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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
死霊祭が終わった!草原の国自宅での日々編
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8月28日 レミィちゃん 来る

 おそらく平成26年8月28日

 剣暦××年7月28日



 草原の国王都には、比較的つながりのあるドワーフの国の大使館が常設されている。交わらないことを国是としているのに、全権大使なんて置くのかよ、と僕もつっこんだものだが、むしろ、国民が勝手に行き来しないために、国家が制限を設けるために、代表を置いてけん制するためのものなのだとか。

 ややこしい世の中だ。


 そんな中で、レミィ・アンダーテイカーは、ただ全権大使を守る武官として、部下を率いてやってきている。

 分断主義も、融和主義も、国家の在り方も何もかもを必要としない。命令通り、大使を守る、そのことだけを考えて斧を振う。なんともシンプルなことで。


 そういうレミィちゃん自身は、悩むし、くよくよする女の子である。

 平時は豪快に前進するが、疑問を感じると、立ち止まってしまう。

 それを自分の弱点だと思っており、少しでも歩みを止めてしまいそうな時はわざと思考放棄し、ただ一つの観点からだけ判断する。

 二つの内、どちらを選ぶか迷う時は、よりシンプルな方を選ぶ。


 そういう生き方をしている内に、レミィ・アンダーテイカーというドワーフは、国でも有数の戦士として尊敬されるようになっていた。

 それでも、たまに悩んだり迷ったりするそぶりを見せるところが、レミィちゃんの可愛いところなのかもしれない。

 ジンさんを除けば、この世界で最初に友達になった女の子である。


 レミィちゃんが、おみやげに酒瓶三つ持ってやってきた。

 レンちゃんがメイド服着てぱたぱた走りまわってるのを見て、唖然としていたが、僕が経緯を説明すると、なんだか悔しがっていた。どこに悔しがる要素があるのだろか。

 適当に話をしたが、どうもドワーフ王は、ドワーフの国に立ち寄ったのに、王都に寄らなかったことが気に障ったらしい。

 だって、寄ったら絶対決闘挑んでくるじゃん。

 とりあえず、また今度ドワーフの国に行くことがあれば、必ず寄ると伝えてもらう。 


 まあ、しばらくドワーフの国に行く用事、ないんですけれどね。



 ※※



 レミィちゃんは、日本語が喋れない。

 ついでに言うと、剣祖共通語も喋れない。

 僕と出会うまで、この世界の一般的な人達と同じく自国を出たことなどなく、外国語も公用語も使う必要がない人生を歩んでいたレミィちゃんは、ドワーフ語しかコミュニケーションの手段がない。

 今まではジンさんがいてくれたり、身振り手振りでなんとかしていた。


 しかし、ありがたいかな、この屋敷には五ヶ国語をマスターした執事と、元案内人のメイドがいる。

 二人に通訳を頼んで、レミィちゃんとお喋り。


 今日のレミィちゃんは、人間の女の子みたいな服を着て、左腕に大きなバスケットを下げている。多少、体つきががっしりしているのはわかるが、普通に町娘に見える。いつもドワーフ軍装で、手斧を携帯しているイメージしかなかったから、新鮮だった。

 今日は応接間に通して、お茶を飲む。

 僕の部屋の椅子だと、背が高過ぎて普通のドワーフくらいの身長しかないレミィちゃんにはしんどいだろうから。

 よいしょとか言いながらソファにおしりを預ける。柔らかいマットに体を預けても、それでも背筋が伸びているあたり、よくできた人だと思う。

 デミトリを介して僕から喋る。

「今日は兵舎はいいの?」

 レミィちゃんの、妙に濁音の多いドワーフ語を聞きとり、レンちゃんが返事する。

「私にだって休みの日くらいあんぜ。一昨日の夜も勝手に休みにしたしな。ほれ、これお土産」

 バスケットをそのまま手渡されると、籠の中には3本の酒瓶が入っていた。

「ありがとう、この酒は?」

「この前、この家の酒蔵を空にしちまったからな、足しにしてくれ。ここから南に400程下ったところにセンチペドって町があるんだが、町おこしの一環で、度の強い酒が特産品で売り出してる」

「まさか買いに行ったの。これ、ここら辺で売ってない酒だよね」

「いんや、こっちで買った。この酒、町おこしで作ってるからさ、町に来てもらうために、市場にはあんまり回さないんだよ。でも、王都に一軒だけあるセンチペド出身の奴がやってる酒屋があってさ。そこが久しぶりに仕入れたって噂聞いて、徹夜で並んできた。ありがたく飲めよこら」

 ……。

「てことは、昨日の夜も勝手に休みにしたわけね」

「こ、細かいこと気にすんじゃねーよ」

「ありがたく飲ませてもらうよ。レミィちゃんも、暇ができたらいつでも飲みに来てちょうだい」

「おう、そうさせてもらうぜ。でも今日はお茶が飲みたいな」


 イオちゃんを呼んで、お茶を淹れるように頼む。

 そう言えば、イオちゃんとレミィちゃんも初対面じゃないんだよな。

 どんな感じなんだろう。


 と思って、二人を見ていたら、



 なんか、ガン飛ばしあってた。



 え、仲悪いの?



 イオちゃんがいなくなった後に、怖くなって確認する。

「レミィちゃんさ、イオちゃんと仲悪いの?」

「イオちゃんって誰だよ」

「うちのメイド長。さっきの眼鏡かけた子。初対面ではないでしょ」

「あー、あいつイオって名前なのか」

「本名はエリザベス・オーカーなんだけれど、あだ名の方が好きらしくて」

「イニシャルがE・O。それでイオね。変な呼び方してんな。別に仲悪いとかじゃないんだけれど、あいつ怖いんだよ。初対面の時から睨みつけてくるし、話しかけても返事しねーし。思わず私だって、警戒するっつーの」

「その時、眼鏡かけてなかったでしょ」

「ああ、よく知ってんな」

「あの子、ド近眼で、眼鏡ないと人のシルエットしか区別つかないんだよ。だから、眼鏡していない時は、睨みつけてるみたいに見えるんだ。その上、人と仲好くなるのも下手で人見知りなのよ」

「いや、人見知りってレベルじゃねーくらい私らに指示出しまくってたぞ」

「いるじゃん、役職とか立場がある時は社交的になれるけれど、プライベートではコミュニケーションない人って。まさにそれ」

「あー。なるほどな。んじゃ、私が嫌われてるわけじゃねーのか。そっか、よかった。なら、次部屋に入ってきたら、構ってみるかな」

 なんか、悪そうな顔でイオちゃんが入室するのを手ぐすね引いて、待っていた。

 レミィちゃんは、やっぱり僕となんか似てる。

「なんだ? カンテラ、私の顔になんか付いてるのか?」

「今日は、珍しい服を着ていると思って。人間の服なんて着たくないって言ってたのに」

「ちげーよ。人間の糞ダサイ『ドワーフ変身セット』とか言うデザイン性のかけらもないジョークグッズが嫌いなだけで、普通の女の子の服は、まあ、好きだな、うん」

 意外。おしゃれなんて見えやしねー、ってタイプの子だと思ってたけれど、普通の感性だ。レミィちゃんは、ドワーフでありながら、頬に髭が全く生えないことを悩んでる子だったけれど、今はそのせいで年頃の女の子に見える。ばっちりだ。すると、少しはにかんで

「とは言っても、ドワーフの筋肉盛り過ぎの体型にゃ、人間様の服なんて似合わねーけどな」

「いや、そんなことないよ。レミィちゃんは、背筋がいいし、栗色の髪の毛も手入れされてるし、椅子座る時も脚を揃えてる。所作が綺麗だから、そういう服を着てもよく似合う」

 聞くや、レミィちゃんは顔を赤くして、うつむいてしまった。

 え? 僕そんな変なこと言った?

 なにかぼそぼそと言ったので、レンちゃんに訊く。

「レンちゃん、レミィちゃんはなんて言ったの?」

「『どこ見てんだセクハラやめろ』、だそうですよ」

 なんか、ここまで通訳してくれたレンちゃんもデミトリも、胃もたれしたみたいな顔になっていた。


 その時、部屋に入ってきたのは、新入りメイドの一人だった。

「旦那さん お客様 お茶 もろうて来た」

 誰だ、ダークエルフに変な日本語教えたのは。

 とりあえず、「ありがとうコムちゃん」と礼を言うと、「どういたしまして」と正しい日本語が返ってきた後、「でも 私の名前 ピコ」と正しい情報も付け加えられた。 

 おっふ。


 レミィちゃんは、まだうつむいている。


 うっすら覗きこむと、なんか顔がにやけてた?

 何がおかしい?

 顔を覗き込んだのがばれると、烈火のごとく怒られた。

 何、これもセクハラなわけ?


 なんか最近自分に自信をなくすことばかり。

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