4.次のミッション
次は一体どんな振りが来るんだと身構えていたが、意外にも何もないまま季節は過ぎ、もうすぐ夏休みになろうとしていた。
「蒼汰、夏休みどこか行きたいところとかあるか?」
せっかくだから旅行でも行こうと誘うと、蒼汰は目を丸くした。
「先生って、夏休みも仕事あるんじゃないの?」
「そりゃあるけど、なにも毎日仕事しなきゃならないわけじゃない」
教員にも有給がある。生徒が休みのこの時期に、積極的に有給を使う教員もいる。
「旅行、行くだろ?」
「行く! けどそれともう1個、大事なミッションがあるよ」
「出たか⋯」
今度は何をすればいいんだと視線を向けると、蒼汰は何やら鞄からチラシを取り出した。
「これに参加して」
「ウォークラリー大会?」
地域で開催される大会だ。日付はお盆を過ぎた頃。夕方の6時スタートで、ウォークラリーとは名ばかりの、実際は肝試し大会。
「誰か男の先生、体育の上杉先生とか誘って、2人で参加して」
「なんで上杉先生なんだ? 今度は何が起こるんだ?」
「それは言えない。ルールだから」
「ルール?」
なんの?と首を傾げる。
「タイムスリップのルール。これから起こることを誰かに話してはいけない。あと、過去の自分に会うのもダメ」
「そんなルールがあるのか」
前回のハグしてくれた発言はセーフのようだ。まああれは、これから起こることというほどのものではないのだろう。
「今回も、それに井上が参加してるってことか」
「俺、お化けとか怪談とか苦手なんだよね」
「じゃあなんで出るんだよ⋯」
どこを歩くのか、ルートはまだわからないが、集合場所の公園は墓地が近い。そこを通るのは確実だろう。
「柊二さんは、いいなって思ってる相手とお化け屋敷とか入ったらどうする?」
「え? んー、驚いたふりして抱きついたり、とか?」
「うんうん。後は?」
「後は⋯、手を繋ぐ、とか?」
言った途端、蒼汰がふっと笑みを溢した。なるほど、それが正解か。
とはいえ、同じチームで参加するわけでもないのに、そんなタイミングがあるのだろうか。
柊二はチラシを見ながら、まずはどうやって上杉を誘うかを考えた。
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翌日、職員室に上杉が入ってくるのが見えると、柊二は早速声をかけに行った。
色々誘い方を考えたが、もう面倒なので直球でいくことにする。変に気取った誘い方をしたところで、怪しまれるだけだろう。
「上杉先生、ちょっとよろしいですか?」
「なんでしょう?」
「これなんですけど⋯」
柊二は蒼汰にもらったウォークラリー大会のチラシを見せる。
「その、もしよろしければ⋯」
「小野先生、」
「はい?」
「貴方はエスパーですか!?」
「は?」
上杉は、チラシを見た途端パッと目を輝かせて、柊二の手を握ってきた。若干引く。
「いやぁ、ちょうど昨日、娘とこの話になりまして」
「そうなんですか?」
「なんでも、参加賞のシールが欲しいらしいんですよ。けどまだ小学生だから、保護者と参加が条件でしょう。けど今ちょっと反抗期で、パパと参加は嫌ってゴネられて⋯」
「それは大変ですね」
自分がシールが欲しいんだろうに我儘な、と思いながらも黙っておく。
「妻はこういう肝試しとかは苦手で。最終的に、パパが出て参加賞もらってきてとか言われて⋯」
「ああ⋯」
「小野先生も出ます? だったら是非一緒に! おっさんが1人で参加とか嫌すぎる」
ぼっち参加は自分も嫌だ。柊二はじゃあ是非、と笑顔を浮かべた。これでまずは最初のミッションはクリアだ。
「やー良かった。小野先生はどうしてこれに参加を?」
「え? ああいや、うちの生徒も何人か参加するようだったので、ちょっと様子を見に行こうかと。夜ですし」
「そうなんですね! さすが、教師の鑑ですね」
「あはは」
誘うために用意しておいた言い訳で適当に誤魔化す。申し込みはしておきますと言って、柊二は自席に戻った。
とりあえずこれで、後は当日を待つのみだ。




