流れ者の帰る場所 — 五大陸各地、封印修復から数週間後 —
〈灰の玉座〉から地上に出たあと、パーティーはそれぞれの大陸へ戻ることになった。
当然のことだ。アレンは勇者として王国に報告しなければならない。シアは魔法士長としての仕事がある。エルは長老のもとへ、ゴルドは山脈国の工匠たちのもとへ。テオは騎士団への正式な復帰がある。
解散の朝、ヴァルネスの城門で六人は向き合った。
◆ ◆ ◆
「……これで終わり、というわけじゃない」アレンが言った。「封印は起動した。でも、本当に必要なのはこれからだ。五大陸が、新しい均衡をどう使うか」
「五大陸の代表者の合意」シアが言った。「カイが取引で求めたものだ。まだ実現していない」
「だから——」アレンはリンを見た。「また集まる必要がある。今度は、剣を持ってじゃなく」
リンは少し考えた。
「呼ばれたら来る」
「それだけ?」シアが少し笑った。「……でも、それで十分だ。あなたらしい」
エルが一歩前に出て、リンに小さな包みを渡した。
「シルヴァニアの種です。どこに行っても、植えれば銀色の葉をつける木が育ちます。……あなたが流れ者をやめる日が来たら、植える場所の目印にしてください」
「やめる予定はない」
「知っています。だから、やめなくても持っていてください」
リンは包みを受け取った。
ゴルドが無言で、もう一つ環をリンに渡した。最初のものより一回り大きく、精緻な細工が施されている。
「予備だ。前のが壊れたら使え。……それと」ゴルドは少し言いにくそうにした。「世話になった。それだけだ」
「礼を言うのは私の方だ」
「いいから受け取れ」
テオが姿勢を正し、深く頭を下げた。
「リン・クロウ殿。この度のご助力、騎士団を代表して——」
「テオ」
「……はい」
「肩書きはいらない。また会おう、でいい」
「……はい!」
テオは少し涙ぐんでいた。誰もそれを指摘しなかった。
◆ ◆ ◆
最後に、アレンがリンの前に立った。
「報酬の話だが」
「いらない」
「待て、最後まで聞け」アレンは苦笑した。「金貨三千枚は、用意してある。受け取れ。それと——もう一つ」
アレンは懐から一枚の紙を取り出した。アルダ王国の紋章付きの書状だった。
「これは、五大陸全土での通行許可証だ。どの国境でも、これを示せば止められない。……あなたは流れ者だ。だから、流れることを楽にするものを贈りたかった」
リンは書状を受け取った。しばらく見て、それから懐にしまった。
「ありがとう」
短い言葉だった。だがアレンには、それで十分だとわかったようだった。
◆ ◆ ◆
五人がそれぞれの方角へ歩き出した。
リンはカイと並んで、城門に立っていた。
「姉さんは、これからどうするの」カイが聞いた。
「流れる」
「うん、そう言うと思った」カイは笑った。「俺は、しばらくここに残る。術式の安定を見届ける必要がある。それに——」少し声を落とした。「陛下のことも、まだ気になる」
「あの男のことか」
「うん。三百年分、急に背負ってきたものを下ろしたら、その後どうなるのか——俺も初めて見ることだから」
リンは少し考えた。
「お前が見るなら、安心だ」
「……姉さんがそういうこと言うの、珍しいね」
「珍しくしているわけじゃない」
カイは笑った。三年前と同じ笑顔だった。だが今は、その笑顔の意味が、リンには少しだけわかるようになっていた。
◆ ◆ ◆
城門の前で、カイがもう一度言った。
「姉さん。今度は手紙、書くよ。ちゃんと」
「『心配しないで』以外で頼む」
「……それは三年前の話でしょ」カイは少し赤くなった。「もっと長いの書くから」
「楽しみにしている」
リンは背を向けた。大剣を背負い、グラウン連邦方面への道を歩き始めた。
数歩進んで、振り返った。
カイが見えた。ヴァルドレスが城の前に立っているのも見えた。遠くにアレンたちパーティーの姿も見えた。
全員が、それぞれの場所にいた。
◆ ◆ ◆
数週間後、傭兵都市ガルダ。
リンは見慣れた酒場の扉を開けた。木床はまだ乾いた血と砂で覆われていた。何も変わっていない——そう思った瞬間、カウンターの主人が驚いた顔をした。
「……リン・クロウか。生きてたのか」
「水を」
「それだけか。北で何があったんだ。アルダの紋章持った男が探していたあの件——」
「終わった」
主人は少し驚いた顔をしたが、それ以上は聞かなかった。水杯を滑らせた。
リンはカウンターの端に座り、水を飲んだ。窓の外を見た。傭兵都市の喧騒は変わらない。だがリンの懐には、エルフの種と、ゴルドの環と、アレンの通行許可証と、テオの敬礼の記憶と、シアの最後の笑顔と——そしてカイの「また会おう」が入っていた。
左手の傷跡は、もう疼かない。
温かいだけだ。
リンは水を飲み終え、コインを置いた。
「仕事があるなら聞く」
主人は少し笑った。
「……戻ってきたんだな」
「流れているだけだ」
それでも、リンの口元は——第一話のときよりも、少しだけ緩んでいた。




