城下町を散策する
父上に警備局の隊長を逮捕した経緯を説明するために面会依頼を出した。しかし、今日は都合が悪いらしい。その後に警備局の局長に会いに行くが不在だった。現場の指揮をどうするか確認できず、殺人事件の調査はいったん中断になる。とりあえず状態維持の魔術具を起動して、他は何もするなと命令を出しておいた。
やる気を出したのに、思いもよらず暇になってしまうとは。
自室のソファーで寛ぎながらどうするか考えた。何も思い浮かばない。
コイツらに聞いてみるか。
「皆ちょっといいか? 今日は休みになったから暇になった。やりたい事ないか?」
俺の願いを最初に反応したのはレイチェルだった。
「いい天気ですから、鍛錬にでも行きませんか?」
レイチェルが満面の笑みで鍛錬を進言してきた。
騎士団に居たくらいだから鍛錬好きなんだろうな。
「やだよ、面倒くさい」
即答すると、レイチェルは「そうですか」と小さい声で呟く。がっかりして可哀想だが、意見を変えるつもりはない。
「城下町にある有名焼き菓子店に行くのはどうっすか? アルマ様のセンスで買ってきてくださいっす。お茶の準備して待ってるっすから」
ターニャは自分は留守番して、俺にお使いさせるつもりって、ふざけんな!
「却下じゃ! お前は主を使い走りにする気か? 普通は逆だろ」
大人しいターニャが最近変わってきたと思う。
お菓子を自由に食べさせていたから助長してきたのかな?
それともジーンの影響を受けてきたのか。これはいかんな。
「城下町を散策するのもいいですね」
ジーンにしては普通の意見だ。
偽物じゃないだろうな?
確かめてみるか。
「ジーン、ちょっとこっち来てくれ」
ジーンを手招きで呼んでから、ほっぺをつねる。
「痛いです。いきなり何をするんですかっ!」
そこまで強くつねってないが、ジーンは痛がっている。
「普通の意見を言うから本物か確かめてみたんだよ。お前悪いものでも食べたか?」
「本当にアルマ様は酷いです。乙女心が傷つきました!」
「悪かったって。城下町を散策して、お前が前に言ってたティファのケーキでも買いに行くか?」
「それはいいですね。傷ついた心も癒えると思います」
絶対に傷ついてないと思うが、なにも言うまい。
「城下町の散策でいいとして、ついでにジーンもレイチェルと同じように護衛してくれ。レイチェル不在時にはお前に任せる事になるから練習だ」
「それは素晴らしいお考えと思います」
俺の提案をレイチェルは賛同してくれた。
素直なレイチェルはいいな。
頼むからジーンの影響を受けないで、今のままでいて欲しい。
仲間外れはかわいそうなので、ターニャにも聞いてみる。
「せっかくだから、ターニャも護衛の真似事してみるか?」
「やるっす。うちもやってみたいっす」
なんの琴線に触れたのか鼻息荒く興奮している。動機は知らんがやる気があるのは良いことだ。
「二人ともレイチェルと同じように着替えてきてくれ。レイチェルは手伝ってやれ」
ジーンとターニャにはジーンの部屋でレイチェル指導で騎士の装いに着替えてきてもらう。
待つ事数分。
「どうです?」
女性らしい甲冑を身を包み、マントを付けている様は立派な騎士に見える。
「いいんじゃないか。二人ともよく似合っているぞ」
二人とも満更でない顔して喜んでいる。
「準備も済んだし、行くとするか」
俺は皆を連れて城の外に向かった。
★★★
城門を抜けると、先頭を歩いていたジーンが振り返る。
「アルマ様、安心して下さいね。不届き者にはこの愛剣アルマノセイデスで切り刻みますから」
ジーンが話しかけながら、ショートソードを抜いて空に向かって掲げた。
「お前は余計な事すんなよ。というか、愛剣の名前がおかしいだろ! お前のやらかしが全て俺のせいになりそうで怖いわ。今すぐに改名しろっ!」
コイツの思考回路が怖い。
本当に主って思われているのか不安になる。
「ええーっ! せっかく考えたのに名前を改名しろだなんて、横暴が過ぎますよ」
俺が横暴なの? 違くないか?
「うるせい! とにかくその名前は禁止だ。主の命令だからな!」
俺の命令にジーンは抗議していたが無視だ。
「うちはこの火炎筒で消し炭にしてやります。アルマ様の為にやるっす」
今度はこっちの娘が怖いことを言っている。
背中に大きな筒を背負っていると思ったが、そんな物騒な物だったのかよ。
問題児が多すぎないか?
「ターニャ、お前も恐ろしいことを言うな。それからしれっと俺に責任を擦り付けるな。絶対にそんな物騒な物を町中で使うなよ?」
ジーンとターニャがブーブー文句言っているが、無視だ。無視。
「ふふふっ。皆さん仲がいいですね。楽しそうです。私もついていけるように努力します」
レイチェルは楽しそうって言ってるが、目は大丈夫か?
「待て待て待て。レイチェルはそのままでいてくれ。問題児はこれ以上いらないから」
本当にレイチェルは変わらないでいて欲しい。切なる願いだ。
「ちょっとそれは失礼です」
「ほんとっす」
問題児娘たちが抗議してくる。
「うるさい! お前らは普通じゃなくて変わり者だからな」
「アルマ様には言われたくないっす」
「本当ですよね」
そういわれると思い当たる節があるので何も言えなくなる。
★★★
「誰か助けてーーーー!」
町を散策していると、前方で若い女性の悲鳴が聞こえた。
急いで向かってみると、食事処の店前で若い男が女性の腕をつかみ、3人のゴロツキみたいな男たちが取り囲んでいた。民衆が心配そうに距離を空けて見ている。
「おい、これは何の騒ぎだ?」
女性の腕をつかんでいた男がこっちを見ると驚いている。
慌てて女性の腕を放し、俺の許に近づいてきた。
「アルマ様! これは……。この女が平民のクセに貴族の私に逆らうもので、指導しようとしておりました」
嫌な感じの男だと思ったが、貴族だったのか。
「俺には寄ってたかって女を虐めているようにしか見えん。貴族も平民も役割が違うだけで、国を支える同じ民だ。蔑ろにすることは許さんぞ!」
俺が叱り飛ばしてやったのに、反省する態度はない。
「同じ民と申されましたが、私は国のために働いております。そこらの平民とは価値が違います」
自分の価値を主張してくるが、コイツは全然分かっていない。
「貴様は思い違いをしている。王族だけでは手が回らないから貴族という役割を用意してるだけだ。役職を持っているなら権限を持たせているが、普通の貴族は偉くもない。そのような傲慢な考えを持っているなら貴族としての責務を果たせているとは思えん。キッチリと調査してやる。貴様の代わりなんて幾らでもいるからな」
「クソッ」
都合が悪くなったのか貴族の男は配下を置いて逃走を図った。俺たちに背を向けるように走り去っていく。
逃がすつもりは毛頭ない。
ジーンに指示を出す。
「ジーン、行け!」
「了解です」
ジーンは返事するなり駆け出した。あっという間に追いつき、男を腕を捻って地面に転がしている。
こういう光景を見ると副隊長に任命した頃を思い出すわ。
真面目にやればコイツって優秀なんだよな。
残った男達も逃げ出そうとしたが、レイチェルによって拘束された。
これにて一件落着だな。




