警備局統括隊長と命令違反者
『登場人物説明』
ラルフ:ジェイコブの取り調べを担当していた兵士。下っ端の警備局員
ザドラール:警備局の隊長。上司に警備局統括隊長と局長がいる。
コタロー:わが子同然の猫の使い魔。シルバーキャッツの最高顧問
自室のソファーに腰掛けて今後のことを考えていたら、国王陛下の印が押された封書が届いた。中を改めると紙が1枚入っている。これは辞令書だ。俺を警備局統括隊長に任命すると書いてある。
基本的には独立部隊として活動し、必要に応じて警備局本隊との協力及び情報共有は必須。補佐をする人員は俺の裁量で決めてよいと書かれていた。
下線を引いて『常識の範囲で』と付け足しているのは信用がないんだろうな。
悲しいよパパ。
孫のコタローは見せてやらないからな。猫だけど。
「警備局統括隊長か。兄上から犯罪者の捜査協力をしろと指示されていたけど、役職まで用意してくるとは……。これは何としてでも手柄を立て、信頼回復に努めなくてはならん」
ローテーブルに置いてある焼き菓子を指で摘んで口に運ぶ。うん、うまい。
汚れた指を置いてある濡れタオルで拭いた。
ジーンがソファーの隣に来て、俺にぴったりとくっついた。横から辞令書を覗き見している。
「フムフム、アルマ様が統括隊長ですか。なんちゃって部隊の隊長から出世しましたね」
コイツは失礼な事を言ってきた。
「お前が言うなんちゃって部隊とやらはシルバーキャッツの事か? 副隊長の自覚はないのか?」
任務が少ないからジーンに自覚が足りないのかもしれんが、腹がたつな。
「自覚っていいますけど、たいした実績ないアルマ様のお遊び部隊ですよね?」
コイツ除籍にしてやろうか。最高顧問のコタローも気分を害するはず。知らんけど。
「うるさい。この前犯罪者を捕まえただろ? 心配せずとも、これからもっと実績は積まれる。それとターニャはさっきから菓子を食い過ぎだ」
ジーンと言い合いしている時に、ターニャが菓子を食いまくるから、皿の上にもう殆んどない。
主の菓子なのにコイツは躊躇いなく手を出す。別にいいけどさ。
注意されてターニャがしょんぼりしている。
なんで俺が罪悪感に苛まれないかんのだ。
「そんなに落ち込むなよ。もう全部食べていいから」
「ありがとうっす」
ターニャはさっきと違って満面の笑みを浮かべてお菓子を食べだした。ジーン程じゃないけど、コイツも残念なとこあるよな。
「あんまり張り切ると、私には国王陛下に叱られる未来が見えますよ」
ジーンが不吉な事を言ってるが、俺もそんな気がしている。不安になってきた。
「アルマ王子。心配せずとも大丈夫です。国王陛下に叱られる前に私がお止めしますので」
内扉のそばで外敵から守るように立ち、護衛任務中のレイチェルが自分に任せろと言ってきた。
まだ染まってないから、コイツらと違って職務に忠実なのがいいな。なんか新鮮だわ。
「そうそう。レイチェルに言っておく。お前もシルバーキャッツの一員だからな。最高顧問はコタローだ」
最高顧問は出窓の前でちょこんと座って外を見ている。可愛すぎるだろ。誘拐されないか心配になる。コタローにこそ護衛騎士が必要ではなかろうか。父上に進言したいが、叱られるから我慢するけど。
「アルマ王子。先ほどから話に出ていましたが、シルバーキャッツとは何でしょうか? 勉強不足で申し訳ございません。お手数ですが、ご教授お願いします」
レイチェルの素直な感じはいいねぇ。ジーンなら嫌味が出ていた。
「よかろう。俺はこの国を腐敗しようとする輩を対処したいと考えている。その為の部隊をシルバーキャッツと名付けている。結成して間もないからまだこの場にいるメンバーしか知らないがな」
「素晴らしいお考えです。末席でいいので微力ながらお手伝いさせていただきます」
レイチェルは手を合わせて嬉しそうにし、俺を尊敬した目で見ている。
コイツめっちゃいいじゃん。なんか気分がいいわ。
「ああ、俺が隊長でジーンが副隊長だ。他に役職はないが、うちは実力主義だ。ジーンはアレだから、お前なら直ぐに副隊長になってしまうかもな」
「ちょっとアルマ様酷いです。アレって何ですか! アレって!」
隣に座っているジーンが俺の肩を持って揺さぶってくる。頭が揺れるから止めて欲しい。
「次の副隊長になるっす。そしてご褒美に特大ケーキをもらうっす」
ターニャがやる気を出している。ご褒美を催促してるが、副隊長になるくらい活躍してくれるならケーキなんか安いもんさ。
「私も副隊長に認めて頂けるように頑張ります」
レイチェルも頑張るようだ。
ジーンはターニャとレイチェルの発言に目を見開いて二人を交互に見ている。
「あれあれ? どうして皆さんやる気を出しているんですか? 副隊長は私なんですよ。絶対にこの席を譲りませんからね」
シルバーキャッツのメンバーがやる気を出していると、扉がノックされた。
「アルマ王子はおられますか? ラルフです」
ラルフ? ああ、ジェイコブの事件の時に取り調べしていた兵士ね。あれは犯人が独房で亡くなった。クラウディアという女に乗っ取られてると主張してたが、解明に至らず不完全燃焼に終わった。
レイチェルに指示を出す
「レイチェル、扉を開けてやれ」
「分かりました」
レイチェルは扉を開けてラルフを通すと、違和感なく俺の後ろにすっと移動した。先日まで騎士団にいたのに凄いな。護衛任務したことあるのか今度兄上に聞いてみよう。
「アルマ王子、お久しぶりです」
ラルフが挨拶してきたので、挨拶を返す。
「ああ、久しぶりだな。取り敢えず座ってくれ」
お菓子を食べ終わったターニャが席を開けたので、そこにラルフを座らせた。
「アルマ王子はジェイコブ事件と似たような被害者が発見されたのをご存知ですか?」
「いいや、何も聞かされてないぞ」
ラルフは何か思い当たる事があるのか、辛そうな顔をしている。
「やはりそうですか。私も職場の同僚に教えてもらうまで知りませんでした」
「そんな馬鹿な話があるはずないだろ。お前は警備局に所属してるのだから、情報は直ぐに入るだろ?」
「アルマ王子が活躍した事を隊長がよく思ってないそうで、一緒に担当していた私も印象悪く、今回の件から外されたみたいです」
「隊長の個人的感情でお前を外すのは愚か過にも程がある。似たような事件なら戦力になりそうな人材は有効に使うだろ。そいつは馬鹿なのか?」
「野心家みたいで、今回は自分の手柄になるように動いているみたいですよ」
「そいつは今どこにいるんだ?」
「警備局で事件の対策会議をしているので、そこにいますよ」
「これは本人を咎めるしかないか。ジーンとターニャは留守を頼む。ちょっと行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませ」
「行ってらっしゃいっす」
二人は緊迫した空気を感じたのか、わがまま言わずに見送ってくれた。
俺はレイチェルとラルフを引き連れて、警備局隊長がいる会議室に向かった。
★★★
ラルフの案内で会議室までたどり着いた。
俺たちがいきなり部屋に入ってきたので、周りがざわついている。
俺に近づいてくる偉そうな男がいた。コイツがザドラールか。
切れ長で鋭い眼光で此方を見た後に、卑屈な笑みを浮かべて歩いている。小太りで突き出た腹が醜い。
なるほど、権力者すり寄り、弱者に強気な野心家に見える。
「これはアルマ王子。なんの御用でございますか? 大事な会議中ですので、関係のない方には退出して頂きたいのですが」
コイツは俺に出て行けと言ってきている。ジーンと同じくらい生意気だ。ジーンは許せるけど、コイツの態度は許せん。
「関係がないだと? お前は俺の役職を知っているだろ?」
立場上、俺が就任したことは知っているはずだ。
「ええ、もちろん知っております。警備局統括隊長に就任されたそうで、おめでとうございます」
俺の就任を知らなかった一般兵達からのざわつきは大きくなる。隣にいるラルフも目を見開いている。
「なぜ俺を会議に呼ばなかった? お前の上司だぞ」
「なぜと申されましても、失礼ですが王子はお飾りの役職じゃないですか。お手を煩わすなど出来ません」
「俺では役に立たんと申すのか?」
「ええ、王子は無能と言われているお方ですからね。はっきり言うと迷惑です。私から助言するとすれば、ご自分から廃嫡を申されてはどうです?」
「貴様っ!」
レイチェルが剣を抜き、ザドラールに切りかかろうとした。
「ひぃぃ」
ザドラールが悲鳴を上げた。
「レイチェル、止めろ!」
手で制してレイチェルを止める。
自分が切られると思ってなかったのか、ザドラールは完全にビビッている。
ザドラールは隊長とは言え、警備局の人間だ。
警備局は騎士団に成れなかった者たちの集まりだから、この場においてレイチェルより強いものはいない。
「わ、私はディナン様に重宝されています。私に危害を加えようとしたことは報告しますから。アルマ王子だってディナン様には逆らえませんよね?」
下種な笑みを浮かべたザドラールは勝ち誇った顔をしている。
レイチェルが悔しそうに歯を食いしばっているが、心配しなくてもいい。
俺はコイツに引導を渡すことにした。
「ふっ、お前は思い違いをしているな」
「私がですか? そんなはずは……」
ザドラールは理解できていない顔をしている。
拳を握り手を突き出し、人差し指を立ててから説明をしてやる。
「一つ目、王族は国の象徴である。国に住む民、ましては王家に仕える者が王族に暴言を吐くことは軽い罪ではない。陰口程度なら見逃されるが、貴様が俺に言った言葉は見逃すことはできん。嫌なら暴言を吐く前に他国に移ればよかったのだ」
国があるから民が安心して生活できる。民が支えるから国を運営できる。どちらも大事だ。
王子に面と向かって暴言を吐く馬鹿がいるとは嘆かわしい。
ザドラールは理解したのか、強気な態度が鳴りを潜め、顔色が悪くなってきている。
次に中指も立てた。
「二つ目、一時的かもしれんが、俺はお前の上司になる。個人の勝手な判断で上司に報告しないのは職務放棄になる。更にいうと、警備局に務めている者が職務放棄するということは、国民の信頼を失う行為だ」
いくら俺の事が嫌いでも情報共有は必要だと分からんもんかな。
ラドザールの顔色はどんどん青ざめていく。
最後に薬指を立てた。
「三つ目、お前は兄上に重宝されているというが、国王陛下が俺を上司に任命した。お前は陛下の決定に逆らい、王族である俺の職務を妨害して暴言を吐いた。これは国賊に相応しいと思わないか? 兄上の信頼を失うだろう。お前の罪は軽くないし、事態を知った兄上がお前を庇うことはあり得ない」
説明を聞き終えたザドラールは膝から崩れ落ちた。
コイツはこれでいいとして、他の連中にも言っておくか。
座って話を聞いている隊員達に振り向いてから警告する。
「この際だからお前らにも言っておく。俺のことをどう思うかなんてどうでもいい。しかしに王家に仕えるのだから、国に背くことがないように重々気をつけろ。でないとコイツみたいに処刑されるぞ」
俺の言葉にザドラールは目を大きく開いて驚いている。
「わ、私は処刑されるのですか?」
傲慢な態度は見る影もなく、完全に怯えて委縮している。
「当たり前のことに何を驚いているのだ? どう考えてもお前が犯した罪は処刑しかありえない。そんな簡単な事が分からずに警備局の隊長を務めていたのか。隊長が無能なのか、全体的に能力が低いのか分らん。全警備局員は二度と過ちを犯さぬように教育をした方がいいかもしれない。陛下に報告しておこう」
側で控えていたラルフに指示を出す。
「ラルフ、コイツを牢に放り込んでおけ」
「アルマ統括隊長、了解しました」
ラルフは俺に敬礼してから、ザドラールを拘束する。
近くいた兵士に頼んで一緒に奴を連行していった。
さて俺は父上に報告してくるか。
やれやれ、就任早々に前途多難だわ。
今回はいつもの2話分くらいのボリュームでした。




