殺人犯ジェイコブの悲劇(閑話)
本日2話目の投稿になります
俺の名はジェイコブ。
36歳。港で積み込み作業をしている独身の男だ。
犯罪者収容所で朝を迎えるたびに生きていることを実感する。なぜならクラウディアと一緒に監禁されているからだ。
他人にクラウディアは見えない。彼女は俺の身体に潜んでいる。
俺は数日前に女性を襲っていたところをアルマ王子に捕まった。世間では顔だけの能無しって言われてたけど、油断できない相手だと思う。
誰も信じてくれないが、犯人は俺じゃない。
残虐的な行為で女性を殺害したのはクラウディアなんだ。
そんな狂人の憎悪が俺に向いている。
囚われの身になってしまった俺を憎んでおり、日増しに憎悪がふくらんでいくのが分かる。
赴くままに己の欲望を女性に向けていたクラウディアの矛先が、宿主である自分に向いてくるなんて普通は思わない。
クラウディアはずる賢い。兵士の取り調べに俺の代わりに答えることがある。
兵士は俺が犯人と決めつけている。クラウディアの犯行だと言っても信じてくれないし、俺が狂っていると言う。このままでは処刑を待つか、クラウディアに殺されるのが早いかのどちらかだ。
頼みの綱はアルマ王子だ。彼は俺の言葉を最後まで聞いてくれる。
彼が理解していることに期待している。クラウディアが欲望を抑えることが出来ないことを。人肉を食いたいと思ってたら、誰でも手当たり次第に襲う凶暴性を持っていることを。
俺の身体の至るところにある嚙み傷がそれを物語っている。普通では届かない箇所にも傷があるのだから。
治療術師に癒してもらっているが、どんどん嚙み傷は大きくなっていく。
取り調べにきた兵士が俺を睨みつける。
「ジェイコブ、何度言ったら理解できるんだ。自傷行為はするな!」
兵士は自分を傷つけるなと叱るが俺じゃない。なぜ分かってくれないんだ。
「俺じゃないと言ってるだろ? あれはクラウディアの犯行なんだ。彼女が俺に噛みついてくる。ここに閉じ込められた不満を俺にぶつけているんだ!」
「そんなデタラメを誰が信じるんだ。何人も殺害したお前はどうせ処刑される。真実を話したらどうだ?」
俺の話に聞く耳を持たない兵士に頭がくる。
「少しは俺の話を信じてくれっ! クラウディアの不満はどんどん大きくなる。俺の身体で満足できなくなっても知らないからな!」
クラウディアは女性の肉を好む。それなのに男である俺に食いつくんだ。このままでは彼女に俺は食い殺されるだろう。
最初に収監されたのは一般の独房だった。兵士に取り調べされてからは、俺を危険視したからか特別独房に移送された。
ここに収監されているのは、ろくでもない犯罪者ばかり。人の事をとやかく言えないけど。
毎日新しい噛み傷が出来るので1日中拘束されてた事がある。その時は傷は増えなかったけど、拘束を解除された後に反動がきた。
めちゃくちゃ噛まれた。それからは拘束されていない。
いつもの兵士が取り調べにきた。
「おい、いい加減に残りの死体の場所を教えるんだ。少しは遺族に報いようとは思わないのか」
兵士は供述した死体の数と見つけた死体の数が合わないので俺を問い詰めている。
「俺だって言いたいさ。でもダメなんだ。それを言ってしまうとクラウディアに殺される。警告されたんだよ」
兵士は俺を馬鹿にするように鼻を鳴らして笑う。
「そのクラウディアはつくり話だろ? 人格が乗っ取られるなんて嘘ばかり言いやがって」
一方通行の話は疲れる。俺は兵士に頼むことにした。
「アルマ王子を呼んでくれよ。彼なら分かってくれる。お前らと違うんだ」
じろりと俺を睨みつけた兵士はそれ以上何も言わずに戻っていった。
次の日、いつもの兵士と一緒にアルマ王子がやってきた。
「やあジェイコブ。調子はどうだい?」
王子は犯罪者の俺に嫌な顔もせずに爽やかな笑顔で挨拶してきた。
「ようこそ、アルマ王子。今朝も噛まれました」
王子に挨拶を返してから、腕の傷を王子見せる。
「これは酷いね。ララ、治してあげてくれ」
側に控えていた治療師が俺の傷に手をかざして詠唱する。暖かい空気に包まれている感じがしたら痛みがひいてきた。治療が終わると治療師は後ろに下がる。
「彼女はなぜ女性を憎んでいるんだい?」
「彼女は憎んでいません。欲望のままに行動しています」
俺にはクラウディアの感情が分かる。欲望に忠実なだけ。
「調べたんだけど、君が犯罪に手を染めたのはここ2年くらいだ。いつからクラウディアが君の中にいたかわかるかい?」
「俺にも分かりません。最初に犯行したときも意識を操られていたので、彼女の存在に気づいてなかったです」
「君はクラウディアと話が出来るんだろ?」
「はい」
こちらからの呼びかけにあまり反応してくれないが、彼女からは急に話しかけてくる。
「では、彼女を説得して残りの遺体がある場所を教えてほしい」
「……やってみます」
アルマ王子に見切られたら俺は終わりなんだ。難しいがなんとかやってみよう。
「よかった。褒美という訳じゃないけど、精神を安定する薬を後で渡すね。これで夜中に噛みつかれることがなくなるといいけど」
「ありがとうございます」
「じゃあ、また来るよ」
王子はそう言ってお供と一緒に引きあげた。夕食時には約束通り薬をもらえた。飲み薬だ。
匂いはひどいが我慢して飲んだ。これで安心して寝られればよいが。
就寝時間になった時に俺は理解してしまった。
もう俺はダメだ。彼女の憎悪が限界を超えたから。
俺は殺されるだろう。
願わくば、俺が最後の被害者であればいいけど。




