23・イセの命を守るには
その夜、白生は父の友人が借りている
マンションで父、川路源平に会った。
父の家でも白生の家でもないが、用心に
越したことはない。
ここへ着くまで尾行されていないか注意
しながらやって来た。
「パパ久しぶり。状況は掴んでくれてるよね」
なかなかオシャレな部屋だ。
大きなカウンターがありその前には座り
心地の良い椅子が五脚並んでいる。
白生が到着した時にはすでに川路はその
椅子の一つに座っていた。
「掴んでるよ。紅苑ちゃん、なんとか元気
みたいで安心したよ」
今日の紅苑との小声でしたやり取りを
白生は簡単にもう一度話した。
「そのイセとかいう男。仲間に殺られる
かもな」
「紅苑は阻止したいって言ってた。
何にもしてないのになんで惚れられるん
だろなあ、あいつ」
「そりゃ紅苑ちゃんが可愛いからだろ。
白生くんもな。二人とも俺に似てさ」
どちらかといえば白生と紅苑は母親似
だったが、白生は逆らわずにうんうん、と
頷いて見せた。
ちょっとしたBARのような造りの部屋。
酒が飲みたくなるよな、と言いながら
川路は手帳を取り出してペラペラ、と
めくった。
「バングル社での役職で寺東よりも上、と
なると限られてくる。社長か会長だな。
でもこの二人がBOL社に噛んでるとは
考えにくい」
「なんで?」
「あんな危険を犯してまで金儲けする必要が
ないからだよ。義理立てとかでも
なさそうだし」
「なるほど。じゃあ上の人間、って
外部かな?」
と、言ったものの正直外部も考えにくい。
BOL社に間借りまでさせているので
バングル社内部の人間と見て間違いない。
それにしてもバングル社はBOL社の仕事
内容が人身売買だと知っているのか。
「本牧の倉庫も調べたけど寺東が借りていた」
「その上の人間とやらは全部寺東にやらせて
たんだな。
だから榊も上の人間に会ったこともないって
言ってた。寺東が一番上だと思ってたって」
上の人間には寺東の死は大ダメージだったの
だろう。
手足として全てのことをやっていた寺東
亡き今、鳥居か本堂を寺東の後釜に
するしかない。
プロジェクトは途中でやめられないのだ。
「寺東の上…誰なんだろ。パパにもわかん
ないか」
「まあ、消去法でいけば浮かび上がるけど
確信はない。バングル社での役職が関係して
くるかどうかもまだ読めない」
「今日俺に本牧に行け、って言ったのも上の
人間らしい。寺東の代わりにね」
なぜ自分だ?というモヤモヤはまだ白生の
中から消えていなかった。
視察に行くのが白生でなければならなかった
理由。鳥居や本堂や榊ではなく、なぜ。
「あ」
「どうした白生くん」
「俺、疑われてるんだ」
「どういうことだ?」
寺東は紅苑と白生の関係を疑っていた。
そして今回白生を紅苑に会わせたのは
いわゆるBOL社で一番上の人間。
まるで寺東が生きているかのような動き
だった。
寺東がいたなら確実に白生に視察させて
いただろう。
「髪の毛抜かれたんだよ。なんかついてる
とか言って」
「へえ」
「あの倉庫にはもちろん紅苑の髪もある。
DNA鑑定とかするんじゃね?」
白生と紅苑の髪を一緒に送り、鑑定する。
黒だったら白生は殺されるだろう。
そして紅苑を売りに行く仕事は…
「…」
紅苑を売りに行く仕事は榊が代わると
言っている。
白生はもうすでに疑われていたから髪の毛を
採取されるために本牧の視察に行かされた。
付き添い人を解雇されたのももしかしたら、
「確実に紅苑を売らないとならないからな」
「向こうも必死だぞ。どんだけの金が
入るんだろ。紅苑ちゃん高そうだよね」
「高くなかったらパパ怒りそうだな」
あと6日後には紅苑は売られていく。
とりあえず、疑われている白生が故意に
一線から外されたことだけはわかった。
夜は交代で紅苑の部屋のモニターを監視する。
監視とはいえ、紅苑はおとなしく眠っている
だけなので寝ずの番もついうとうと、として
しまうのだが。
白生が視察に来た夜は本来ならばイセが
当番だったが、イズモは交代を申し出た。
紅苑を襲ったのは夕方だ。ほとぼりが冷めて
いないイセに任せるわけにはいかなかった。
「何言ってんだよ。もう大丈夫だよ」
ニコッと笑ったイセはもういつものイセの
目だった。
寺東のように、紅苑しか見えていない目では
なくなっていた。
イズモはそれに安心したが、やはり
今夜だけは自分が寝ずの番をした方が良いと
判断した。
「お前、昨日も当番だったろ?寝不足で
倒れるぞ」
「じゃあカスガに、」
「そんな信用ねえか?もし、モニター見てて
紅苑になんかあったら俺は部屋には行かずに
お前らを起こすから。俺がやるよ。
健康第一だぜ?」
信用ないか?と聞かれるのが痛い。
今まで三人でずっとこの仕事をしてきた。
いや、小さい頃からずっと一緒にいたのだ。
お互いを信用しないと仕事は成り立たないし、
できる限り信用したかった。
何が起こっても紅苑の部屋には行かない、
と言ったイセをイズモは信じることにした。
ここを乗り越えたらまた以前のように
戻るのだ。
イズモはもう一度探るようにイセの目を
見つめる。
真っ直ぐに伸びてきた視線はいつものイセの
目だった。
「わかった。寝かさせてもらう。頼んだぞ」
「おう。悪いけど紅苑になんかあったら
遠慮なく起こすからな」
イズモが笑って頷く。
イセは大きめのマグカップに淹れたコーヒーを
飲んでモニターを見つめた。
紅苑は父と白生の話し合いの内容を頭の中
でいろいろと整理していた。
そんな紅苑は監視カメラからは眠っている
ように見えているだろう。
スッと目を開けて壁掛け時計を見ると、
もう深夜二時近くになっていた。
こんな時間なのにピー、とドアが開く音が
聞こえた。
イセが来てしまったのだとわかった紅苑は、
はあ、と小さくため息をついた。
夕方、イセは紅苑の中に挿れることが
できなかった。
だから余計に気持ちが昂っているのだろう。
しかし最後までヤらせていたとしても
結果は同じな気もするが。
せっかく足音を立てずに部屋に入って来た
のに、イセの荒い呼吸はうるさいぐらいだ。
それでも紅苑は素知らぬ顔で寝たふりをした。
閉じたまぶたの裏に、ふと寺東の顔が浮かぶ。
気狂いな感じでまた叫んででもイセを阻止
しよう、と紅苑は考えていた。
イセがフットライトを消す。
目を閉じている紅苑も真っ暗になった
部屋を感じた。
今モニターには暗闇しか映っていないだろう。
イセは気持ちが溢れて来てしまったのでは
ない。確信犯だ。
イセは掛け布団をめくり、それをそっと
ベッドの下に落とした。
紅苑の口に持って来たタオルを噛ませて頭の
後ろで強く結ぶ。これで紅苑は叫ぶことが
できなくなってしまった。
こんなことをされてまでさすがに寝ている
のはおかしいので、紅苑はうっすらと
目を開けた。
しかしイセは紅苑が目を開けたことにさえ
気づかず、必死で紅苑の服を脱がせて自分も
脱いだ。
はあはあ、というイセの呼吸だけが響く。
紅苑の胸を弄りながら顎から首に熱い舌を
這わせた。
「んん」
「お前が悪いんだ。こんな体してるから」
薬が効いてるフリをしないとならない紅苑は、
夕方襲われた時と同じく、もそもそとするだけ。
口を封じられたので叫ぶこともできない。
しかし叫んだとしたらイセはどうなるのか。
一発殴って気絶させてやろうかとも考えたが、
そんにことをすれば薬が効いていないことが
イセにバレてしまう。
イズモもカスガもイセの言うことの方を
信じるだろう。
ここを追い出されてしまったら今までの白生や
父の努力が水の泡だ。
しかしこのままではイセは…
今夜のことがイズモとカスガにバレなかったら、
イセはまた来る。
なんとか阻止しなければ。
自分の身とイセの命を守るためにも何とか。
しかし阻止するだけではダメなことに紅苑は
気づいた。あと6日もあるのだ。
イセがここへ通ってきたとしたらそのうち
バレてしまうだろうし、寺東のように紅苑が
ここを出る時にイセが何かしでかすかも
しれない。
どうしたらいいのだろう。
汗を垂らしながら必死で紅苑の体に
むしゃぶりついているイセを見ながら
紅苑は必死で考えていた。
こんな心配はイセには届かない。
無我夢中のイセは紅苑をうつ伏せにして尻を
上げさせ、大腿によだれがつたい落ちるほど
舐めていた。
顔をマットに押し付けられた紅苑のさるぐつわ
がだんだんとズレてきた。
叫べる状態にはなったが、今叫ぶとここで
イセは殺されるだろう。
必死に尻を舐めているイセに聞こえるかは
わからないが紅苑は思いきって声を出して
みた。




