決まっている。
「もちろん上げたいですよ。決まっているではないですか」
評判を下げたい人なんてどこを探してもいないだろ。俺だってそうだ。
「祝日の話を父上から聞かされた時、言葉が出なかった。冗談だと思いたかった俺の気持ちが分かるか?」
「それは本当に申し訳ございません」
父上や兄上には悪い事をしたと思う。
あれはコタローの可愛さが罪なのだ。俺を狂わす魔性の猫。可愛い。
コタローに会いたい気持ちが強くなっていると、兄上は苦虫を嚙み潰したような顔になる。
「宰相から苦言を呈された。お前を他国に嫁がせるのは、国の恥になるから辞めた方がいいと。俺もその方がいいと思い始めている。もしかして、それが狙いではないよな?」
なんか疑われてるけど、そんな考えは思いつきもしなかったよ。俺は潔白なんだ。
それにしても結果オーライじゃないか。
思いもよらぬ展開に笑みがこぼれそうになる。話を聞きながら両手を組んでいたが、握る手に力を入れて必死に耐えた。
取り敢えず、言い訳をしておこう。
「まさかそんな。あれは使い魔の猫が可愛すぎて、ちょっと暴走しちゃいました」
俺が言い終わると、兄上がテーブルの上に身を乗り出すようにして口を開ける。
「あれがちょっとだと! 俺も父上もかなりの問題行動だと認識してるぞ。その使い魔はお前にとってよくないかもしれん。そもそもお前が使い魔召喚の魔方陣を特例で使うことを反対してたからな。二度と暴走しないように取り上げた方がよいな」
兄上は不満をぶつけるように、捲し立てて話してたが、俺にあたるのは辞めてほしい。
んん? コタローを取り上げる……だと?
「お願いですから、そんな酷いことをするのは辞めてくださいっ!」
勢いよく席を立つと、一瞬で兄上の側に近づいてから、靴を舐めるように口を近づける。
「靴を舐めれば許してくれますか? 右ですか? 左ですか? それとも両方ですか? コタローの為なら苦ではありません。さあ、答えてください」
俺の勢いに押されたのか、兄上はひきつった表情をしていた。
「分かったから離れろ! 王族がする行為ではない。使い魔の件は無しにしてやるから。早く離れるのだ!」
俺の勝ちだ。コタロー、パパはやったよー。
気分をよくした俺はさっき座っていたソファーに戻る。
少し喉が渇いたのでお茶を一口飲んだ。
やりきった後のお茶はうまいな。
俺の様子を観察していた兄上は、下を向いて首を横に振っている。
「まったくお前は……。こちらの気苦労も考えてほしいものだ」
「大丈夫です。兄上。もう反省しましたし、失敗しませんから」
「父上と相談した結果、お前には監視役が必要だと判断した。幸いにして王子のクセに護衛騎士もいないからいい機会だと思う。レイチェル!」
「はっ」
壁際で控えていた二人いた護衛騎士の一人が前に出る。
赤い髪を肩まで伸ばしている若い女性騎士。俺やジーンより若干年上な感じかな?
見慣れない護衛騎士がいると思ってたんだよな。
美人だけど監視付きの護衛ってところがやな感じだな。
何かあると父上や兄上に筒抜けってことだもんな。
「レイチェル・スペンサーです。本日からアルマ王子の護衛を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
シルバーキャッツのメンバーを増やしたいと考えていたが、こんなタイミングで増えるとは。
「こちらこそ、よろしく頼む」
「レイチェルは第一騎士団で隊長をしているダルタニアンのご令嬢だ。若いが腕は立つぞ。きっとお前の役にたつ」
俺には褒めてくれない兄上が褒めるのだから優秀なんだろう。
それにしても表情が硬い。騎士だからなのか。
ジーンやターニャと仲良くやれるだろうか。
和を乱すことがなければよいが。
「しばらくは犯罪者の捜査協力でもしておけ。いいか、余計なことはするなよ」
「分かってますよ、兄上。私を信じてください」
「レイチェル。この馬鹿が何かしそうになったら止めてくれ。無理ならこっちで対処するから」
全然信用してないからか、実の兄から酷いことを言われた。
ここまで問題児扱いされることしたっけ?
「はっ。精一杯頑張らせて頂きます」
「ではもう退出しろ。俺は忙しいんだ」
用件が終わったので、さっさと出て行けと言わんばかりに手で追い払う。
可愛い弟にその態度はないわ。なんかショックだ。
これはちょっと見返したくなってきた。
やる気が出てきたが、ここにいても仕方ない。
レイチェルを引き連れて自室に戻ることにした。




