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ハッピーエンドの世界線  作者: さくら優


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10/12

10.手紙

「どうした⋯?」


震える背中を撫でてやりながら、柊二は慎重に尋ねる。


この怯え方は尋常ではない。子どもならともかく、もう高校生の男子が人目も気にせず大人に泣いてすがるなんて。


「父さんと、母さんが⋯」


井上は、嗚咽交じりになんとかそれだけ言うと、ぎゅっと柊二のスーツの胸元を掴んだ。


井上の家はここからそう遠くない。柊二は彼の肩を抱くようにして、一緒に家に向かった。


到着しても中に入ろうとしない井上に、上着をかけてやってから玄関に入る。


すぐに、開けっ放しになっているリビングのドアが見えた。


井上の様子から、様々な悪い状況を想像していた。けれどそんな想像では追いつかないくらい、現実は最悪な状況だった。


「――っ⋯!」


煌々と明かりのついたリビングには、ナイフで刺されて血塗れになった、2人の男女が横たわっていた。



   ✦✦✦


井上の両親が殺された事件は、大きなニュースとなり、犯人もすぐに捕まった。無差別の強盗殺人だとのことだった。


通夜で、魂が抜けたように遺影を見上げる井上の姿を見ながら、最後のミッションの目的はこれだったのだと合点がいった。


卒業式のあの日、もし自分が、はじめから中庭には行かないと言っていれば、井上はあの時間にはもう家にいただろう。


約束を守って中庭に行ってもきっと同じだ。用事が済んだら家に帰っていた。柊二が待ってろと言ったから、彼は帰らずにずっと学校にいて、結果殺されずに済んだのだ。


「くっ、そ⋯」


他に方法はなかったのだろうか。


蒼汰はきっと、こうなることを知っていた。彼の両親も救う方法は、本当になかったのか⋯?


蒼汰とは、結局連絡がつかないままだ。なんとなく、元の世界に帰ったのではないかと思っている。全て終わったから帰ったのか、それとも、これから起こることを話してはいけないというルールを破ったから戻されたのか、その辺りはわからないが。


やりきれない思いを抱えて、柊二はそれから数日間、抜け殻のように過ごした。



   ✦✦✦


それからしばらく経って、柊二は蒼汰の住んでいたアパートを訪れた。


バイト先にも行ってみたが、彼はすでに辞めたと言われた。


「ったく、帰るなら一言くらい言ってけよな」


思ったよりも傷付いていない自分に驚く。それ以上に衝撃的な事件があったからだろうか。


合鍵で鍵を開けると、部屋の中は家具などもなく、ガランとしていた。


窓を開けて籠もった空気を追い出す。やっぱり何もないか、と軽く溜息を吐いたところで、ふとシンクの上に何か置いてあることに気が付いた。


「⋯手紙?」


コピー用紙を三つ折にしただけで、封もされていないが、柊二はすぐに自分に宛てられた手紙だと理解して、そっとそれを開いた。



―――⋯


『この手紙をあなたが読んでいるということは、俺はもう、この世界にはいないということだね。


なんて言ったら、不謹慎だって怒られるかな。


んーでも、事実だからしょうがないよね。


前に、タイムスリップの目的を聞かれたけど、俺の目的は、俺が死なない世界線にすることでした。


卒業式のあの日、すぐに家に帰っていたら、きっと俺も殺されていた。


約束、守ってくれてありがとう。


この1年、柊二さんと一緒にいられて、俺はとっても幸せでした。


柊二さんは俺がいなくなって泣いてるかもしれないけど、俺は未来の、本来いるべき世界に戻って、そこに俺の柊二さんがいるので全然寂しくありません。残念でしたw


柊二さんも、あなたの本来の恋人は俺じゃなくて、教え子の井上蒼汰だから。そっちを大事にしてください。


今はまだ子どもで色気もないかもだけど、すぐに成長するので大丈夫です。


4年後、楽しみに待ってて。


バイバイ。


蒼汰』



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