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21・体に狂わされる






夕食が終わると薬を注射をされる。

その後に躾もされた。


もう紅苑ぐえんは名前を呼ばれたらイヤーカフを

すぐに外して口に入れ、強く噛むことが

反射的にてきるようになっていた。


その代わりほとんど話すことをしなくなった。

一人の時間はベッドに寝て目を閉じている。


見張り番の三人からはおとなしくしている

ように見えるのだが、紅苑は白生しろうのマイクから

聞こえる音声をじっと聞いていた。


さかき…」


白生を守ろうとしてくれるのはうれしいが

白生が現場に来ないのは痛い。


配達員という名の付き添いの仕事を降ろされた

としても白生はこっそりと着いてくるとは

思うが、それでは大胆に動けない。


「白生」


紅苑は榊が帰ったのを確認して白生を呼んだ。


「聞いてたよ。困った展開になったな」


「マジそれな。てかさ、なんで榊は今回で

この仕事が最後だって思ってんだろ」


「そこも変だよね。なんかありそうな

気がする」


「紅苑もか。俺もだ」


榊から鳥居とりい本堂ほんどうに言っておく、と言って

いたが、あの二人が本当に白生がケガをした

と信じるだろうか。


「探り入れてもいいかな」


「いいんじゃない?鳥居か本堂にだろ?」


「そうそう。ケガしたことにするって

榊は言ってたけど、軽いケガならバングル社の

仕事には行けるよな。

よし。榊に気づかれない程度に探るわ。

そっちはどう?」


紅苑は唇を動かさずに微かな声で話す。

部屋には監視カメラがあるがもちろん

気づかれていない。


一日のほとんどをベッドで過ごしているから

退屈だ、と紅苑は白生に言った。


「躾も終わったし。もうすることないん

じゃない?今はメシ食って寝てるだけだよ。

見張り番の三人はBOL社のことはホントに

何にも知らないみたい。

ただ言われたことをやってる」


「今ってさ、寺東てらとうの上にいるとされる人物

からの指示なのかな。

それとも鳥居の指示に従ってるんだろか」


「その辺もうちの見張り番トリオから

探れたら探るわ。

あいつらはもう俺が完全に廃人になったと

思ってるから。そろそろ動けそうだし」


白生は他のメンバー、紅苑は見張り番の

三人からあと一週間でさらに証拠集めを

することにした。


証拠はあればあるほど良いのだ。



そして紅苑ぐえんが売られるまでのラスト一週間が

スタートした。

朝食が終わり、いつも通り注射をされる。

その後に名前を呼ばれた紅苑は耳から

イヤーカフを外して口に入れ、強く噛んだ。


「何にもしゃべんなくなったな」


「こいつ、暴れないからホント楽だ」 


「あと一週間もいらねえんじゃないか?」


イセ、イズモ、カスガの三人が話しながら

紅苑の部屋を出て行った。


座っていた紅苑はよたよた、とベッドに戻る。

常に力が入っていないように見せるのも

なかなか大変だ。


頭まですっぽりと布団を被る。そしてベッドの

端からそっと抜け出した。



いつも紅苑か朝食をすませてから見張り番の

三人は朝食をとる。


あと一週間を切った。そろそろなにか重要な

話でもしれくれればいいのだが。


モニターからは紅苑が布団を被って眠っている

みたいに見えているだろう。

紅苑はテンキーを解除して部屋の外に出て

ダイニングを目指した。


ダイニングの入り口は開けっぱなしだ。

風呂に行く時もトイレに行く時もチェック

していたが常に開いていた。


紅苑は壁にピタリを身を沿わせて中の声に耳を

澄ませた。


「今日か明日、来るんじゃねえの?」 


「誰くるんだろ。寺東さん死んじゃったしな」


どうやら近々BOL社の人間が様子を見に

来るようだ。

会話の内容から判断すると今までは寺東てらとう

ここに来ていたらしい。


白生しろうはなんにも言っていなかったのでさかきでは

なく鳥居とりい本堂ほんどうが視察にくるのだろう。


後はくだらない話をしながら三人は朝食を

食べ終えた。


紅苑は見つからないうちに部屋に戻り、

ベッドの端からまた布団の中に潜り込んだ。



いつもは夕飯を食べた後なのに、この日は

先にイセに風呂に入れられた。


「今日は後でお客が来るからな。先に風呂だ」


目の合わない紅苑にそう言い聞かせたイセは

タオルにボディソープをつけた。


紅苑は商品だ。粗末に扱ったりしたのが

バレたらもらえる金を減らされるのだろう。


常に清潔にして栄養のある食事を与える。

もちろんケガなどさせてはならない。


逃げないよう、という目的ももちろんあるの

だが、部屋から風呂とトイレ以外出さないのは ケガをさせないためでもあるのだ。


イセはいつもより丁寧に洗おうと、紅苑の首に

まとわりついた髪を指で後ろに流す。

伸びた襟足の髪は濡れていて、なかなか言う

ことをきかない。

イセは何度も紅苑の首に指を這わせて

髪を退けた。


その時、はあ、と紅苑が大きな息とともに声を

漏らした。


最近は全く話さなくなっていたの紅苑の声に、

イセは驚いて紅苑を見たが、目を伏せている

ので目は合わなかった。


「なんだよ。そんな声出して。

気持ちいいのか?」


気持ちいいわけねえだろ。お前がもたもた

してるからあきれてるんだよ、と紅苑は

言いたかったが、廃人のふりをしなくては

ならないので無視をした。


イセは風呂場の天井を見上げる。紅苑の部屋

以外には監視カメラはついていないのに、

なぜかキョロキョロとしていた。


今まで何人いたか忘れるほど監禁してきた。

その度に自分で風呂に入れない商品を風呂に 

入れるのがイセの役目だった。


イセは見張り番の三人の中で一番ガタイがいい。

暴れられた時に一人でも対処できるように

風呂係はイセがしていた。


女の裸も何度も見てきた。興奮しなかったと

いったら嘘になるが、頭のどこかで

【これは商品だ】と割切っていた。


しかし紅苑は男なのになぜか最初から興奮を 

抑えるのに苦労していた。


理由はわからないが肌の美しさだろうか。

男なのにしなるような美しい曲線から

がんばって目を逸らし続けてきたが、

今の漏れたみたいに艶っぽい紅苑の声に

イセの中で何かが爆ぜた。


紅苑を抱き上げて自分の膝の上に乗せる。

ちょうど目の前に来た美しいカタチの胸を

下から舐め上げた。


「ん、」


今度は生理的に声が出てしまった紅苑は、

ヤバイ、と思ってすぐに口を閉じた。


抵抗したいが機敏に体を動かしてしまうと

薬が効いていないことがバレる。 

身をよじるぐらいしかできない紅苑を見て

イセはハアハアと荒い息を繰り返していた。


イセは紅苑がよがっていると思っているの

だろう。

風呂の床に紅苑を押し倒して上から乗る。

もそもそ、と動く紅苑を押さえ付けて全身を

舐め回した。


股の方にイセの顔が移動して行く。

イセに体を差し出してもなんの利益もない。

見張り番は三人揃ってこそだ。


ヤらせ損になるのは本意ではない。

それに寺東に抱かれたままの体でもうしばらく

いたいという切ない思いもあった。


「じっとしろ」


身をくねくね、とさせる紅苑を逃がさない

ようにイセが大きな手でガッシリと掴む。


イセはもう止まらなかった。紅苑の抵抗が

気持ちよくなっている仕草だと勘違いしている

イセのモノは痛いほど反り立った。


紅苑の足を抱え込んで開かせて自分のモノを

挿れようと、グイと押し付けた。


「あぁ、」


紅苑が眉間にシワを寄せる。それさえも

感じていると誤解しているイセは紅苑の顔を

舐めながら、自分のモノに手を添えて中に

押し込もうとした。


「クソが」


思わず声が出てしまって焦ったが、イセの

荒々しい呼吸が紅苑の声を消した。


紅苑は力いっぱい足を閉じる。興奮している

イセは紅苑の機敏な動きを変だとも思わずに

足を再び開かせようと必死だ。


押さえつけられた体も痛いし、掴まれている足も痛い。

紅苑はだんだんと腹が立ってきた。


風呂のすぐ近くはダイニング。

紅苑はすーっ、と大きく息を吸い込んだ。


「たすけてーーー!!!!

たすけてーーーー!!!」


わざと呂律が回っていない感じで叫ぶ。

イセは慌てて紅苑の口を塞ごうとして手で

押さえた。



「ん?なんだ?風呂からか?」


ダイニングテーブルに座っていたカスガが

バッ!と立ち上がる。

風呂からただならぬ叫び声が聞こえたのだ。


「今イセが紅苑を風呂に入れてるはずだけど」


カスガはキッチンで夕食の支度をしていた

イズモとともにダイニングを飛び出して、

すぐ近くにある風呂のドアをバン!と開けた。


「…」


カスガとイズモは風呂の入り口で固まった。


白く立ち込める湯気。その中で下着を脱いで

全裸になったイセが紅苑に覆い被さっていた。


商品を風呂に入れる時は服を着ていたら

濡れてしまうのでパンツ一丁になる。

しかしイセはそのパンツを履いていなかった。


「たすけてーーー!!」


イセの手から自分の口をずらして紅苑はまた

叫んだが、イズモとカスガとは目を合わせない

ようにして黒目を泳がせて廃人の演技をした。


二人が来たことにイセは気づいていない。

紅苑の足を開かせようと必死だ。

紅苑の白い体とイセの黒い体があちこちで

絡まりあっていた。


「イセ!」


カスガがそう叫んで風呂場に入る。イズモも

それについて行き、二人でイセを紅苑から

引き剥がそうとした。


「なにやってんだよ!

手は出しちゃダメだろ!」


「イセ!ほら!離れろ」


三人の中で一番ガタイの良いイセだが、二人の

力であっさりと紅苑から離されてしまった。


「なにすんだよ!放せっ!」


「お前こそ何やってんだよ!」


イセは必死で紅苑の上に戻ろうとする。

イズモとカスガがそんなイセを引きずって

風呂場を出て行った。


残された紅苑は床に寝転んだまま天井を

見ていた。


この一週間何にもしてこなかったのにいきなり

なんなんだろう。


イセにムカついているとカスガが戻って来た。


「寒くないか?」


出しっぱなしのシャワーのおかげで寒くは

なかったが紅苑は返事をせずに天井を見ていた。


カスガがタオルで紅苑の体を拭いて

着替えさせ、テキパキとドライヤーで髪も

乾かした。


「イセのヤツ、どうしたんだ。ってあんたに

聞いてもわかんないよな。

ちくしょう、よりによってなんでこんな日に」


視察が来る日になんで。

自分たちまでとばっちりを食うかもしれない。 


カスガはブツブツ言いながら紅苑を部屋に

連れて行った。


飲み物を飲ませてベッドに寝かせる。

目を閉じた紅苑を残してカスガは部屋を出た。


ダイニングテーブルには頭にタオルを乗せた

イセが唇を噛んで座っている。


その前に座っているイズモが入ってきた

カスガを見て、はあ、とため息をついた。


「つい出来心だってよ」


「出来心?イセ。紅苑は男だぞ?」


今までここに来た女たちとはそういった

トラブルなどなかったのに。

イセがゲイではないことを知っているイズモと

カスガには何が何だかわからなかった。


「すまん」


「まあ、仕方ない。

これは俺たちだけの秘密だ。

もう二度とするなよ」


「わかった。マジですまん。どうかしてた」


そう言ってはいたが、イセの頭の中には紅苑の

裸体がこびりついていて離れていかない。

今すぐにでも紅苑の部屋に行き、続きをしたい

ぐらいだった。


しかしイズモやカスガに迷惑をかけるわけには

いかない。


イセは深呼吸を繰り返して自分を落ち着かせた。


「幸い紅苑は話せないからバレない…

でもさっき助けてって言ってたよな?

呂律は回ってなかったけど」


「紅苑もよっぽど怖かったんだろよ。

こんな大男に上から乗られて犯さそうに

なったんだ。

火事場のクソ力ってヤツだよ」


モニターの中の紅苑は眠っている。 

おとなしい紅苑があんなに大きな声を出した

のは恐怖でパニックになっていたからだろう。


出来心、とイセは言ったが、イズモとカスガの

脳裏に紅苑を助けようとして離れなかった

寺東の姿が蘇っていた。


途中でやめさせたとはいえ、紅苑の体を

味わってしまったイセも寺東のようになるの

だろうか。


「イセ」


イズモの低い声に、カスガも頷いた。


「マジで二度とするなよ」


「…わかってるよ」


これまで三人でやってきたのだ。金を貯めて

夢を叶えるために三人でこんな仕事をしてきた。


こんなことになるのは寺東だけでじゅうぶんだ。

もう誰も失いたくない。


イズモとカスガは顔を見合わせて大きな

ため息をついた。




昼休みに白生しろう本堂ほんどうに呼び出された。


辺りを確認しながら最上階の隠し部屋に

向かう。

部屋の中にいたのは本堂一人だけだった。


「すまないね。市川いちかわくん」


「いえ」


頭を下げた白生は本堂の正面に座る。

鳥居とりいと違って本堂は見た目も穏やかで話し方も

優しい。

どういう経緯でメンバーになっているのかは

わからないがBOL社には相応しくない人物だ。


「悪いけど今日仕事が終わったら本牧まで

行ってほしいんだよ」


「本牧ですか?」


「これ地図ね。渡せないから覚えて」


地図をじっと見ている白生に本堂は車の鍵を

渡した。


「ここに川路紅苑かわじぐえんがいるんだよ。

見に行ってもらって、体に傷があるかどうかと

受け答えができるかを確認してきてほしい。

車は公園の隣のパーキングに停めてあるから。

それを使って」


「わかりました。でも、僕でいいんですか?」


寺東てらとうの仕事だった視察。鳥居や本堂、そして

さかきもいるのになぜ白生が行かされるのか。


白生にとっては都合の良い話だが。


「上からの指示でね」


「はあ」


「明日報告を受けるから申し訳ないけど

明日また昼休みにここに来て」


「わかりました」


本堂に地図を返し、白生は隠し部屋を出た。

上から、ということは寺東の上の人物からの

指示なのだ。


そいつがこの人身売買を始めるにあたって

寺東を引き入れ、鳥居、本堂、榊を入れた。


紅苑ぐえんを売りに行くまでにその正体を突き止め

なければならない。

揃えた証拠にはその人物に関するものは

今のところ一切ないのだ。


仕事を定時で終わらせた白生は、近くの

駐車場に向かい車に乗り込んだ。













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