表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハッピーエンドの世界線  作者: さくら優


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/12

11.本当の相手と

「泣いてねーよ⋯」


鼻をすすって目元を腕で押さえながら、柊二は小さく呟いた。


思った通り、蒼汰は元の世界に帰ったようだ。


寂しく思う気持ちと、どこかほっとする気持ちを抱えて、柊二は手紙を胸ポケットにしまい部屋を出た。


鍵をかけようとしたところで人の気配がして、何気なく目を向け、そこに立つ人物に心臓が止まりそうになった。


「蒼汰⋯」


呆然と呟いてから、はっとして口を押さえる。


「先生? 何してるの?」


きょとんとした表情で見上げて来たのは、恋人だった蒼汰ではなく、井上の方だった。


「え⋯、いや、えっと⋯」


そっちこそ何をしているんだと思いながらも、すぐに返事を出来ずにいると、後ろから自分と同じ歳くらいの男性がやって来る。


「井上様、こちらのお部屋が、以前住んでた方が最近引っ越されたので空いていて⋯。そちらは?」


話の内容から、男は不動産屋のようだ。柊二を見て怪訝な顔をする。


「あ、前に、この部屋に住んでた人が知り合いで⋯」

「そうでしたか」

「先生の知り合いの人が住んでたの?」


井上も驚いた顔をしている。柊二と井上を交互に見て首を傾げる不動産屋に、教師と教え子だったことを説明し、話の流れで謁見に付き合うことになった。


「先生の友達が住んでたなら、この部屋にしよっかな〜」

「⋯いいと思うぞ」


蒼汰が住んでいた部屋にこうして井上がやって来る。偶然ではないのだろう。


トントン拍子に話が進み、契約書をもらって不動産屋を出たところで、柊二は少し話をしたいと彼を近くの公園に誘った。


自販機でコーヒーを買い、井上にはカフェオレを買って渡すと、彼は少し驚いた顔をしつつ受け取った。


猫舌だった蒼汰と同じように、ちびちびと飲む姿にふっと笑みを零して、柊二は徐に口を開いた。


「卒業式の後、行けなくて悪かったな」

「⋯ああ、うん。でも⋯、良かった」


井上は視線を落として苦笑する。


「おかげで助かったしね」

「だからって、約束を破ったのは事実だから。本当、悪かった」


大事な話があると言っていたあの日。予想はつくが、今はその内容を聞く時ではないと思う。


井上も言う気はないようで、黙ったままペットボトルの蓋を撫でている。


柊二は意を決したようにスマホを取り出して言った。


「連絡先、教えとく。なんかあったらいつでも連絡しろ」

「――え?」

「一人暮らしするんだろ?」


両親を亡くし、ここ何日かは親戚がずっと来ていたらしいが、その親戚も近くに住んでいるわけではないようで、彼はこの春から一人暮らしをするらしい。


大学生の男なら一人暮らしなんて普通で、それで心配するのは過保護もいいところだが、はじめからその予定だったのと、突然両親を亡くして一人で生きていくことになったのとでは、天と地ほどの差があるように思う。


連絡先を交換した後も、井上は少し戸惑った様子でスマホを見つめていた。


「何もなくても、連絡してきていいから」

「何もないのになんて連絡するの?」

「なんでもいいだろ。用がなくても教科準備室に来てただろうが」

「あれは、だって⋯」


ゴニョゴニョと言葉を濁して俯く。その頰が少し赤くなっていた。


柊二は小さく微笑んで、冷めたコーヒーに口をつけた。



   ✦✦✦


それから、時々井上から連絡が来るようになった。今日は大学の入学式だとか、バイトが決まっただとか。


柊二から連絡をするようになったのもすぐだった。


何度か一緒に食事をして、半年ほど経った頃、柊二の方から付き合おうと言った。


井上は驚いた様子で目を見開いた後、軽く肩をすくめて、


「どうしよっかな〜」

「おい」

「だって先生、俺が告白しても全然気にしてくれなかったし」

「先生って呼ぶな」


心底嫌そうに柊二が眉を寄せると、彼は楽しそうにくすくすと笑った。


そして、彼が大学4年になる頃、突然連絡がつかなくなった。バイト先にもいない。家にもいない。大学にも来ていないらしい。


普通なら怒りやら心配やらで気が気ではないだろうが、柊二は静かに笑みを浮かべて独り言を呟いた。


「気をつけてな」



   ✦✦✦


蒼汰がタイムスリップしていた期間はだいたい1年。もうそろそろその1年が経つ。


卒業式の時期が近付くに連れ、柊二は逸る気持ちから、日に何度もカレンダーを見つめていた。


早く会いたい。過去の自分に何度嫉妬したかわからない。


休日、気分を落ち着かせるために散歩にでも行こうか、そんなことを考え始めた時だった。


ガチャ、と玄関の鍵が開く音がした。


柊二は、はっと音のした方へ顔を向ける。


この部屋の合鍵は、1人にしか渡していない。


ドアが開いて、悪戯っぽい声が響いた。


「先生、いる〜?」


懐かしいフレーズに、無意識に笑みが溢れた。


「先生って呼ぶなって、何度も言ってるだろ」


1年ぶりに会った彼は、少しだけ大人びたように見えた。


「おかえり」

「――ただいま」


背伸びをして抱きついてくる蒼汰を、柊二は強く抱き返した。


END.


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ