夜会
その日、ルミナスはこれまでとは比べ物にならないほどの緊張を覚えていた。
(お、重いわね、この服……)
自室の中の椅子に座りながら、いつもよりも若干疲れた表情で自分の体を見やる。その視線の先には、少女の体を包む一着のドレスがあった。
薄桃色のドレスで、袖は二の腕の途中あたりまでしかない。たぶん手には手袋をつけるのだろう。ウエストはふんわりとしたレースのリボンが巻かれていて、すっきりとしたシルエットのドレスではあるのだが、それでも普段着より格段に重く感じる。何しろ最後に夜会に出たのはほぼ十年前のことだ。ドレスがこんなにも重いなどとは知らなかった。
幸い、ルミナスの体はウエストのあたりが細かったためにコルセットは必要なかったが、これでコルセットもつけていたらきっと苦しさと体の重さに耐えきれなかっただろう。主に精神が。
同時に頭はこれでもかというほどに綺麗に編み込まれ、薔薇で飾り付けられている。サミュラのなせる技の中でも最高難度の髪型らしい。ルミナスとしては最低の難易度でも全然かまわなかったのだが、頭が重くないのは助かった。
ほんの三十分ほど前にサミュラがほかの使用人たちを連れてきたと思ったら、あっという間にこの格好にさせられてしまった。正直言って一刻も早く脱ぎ去りたいが、アトラスを一人で夜会に行かせることなど到底できるはずもない。
そのため苦悩しながらも、ルミナスはこのドレスを受け入れたのだった。
「はあ……」
苦しさを吐き出すように溜息をついた時、突然自室の扉がコンコンとノックされた。
「はい、開いていますよ」
顔をさっと上げてこたえると、ゆっくりと扉が開いて、ぴょこんっとサミュラが顔を出した。
「そろそろですよーって、キールが言ってました!」
その言葉に、緊張しながら頷く。
「ええ、分かったわ。行きましょうか」
「はい!」
明るい笑顔のサミュラに心を少し和ませつつ、ルミナスは自室から出て玄関ホールへと向かった。
✡✡✡
その頃、アトラスとキールは一足先に玄関ホールでルミナスたちを待っていた。
アトラスの隣に立っているキールが、にっこりと微笑んで口を開く。
「アトラス様、本当にやわらかくなられましたね。悪魔も恐れる公爵様がここまで変わったとは、絶対に誰も信じないでしょうね」
「笑顔で毒を吐くんじゃない。大体、どちらかと言うと俺よりもお前のほうが悪魔だろうが。最近お調子者の新人浄霊屋が一気にやめたと聞いたが、あれはお前の仕業だろう」
「さて、どうでしょうねえ」
あからさまなその態度に胡乱げなまなざしを向けて、アトラスは一つため息をついた。
「それに、俺が変われたというならそれはルミナスのおかげだ。……あの子は、俺にはもったいないくらい美しい精神を持っている」
「奥様もきっと同じことを言うんじゃないでしょうか。貴方達結構似た者同士ですから」
「……そうなのか?」
とてもそうは思えない。誰が見ても正反対の二人だと思う。
しかしキールは「見ればわかりますよ」と頷いた。
「あなたもそのうち分かる日が来ますよ」
その微笑みに、なんだか無償に馬鹿にされている気がしてきた。
しかし、アトラスが何か言う前に、ふっと前方に気配を感じた。反射的に顔を向ける。
体が一瞬で硬直した。
「あ、の……アトラス様?」
階段を降りてきた少女は、動かない自分の夫を見て恐る恐る声をかけた。
まるで氷のように固まってしまっているアトラスは、それにすぐに反応することが出来ない。
「アトラス様? どうしました、アトラス様?」
不安げに声をかけ続けるルミナスを、思わず凝視する。
(なんだ、この……かわいすぎる生き物は)
もともと可愛いとは思っていたが、今日はそれに輪をかけて可愛い。薄桃色のドレスは地味すぎず派手すぎず、ルミナスの優しさを最大限に表現している。頭に飾られている薔薇などはかすんで見えた。
こういう時はどういう反応をしたらいいのか、全く分からない。人生最大のピンチにすら思える状況だった。
しかし、隣でその光景を終始見ていた使用人二人はほくそ笑む。
「サミュラ、よくやりました。アトラス様固まっちゃってますよ」
「ふふふ。ルミナス様の美しさは折り紙つきですからね。こうなることは予想してましたよ~!」
おろおろしている夫婦とは裏腹に、こちらは実に楽しそうである。二人とも小躍りでもしそうな勢いだ。
アトラスの氷が解けて一緒に馬車に乗れたのは、それから十分ほど時間が経ってからだった。
✡✡✡
(これは、一体どうすればいいのかしら……?)
ルミナスは困惑していた。
馬車に乗り込んでからというものの、アトラスはむっつりと黙り込んで口を開かない。
なんだかいつぞやの幽霊浄化の時のようである。しかし何故かこちらをじっと見つめているので、視線を逸らすことはできない。
「あの……やはりこのドレス、おかしいでしょうか?」
沈黙に耐えきれずにそう呟くと、アトラスの表情がやっと動いた。言い知れぬ圧迫感が消える。
「おかしい?」
「あ、ええっと……あまりこういう服は着たことがないので、やはり似合わないのかと……」
しどろもどろにそう言うと、アトラスはぽかんとした表情でこちらを見つめた。
「おかしいわけないだろう。むしろ綺麗だ。ずっとそういう服を着ていればいいと思う」
あまりにもド直球なその告白に、ルミナスは面食らった。
「あ、あの……さすがにいつもは無理です」
「何故だ?」
「苦しすぎます」
アトラスがぱちくりと目を瞬かせる。
彼の告白に気を取られていたルミナスは、自分が淑女らしからぬ言葉を口にしたことに気付いていなかった。
真顔で宣言されてしまい、アトラスは少し残念そうな顔をしたが、すぐに気を持ち直して微笑んだ。
「そうか。なら仕方がないな……まあ、これからも夜会はあるだろうから、その時にでも見ることにしよう」
楽しそうなアトラスとは正反対に、ルミナスは若干絶望しかけた。
(ま、またこれを着るの……!?)
よくよく考えてみればそれは当たり前のことなのだが、頭でわかっていても、ドレスが慣れないことに変わりはない。
ため息を済んでのところでかみ殺して、ルミナスは馬車が到着するのをひたすらに待つことにした。
✡✡✡
しばらくして馬車が到着すると、そこはローレン伯爵家の屋敷だった。ローレン伯爵はアトラスの仕事仲間で、よく顔を合わせているのだという。
「ローレン伯爵には妻も子供もいるが、その子供が少し厄介でな」
アトラスは夜会に行く前、苦々しげにその情報をルミナスに教えてくれていた。
ローレン伯爵家の一人息子、アレイスラ・ローレンは、齢十七にしてすでに女遊びが激しいのだという。
とにかく朝から晩まで女を屋敷に連れ込んでいて、ローレンも手を焼いているらしい。
「ローレン自体はいい男だし妻も優しい。何の間違いであのような息子が生まれてしまったのか、俺にもわからないが……とにかくそいつには気を付けろ。いつも俺が付き添ってやれるわけじゃないからな。何かされそうになったらすぐに叫ぶなりして俺を呼べ」
最後にそう締めくくられて、ルミナスは訳も分からぬままうなずいたのだった。
そのことを思い出しながら屋敷の中へ入り、ホールへと向かう。
道中、ルミナスはなるべくわからないように屋敷の中を観察していた。
(どこもあまり変わらないのね……アトラス様の屋敷には劣るけど)
ひいき目ではなく客観的な事実である。伯爵家と公爵家の違いなど誰が見ても明白だった。
そんなことを考えているといつの間にかホールについていて、荘厳な扉が開けられていた。
一瞬で現実へと引き戻されたルミナスの目に、色とりどりの服装をした紳士淑女たちが映り込む。
思わず感嘆の声を上げつつ、ルミナスはアトラスとともにそのホールへと足を踏み入れた。
すると、なぜか一瞬でその場の空気が張り詰めたように静かになる。
(え……何?)
困惑気味にアトラスのほうをふり仰ぐと、「大丈夫だ」とでも言うように微笑まれた。
わけもわからず固まっていたルミナスは、前方から人をかき分けてやってくる男性に気付かなかった。
「アトラス! よく来てくれたな!」
突然目の前に現れた男性に、ルミナスは驚いて悲鳴をあげそうになった。何とかそれを飲み込み、逆に彼を注視する。
無駄に溌剌とした男性だった。年は五十代前半ほどに見える。どうやらアトラスとは既知の仲に見えるが、一体誰なのだろうか。
すると、アトラスが微笑んでその男性に挨拶を返した。
「ローレン殿、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
(え、この人ローレン伯爵!?)
目を剥いて驚いているルミナスの様子とは裏腹に、男性二人は楽しそうに会話を続ける。
「いやいや、堅苦しい挨拶はなしにしてくれ。その女性が噂になっている君の妻だろう?」
突然覗き込まれ、ルミナスは再び驚いて悲鳴をあげそうになった。
アトラスがその肩を優しく掴み、とんと押し出す。
「はい。彼女が私の妻、ルミナスです。ルミナス、この方がこの夜会の主催者である、ユグドーラ・ローエン伯爵だ」
「初めまして、ルミナス嬢。私はユグドーラ・ローエンだ。会えて光栄だよ」
流れるような動きで手を差し出され、ルミナスは困惑しつつもその手を取った。
「は、初めまして、ローエン伯爵。アトラス様の妻の、ルミナスと申します」
ぎこちないながらに握手をしたルミナスは、伯爵の優しそうな笑顔にほっと息をついた……が。
「アトラスを更生したといわれる侯爵令嬢に会えるなんて、感激だよ」
「……え?」
意味が分からず首を傾げたルミナスに、伯爵は手をぱっと放して自分の後方を指し示す。
「ほら、みんな興味津々でこちらを見ているじゃないか」
言われてみれば確かに、そこにいる人々は一旦会話を注視してまでこちらを凝視していた。
一糸乱れぬその光景に、反射的に頬が引きつる。
「え……っと……」
何を言ったものかと逡巡していると、ふっと上方から影が差した。
「ローエン伯爵、あまりそういうことは言わないでいただけますか。妻が困惑しています」
見上げた先に、アトラスの不機嫌そうな顔があった。
その顔に、伯爵はハッハッハと豪快に笑う。
「いやいや、過去の自分から目を背けてはいけないよ、アトラス。……お嬢さんはアトラスを更生したただ一人の人物だ。注目されるのは当然だよ」
当たり前のことのように言われて、ルミナスは口をぽかんと開ける。
(更生? ……私が?)
冗談ではなく全くそんなつもりはなかった。確かに評判がよくなったと聞いてはいたが、『更生』とは……。それほどアトラスの態度は悪かったのだろうか。
しかしルミナスが質問を投げかける前に、何やら音楽が流れ始めた。
「おや、ダンスの時間のようだな。さて、私は妻をエスコートしなければならないのでこれで失礼するよ」
朗らかに笑い、彼はさっさと人の間を通り抜けて行ってしまった。
質問する機会をいつして、ルミナスはぽかんとしたまま硬直する。何やら嵐のような人だった。
「やれやれ……相変わらず言いたいことだけ言うのだから困ったものだな……普段はまじめな人なんだが……まあいいか。ルミナス、俺たちも踊らないか? ……ルミナス?」
アトラスの声にハッとして、ルミナスは慌てて返事をする。
「え、えっと、はい。喜んで」
慣れないながらに微笑んで、ルミナスはアトラスの手を取る。
正直ダンスはサミュラのほのぼの特訓だったので少々心配なのだが、誘われたからには受けないわけにはいかない。
音楽隊の曲に合わせて最初の一歩を踏み出す。
次第にリズムをつかみつつ、ルミナスは大理石の床でステップを踏んだ。
(これ……楽しいかも)
アトラスはダンスのリードをするのが上手で、とても踊りやすい。
サミュラの特訓も、実際に踊った今となってはとても効率のいいものだったのだと気付いた。あの少女の才能はいつも意外なところで発揮されている。
観客たちの視線など気にしないで、ルミナスは思う存分舞い踊っている。その顔は終始笑顔だった。
ダンスが一段落した時、アトラスはレモネードを手渡しながらルミナスに言った。
「すごいな。まさかここまで上達しているとは思わなかった。ルミナスは呑み込みが早いんだな」
屈託のない表情で賞賛してくるアトラスに思わず頬を染めて、ルミナスは首を振った。
「私ではなく、サミュラの特訓が素晴らしかったのです。あの子の特訓、とても効率が良かったんですよ」
「にしても、実際におぼえたのはルミナスだ。とても素晴らしかった」
そう言うと、アトラスは自然な動作で頭を撫でてくれた。嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。
「ありがとうございます。あの、アトラス様のリード、とても助かりました。楽しかったです」
「そうか、それはよかった」
すると、そんな会話を続けていた二人に、観客たちがわっと詰めかけてきた。……いやしかし、それは主に綺麗な少女たちだったのだが。
「素晴らしかったですわ公爵様! 私たち、思わずうっとりしてしまいました!」
きゃあきゃあとわめく少女たちに、アトラスは胡乱げなまなざしを向ける。
「誰だ君たちは?」
「嫌ですわ公爵様! 一年前の夜会でお会いしたではありませんか!」
「わたくし、半年前の舞踏会でお見かけしましたわ! 変わらずお綺麗ですわね!」
ニコニコとしながらアトラスに話しかける少女たちの瞳に、もはやルミナスの姿は映っていなかった。視界に入れまいとしているのかもしれない。
当のルミナスはぽかんとしながら、半ば感心してその光景を見つめていた。
(女の子たちって、同伴者がいる男性にもああいう風なのね……)
長らく夜会になど行っていなかったルミナスとしては、他の女性をエスコートしている男性に話しかけよう、などという気持ちは全く起こらないのだが。
そんなことを思いながら傍観していると、不意にアトラスを取り囲んでいる少女のうちの一人と、視線がかち合った。
刹那、ルミナスの体がビクッとすくむ。
(今、睨まれた?)
どちらかというと睨んでもいいのはこちらなのではないだろうか。ルミナスは何もしていないというのに、なぜ睨まれなければならないのだろう。
困惑していると、アトラスのせっぱつまったような声が耳に届いた。
「おい、俺はルミナスをエスコートしているんだ。離してくれないか」
「ええー! 少しくらいいいではありませんか! さあさあ行きましょう!」
「は!? おい、ちょっと放……」
問答無用でアトラスが引っ張られていく。さすがにあせって、ルミナスは手を伸ばして叫びかけた。
「え、ちょっと待っ……」
しかしその時、だれかに腕をぐいっと引っ張られ、声が詰まる。
(え、誰!?)
プチパニックに陥りながら慌ててその方向を見ると、そこには見たことのない一人の青年が立っていた。
誰がどう見ても美しいと称賛するであろう青年である。ふわふわとした髪の毛に優しそうな瞳。すらりとした長身に、美しい体つき。普通の少女であれば、一瞬で恋に落ちてしまうような青年だった。
しかし、今のルミナスに恋に落ちている暇などない。というか全く以て見ず知らずの青年に、どう恋をしろというのか、ルミナスには全く分からなかった。
「えっと、あの、とりあえず、腕離してください」
いつもよりも少しきつめの口調だったのだが、青年は気にも留めないふうに微笑んだ。
「ねえ、君は公爵夫人の、ルミナス様だよね?」
あろうことか妙な口調で話しかけられ、ルミナスの警戒度は格段にアップした。というか単に、ルミナスは人の話を聞こうとしない人があまり好きではないのである。
「……そうですが、あなたは?」
先ほどよりも強めに言う。ここまで警戒心を他人にさらけ出したのは初めてだった。
「僕はここの一人息子、アレイスラ・ローエンだよ。ルミナス様は可愛いね。あえて光栄だよ」
しかしそのセリフを聞いた瞬間、ルミナスの顔がさっと青ざめた。
(この人が、アレイスラ・ローエン……?)
女遊びが激しいという、あの伯爵令息なのか。
アトラスの言葉を疑っていたわけではないが、実際に会ってみて確信した。
この人は危ない、と。
幽霊以外にはめったに鳴らない警鐘が頭の中で鳴り響いているのだ。警戒せざるを得ない。
「こんなに美しい方だなんて知らなかったよ。僕と一曲踊っていただけますよね、ルミナス様?」
ルミナスはその態度に驚きを通り越して呆れた視線を送った。何なのだろう、この傍若無人な態度は。
たまに敬語を使ってはいるものの、自分が上であるという感情を隠そうともしていない。これで隠しているつもりなら、怒りを通りこして滑稽である。
様付けも、きっとやめられるものなら辞めたいのだろう。
そんな態度をとっていても、この美貌に少女たちはメロメロになってしまうのだろうな、と若干哀れに思いながら、ルミナスはそっと彼の手を外した。
すると、それを良いように捉えたのか、彼は勝手にルミナスの両手を握ってくる。生暖かい体温に、ルミナスの背筋には悪寒が走った。
「やめてください」
きっぱりと言い放ち、ルミナスはアレイスラの手を振りはらった。
「どうしたんだい? 緊張しているのかい?」
そんなわけあるか、と叫びそうになって、ルミナスはぐっとこらえた。アトラスのためにも、ここで悪い噂が立つような行動をとるのは控えたい。
ゆっくりと、噛んで含めるように言う。
「あのですね、私には夫がいるんです。あなたからの誘いを受ける気にはなれません」
「でも、その夫は君を置いて少女たちのところへ行ってしまっているじゃないか」
不機嫌そうな言い訳に、ルミナスの怒りはマックスになってしまった。
「アトラス様が望んで行っているのではないでしょう。知ったような口を利かないでください。それに、たとえ望んで行っていたのだとしても、浮気されたから浮気し返せなんてそんな馬鹿なこと、私はしたくありません。泥沼化するだけです」
「ふうん? 君、僕を馬鹿にするの?」
突如、青年の瞳がすうっと冷たくなった。
どうしてそういう結論に至るのかが全く分からなかったが、一応反論しておく。
「あなただからこういうことを言っているのではありません。私は誰に言われても断ります。第一、私が一緒に踊りたいと思うのは、アトラス様だけなのですから」
毅然とした態度でそう告げ、ルミナスはさっさと踵を返して歩き出そうとした。
いつまでも茶番に付き合っている暇はない。アトラスのところへ行かなくては。
しかし、二、三歩ほど歩いたところで、急に腕を引っ張られた。
強い力に顔をゆがめながら、さすがにしつこいと後ろを振り向いた時。
「僕を、拒絶するの?」
驚くほど暗いその瞳に、ルミナスは凍り付いたように動けなくなってしまった。
(ちょっと、まずい?)
腕をつかむ力がどんどん強くなっていく。痛みで声を上げられない。
「僕が嫌なの? 僕が嫌い? ねえ、答えてよ」
「い、……った……」
あまりの痛みに答えることが出来ない。歯をくいしばって耐えるも、すぐに限界が来るだろうことは目に見えていた。
(もう、っ無理……!)
骨が折れるほどの痛みに、恐怖で思わず目を閉じた瞬間。
「何やってるの、君」
突然腕がぐいっと引っ張られ、ひときわ大きな痛みが走った。
耐え切れずとっさに目を開ける。いつの間にか痛みは消えていた。
そして、特に何も考えずに声のした方に目を向けると、そこには。
「ケ、ケビン様!?」
「やあ、久しぶりだね、ルミナス」
アレイスラの腕をひねりあげながら微笑んでいる、優しそうな従兄の姿があった。




