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19・見張り番との監禁生活






神奈かんなが監禁されていたところもこことは

違う場所だったが、神奈を追いかけていた

見張り番が三人いた。


ということはここにも三人いるのだ。

場所は違えどこの三人は神奈と皐月さつきの時と

おそらく同じ人物だ。


「カスガは?」


「服を片付けに行った。明日燃やす」


「薬は?」


「まだ。今着いたばっかりだろ」


どうやら紅苑ぐえんの服は処分されてしまうらしい。

よくよく考えたら服や財布を置いておくなど

証拠を残すようなものだから処分されて

当たり前なのだ。


服を持って部屋を出た男はカスガ。

今入って来たこの男にも名前があるのだろう。


「薬、準備してくるわ」


「頼む」


紅苑を着替えさせた男が出て行った。

この部屋に常に誰かがいるのだとしたら

面倒な話だ。


何も調べられないし、動けない。

紅苑の髪につけたマイクから白生しろうや父に

嗅ぎ取ってもらうしかないのだ。


またガチャ、と音がして誰かが入って来た。


「あれ、イズモは?」


「薬取りに行った」


「入れ違いか。そろそろメシの支度をして

ほしいのにな」


紅苑を着替えさせて薬を持ってくると言って

いたのがイズモ。

そしてイズモに食事の支度を頼みたいと言って

いるのがカスガ。


店まで迎えには来なかったが、今紅苑のそばに

いるこの男がリーダーっぽい。


しかしイズモとカスガがこの男に敬語を使って

いないことから、そこまでこの三人には差は

ないみたいだ。


目は開けられない紅苑はいろいろと考えを

整理する。

三人のことを覚えようと集中していると、

イズモがまた部屋に入って来た。


イズモは銀のトレーをベッドの上に置いて

紅苑の腕をアルコールのようなもので拭いた。


飲み薬なら飲まずに吐かれたら意味がない。

確実に廃人にしていかなければならないので

注射で薬を入れるのだ。


上腕にチクッとした小さな痛みが走る。

皮下注射だ。

覚醒剤は静脈注射の方が効果が高いとされる

ので覚醒剤ではないみたいだ。

単に跡を残さないためかもしれないが。


覚醒剤以外で依存しなくて確実に精神を

破壊する薬。

紅苑にはパッとは思いつかなかった。


「目を覚ますまで俺はここにいる」


「頼む」


「イズモ。メシの支度を頼んだぞ」


紅苑のそばにいる男がそう言うと、イズモは

トレーを持って部屋を出て行った。

残った男は、捲り上げた紅苑の袖を下ろして

自分の携帯を見た。


紅苑ぐえんか。変わった名前だな」


これから名前を呼んだら毒を飲む、という

ことも仕込まなければならない。

男なのでヘアゴムをつけられない。

なんらかのアクセサリーがいいようだ。


30分ほどしてイズモが入って来た。

食事を乗せたトレーを持っているイズモは

紅苑を見て首を傾げた。


「まだ寝てんのか。

そろそろ起きるはずなのに。

薬飲ませすぎたのかな」


「かもな。それにしても眠りが深い」


「代わるわ。イセもメシ食ってこいよ」


紅苑のそばにいたリーダー格のこの男はイセ。


イセはううん、と言って食事の乗ったトレーを

イズモから受け取った。


鳥居とりいさんに紅苑の様子を連絡しないとだから」


「…そうだな。

寺東てらとうさんは、もういないもんな」


ため息をひとつ吐いたイズモが部屋を出て行く。

二人の会話を聞いていた紅苑は、そろそろ目を

覚さないといけないことを悟ってゆっくりと

目を開けてみた。


「…ここは」


「お、目覚めたか」


「誰!?」


紅苑はバッ!と体を起こそうとしたが

あまり元気だと怪しまれてしまうので軽く

頭だけを上げてみた。


「しばらくここで暮らしてもらう。

その後はまた別のところへ行く」


「なんで?家に帰らせて!」


「理由は言えないけど、あんたは大人しくして

たらいい」


大人しくしていたら家に帰してくれるような

言い方だが、イセは帰してやるとはひとこと

も言っていない。


「ここはどこ?」


「それも言えないけど、あんたを傷つけたり

しないから安心しろ。

しばらくいてもらうだけだ」


イセは紅苑の背中を支えてベッドサイドに

座らせる。

壁際に置いていたテーブルを紅苑の前に

持って来てその上に食事をおいた。


「まだ冷めてないから。食べな」


「いりません」


「元気でいないと。ここから出られないぜ?」


イセの表情は優しかった。顔だけ見ていると

本当にしばらくここにいるだけというのを

信用してしまうほど怖さがなかった。


「ほら。食べな。うまいぞ」


「…」


「食わせてやろうか?」


「いい。自分で食べる」


スプーンを持って食べ始めた紅苑を見て

イセは安心したように笑った。


イセの言った通り味が良い。これを作ったのは

三人のうちの誰か…

さっきの会話からイズモが手作りしているの

だろう。


腹が減っていた紅苑は平らげてしまった。


「あの、ごちそうさまでした」


「完食したな。えらいえらい」


イセがトレーを乗せたテーブルをまた壁際に

持って行く。戻ってきたイセはベッドの近くの

椅子に座った。


「気分が悪いとかないか?」


「ふわふわしてる」


「そうか。眠くないか?」


「少し眠い」


イセがうんうん、と頷く。その時ドアが開いて

イズモが入って来た。


怯えた表情になった紅苑の肩を、イセがさする。

イズモはそんなことはお構いなしにズカズカと

近づいて紅苑の顔を覗き込んだ。


「うまかった?」


「…」


「メシだよ」


「うん。すごくおいしかった」


「マジ?俺が作ったんだよ」


空になった食器を見たイズモはうれしそうだ。

紅苑がイズモにもごちそうさま、と言うと

笑って頷いていた。


「風呂入れそう?一人で入れなかったら俺と

一緒に入るか?」


「入れる。一人で」


しかし立ちあがろうとした紅苑は膝に力が入っていないかのように床に崩れ落ちてしまった。

イセが慌てて支えたのでケガはしなくてすんだ。


「効きがいいな」


「おい。イズモ」


「すまんすまん。やっぱり一人じゃ危ないから

イセと入んな」


風呂の中で紅苑は動かなかった。

イセが紅苑の体も髪も洗う。

紅苑はじっとしながらここの状況を考えていた。


こうして毎日風呂に入れられて食事を提供されて、体の健康と清潔は保たれるのだ。

そしてそれとは逆に心はどんどん破壊されていく。

自我を失い、人形のようになれ果てる。


「熱くないか?」


イセがシャワーを掛けながら顔をのぞき込むと

紅苑がうん、と小さく頷く。

後は何も話さない紅苑の体についた泡を

シャワーで流した。


男にしてはキレイな体だ。商品として選ばれた

のも頷ける。

身寄りがないということが一番の条件では

あるが、器量が悪ければ売り物にはならない。


イセはさっきイズモとカスガに聞いた寺東の話を思い出していた。


紅苑を助けようとして殺された寺東。

ここへ様子を見に来るのは寺東の仕事だった

ので、BOL社のメンバーの中では寺東と

一番絡みがあった。


そして寺東にはこの仕事を始める時から世話に

なっていた。

喜怒哀楽が少ないというよりも、仕事人間という方がしっくりくる男。


その寺東が紅苑を助けようとした。

恋とか愛とかよりもこの体にほだされて

しまったのだろうか。


紅苑を抱えて風呂から出す。タオルで拭いた体は

光を放っているみたいに美しい。


この男と寝たらどんな具合なんだろう、と

普通に興味が湧く。

イセはゲイではないがそんなことを超えた次元の感情だった。





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