殺害現場の調査!?
『魔術具説明』
送信デンデン:手のひらサイズの箱型で相手に声を届ける。
受信デンデン:イヤリング型で相手の声が聞こえる
ドアの見張り番をしている兵士が、俺に気づいて敬礼してきたので、それに応えるように片手を挙げた。
ドアに手をかけた時に誰かに肩を指で軽く叩かれた。振り向くとレイチェルだった。
「アルマ王子、何があるか分かりません。ここは私に先行させてください」
レイチェルが先陣を切るという。
主思いの行動を誰かさんに聞かせてやりたい。
「任せた」
レイチェル、俺、ラルフの順番で入っていく。
部屋の中に入ると、酷い臭いで顔をしかめる。
「くっせー。ヤバイなこの臭い」
埃と鉄錆と血の臭いが混ざりあった感じだな。一歩進む度に臭いが濃くなる。
「ぐっ、臭いがキツい過ぎる」
腕を曲げて鼻を押さえたが、臭いの侵入は完全に防げていない。
正直に言うと外に出たい。
現場検証なんて部下に任せたくなってきた。
意気揚々と来た手前、自分から外に出たいとは言えない。恥ずかし過ぎる。
誰でもいいから早く音を上げろ!
便乗して外に出るから。
段々と腹が立ってきた。
なんでコイツらはずっと黙ってるんだ?
普通はキツい臭いを嗅いだら、声が自然に出るもんだろ。
何も喋らないのが怪しすぎる。
もしや俺に内緒で鼻栓でもしてるのか?
それなら言ってくれればいいのに。
隊長だからって気を遣わなくてもいいんだ。
というか、俺にも鼻栓くれ!
怪しまれないように周りを観察してる感じに装い、チラッと振り返ってラルフを見た。鼻栓はしてないな。しかも平然としている。
あれ?
俺がおかしいのか?
掃除が行き届いた城に住んでいるから悪臭に敏感なのかな?
でもそんなレベルの臭いじゃないと思う。
レイチェルは騎士団にいたから鍛えられたのか?
だとしたらラルフは違うだろ。
あいつは警備局なんだから。
理屈が分からん。
もしや匂いフェチというやつか?
あれはある意味で変態だからな。それなら納得できる。
もう一度振り向いてラルフの様子を観察したが、おかしい感じはしないな。
「どうかされましたか?」
「いや、何でもない」
何度も振り向くからラルフに怪しまれたか?
まさか自分らの隊長が臭いにやられて帰りたいってバレてないだろうな?
それにしても部屋の中は暗いな。
外から見えないようにするために窓を布で覆っているので暗いと思っていたが、照明の魔術具が壊れているな。一瞬だけ照明が点灯する時がある。それが余計に腹立つけど。
周りを見ながら歩いていたせいで、手の甲が先頭を歩いてるレイチェルにちょこんと触れた。
「あっ、悪い」
謝罪とほぼ同じタイミングで、レイチェルは腰にぶら下げている剣の柄を掴む。
寒気がした。急いでしゃがみこむ時にラルフの頭を掴み強引に座らせた。
「い……いやあああああっ!」
レイチェルの悲鳴が聞こえると、俺の頭上をかなりの速度で剣が横切った。
やべぇー。
危うく死ぬとこじゃないか。
「こらレイチェル、危ないじゃないかっ!」
レイチェルを叱りつけるが、小声で独り言を呟くだけで反応がない。
「ラルフ、レイチェルを外に連れ出すからドアを開けといてくれ」
「了解しました」
ラルフが小走りでドアまで向かう。
暴れる可能性があるレイチェルを警戒して、後ろに回り込み、羽交い締めした状態で外に連れ出した。
外に出てからレイチェルを解放すると、崩れ落ちるように地面にぺたんと座り込んでいる。
普段見せたことのない姿に心配してしまう。
「レイチェル大丈夫か?」
「さ…………れた」
レイチェルが何か言ったけど、聞き取れなかった。
「すまない。もう一度言ってくれ」
「さ、触られた。アルマ様にお尻を触られましたああああっ!」
レイチェルは大声でとんでもない事を口走った。
近くにいた兵士たちがレイチェルの声に反応して俺を見た。
早く誤解を解かなくては。
「触ってないからな! こんな所でそんな事を言うと皆に誤解されるから、ちょっと落ち着け」
慰めるように手で優しく頭を撫でると、レイチェルが泣き出した。
「グスッ……。ひっく……ひっく。アルマ様に汚された。もう殺すしかないです」
「怖いわ!! 頼むから冷静になってくれ」
コイツも要注意人物じゃないかよ。
尻触ったくらいで相手を殺そうとすんなよ。発想がヤバいだろ!
レイチェルの言う通り、尻触ったのか?
いや、触ってないな。手の甲がちょっと触れただけだ。
よくよく考えてみたら、優秀な人材が評判悪い俺のところに来るわけない。
俺なんか悪いことしたか?
集まってくるのは、そういう特殊なタイプじゃないといけないのか?
「アルマ統括隊長、ほんとうにレイチェル嬢に痴漢行為をしたのですか?」
ラルフに疑われている。
ちょっと前に俺のこと尊敬してなかった?
これはヤバい感じになってきた。
「いや、してないし。お前も側にいたじゃないか!」
「いましたが、暗かったですし」
ラルフは俺の釈明に納得できていない。
証拠もないし、どうしたらいいんだ。
嫌な予感がしてレイチェルの見ると、送信デンデンを手に持っている。
「ちょっと待て! レイチェル、それはダメだ。お願いだからーーー!」
送信デンデンを取り上げようとしたが、一足遅かった。
「ひっく……ジーンさーん。ターニャさーん。ひっく……アルマ様にお尻を触られましたー。もうお嫁にいけません」
間に合わなかった。
恐れている相手に俺の冤罪が伝わった。
「最悪だ。最悪な事になった。ジーン達に知られるなんて……」
俺が頭を抱えていると、案の定、右耳に付けている受信デンデンから声が聞こえてくる。
「変態ですね」
「最低っす」
手遅れだった。
俺は膝から崩れ落ちた。
神はいないのか。
なぜ俺ばかりに試練を与えるのだ。
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