Act:01《電脳世界の戦士達》Ⅲ
そんないつも通りのやりとりを一通りこなしたあと(俺とコウイチは今度シズに飯を奢るということでなんとかお許しを得た)、荷物を家庭科室の冷蔵庫に突っ込んでから、帰路に就いたのだった。
そして、公園で駄弁る。
まっすぐ家に帰らないのは学生ゆえの性分か。はたまた幼馴染ゆえか。まぁ正直どちらでもいい。
その他大勢の学生たちと変わらず、俺たちもそういう無駄を好む性分だという話だ。
どうせ駄弁るのならいつもの喫茶店に入るというのも、有効な選択肢ではあるのだが、そこはやはり学生というべきか。
お互いに懐事情を慮り、炭酸飲料片手に街角の公園での下らないトークに花を咲かせるのであった。
なんならここで驕りの約束を果たしてしまうという選択肢もないではなかったが、持ち合わせもないだろうし、奢ってもらうものを熟考したいというシズの言い分もあって、次回へ持ち越しとなった。
っていうか、持ち合わせを用意させるって時点で、その金額も推して知れようというものだ。全く、恐ろしい娘だよこいつは。
はてさて、そんなことを考えていると、シズがこちらを見つめていた。仲間になりたそうな顔でこちらを見ている。……いや、どんな顔だよそれ。自分で言っといてなんだけど。
ハハァン。さては俺に懸想したな。しょうがないなぁ。俺ってば色男だからなぁ。
って考えただけで、ジト目になってんじゃねえよ。なんですか。アンタはエスパーですか。そのうちボストンバックの中から出て来たりするんじゃねえの?
「カエデの思考回路の危険性に関しては、今は置いておくとして」
シズはそう前置きしたうえで話し始めた。いや、その前置き要らねえから。あと、お前の席ねえから。
「そろそろ順番くらいは決めておこうぜ」
シズは彼女らしいカラッとした表情で、そう言った。
順番、というのはやはり来週の試合のことだろう。
シズはニッと爽やかな笑顔を浮かべていた。
突然だが、Eスポーツという単語をご存じだろうか。
略さずに言うならば、エレクトロニック・スポーツ。
それはコンピューターテクノロジーを利用した競技スポーツのことを指す言葉だ。
有り体に言ってしまえば、コンピューターゲーム競技を野球やサッカーなどのメジャースポーツ、あるいはモトクロスみたいなモータースポーツと同列に扱おうという思想のことである。
近年の仁本国でもようやくゲームに対する偏見が溶けてきていて、他の先進国に後れを取る形ではあるものの、今やゲーム競技は一つのムーブメントとなりつつある。
まぁそれでも、俺のようにゲームしかできない人間というのはクラスでの動向を見れば分かる通り、あまり体面がよろしくない。
だがそれは、ゲームをやっているからというわけではなく、あくまでゲーム以外が不出来だから言われていることなのだ。勉強のできないサッカー少年と同じというわけだ。
現にあのメガネ委員長も結構なやり手である。シズと同等のポテンシャルを秘めていると言ってもいい。そのうえ勉強もメジャースポーツも人並み以上にこなすというのだから、世の中は不公平なものである。もしかしたらその影には涙ぐましい努力があるのかもしれないが。
とにかく、そんなEスポーツは、大会も頻繁に行われていて、その一つが来週に行われる。
アトランティスカップ in 世古浜予選。
俺たち三人はそれにエントリーする。
先鋒、次鋒、中堅、副将、大将。本来チーム戦は五人でのエントリーとなるため、不利なのは否めないが、メンバーがいないのは仕方あるまい。
メガネ委員長には既にフラれている。
「決めるならさっさと決めよう。燐緒は前回俺に負けたんだから、あとは二人で勝敗を決めろ。それで副将を決める」
俺より弱い二人には大将は任せられないだろう。先鋒に俺が出て全員潰すというのも気持ちは良いが、疲れるし、いざ俺が負けたときには心証が悪い。大将は一番強い者がやるべきという暗黙のルールがあるのだ。
わざわざ破るメリットも少ないので、従っておくべきだろう。
だが、燐緒……、というかシズは不満げな視線を向けてくる。なに? ……悪かったよ。ちょっとだけだけどおっぱい触って悪かったよ。ぷにぽよーんだったよ。思ってたよりわりと良かったよ文句あるか。
「勝ったほうが、エデを殺すっていうのはどう?」
シズは何故か薄ら寒い笑みを浮かべていた。何この人怖いんですけど。
そう思いつつも、やはりゲームのことになると俺はワクワクしてしまう。俺はこみ上げてくる笑みを隠しきれずに、その提案を承諾することにした。
「上等だよ。やれるもんならやってみな」
それを合図にしたようにシズがデバイスを取り出す。昔懐かしいタブレット型デバイスだ。操作しやすいよう、タッチパネルの他、外側にスティックやボタンがついている。
かたやコウイチのほうは最先端のヘッドマウントディスプレイに、ゲームパッド型デバイスだ。ただし、コウイチのデバイスは両手で抱えるタイプではなく二つに分かれていて、左手にスティックのついたデバイス、右手にボタンのついたデバイスを持っている。
確か、片一方がデバイスの機能を有していて、もう片方はそれをアシストするような形で使われていたはずだ。つまりどちらかが親機でどちらかが子機に当たる。
メールのやりとりなんかが片手でできるというのが一番のメリットであって、正直ゲームの操作性には影響しないはずだ。
コウイチは精神集中するようにゆっくりと目を瞑り、それに倣うようにシズも目を閉じた。
起動したゲームが待機状態に入り、アクセスを確認したのちにカウントダウンを開始する。
【3】
俺のデバイスにも観戦用のモニターが表示されている。
そこに表示された文字が一つずつ減ってゆく。
【2】
二人の息が詰まったように少なくなる。
それは集中の度合いを示していた。
【1】
俺よりは間違いなく弱い二人だが、なんだかんだでこいつらもやるほうだ。
そんな二人の剥き出しの闘志に充てられて、俺も少し気が昂ぶり始めていた。
【FIGHT!!】
そして、戦いは、幕を開けた。
◆説明の続きとギャグの続きです。
ちなみに、この物語の舞台は、日本ではなく仁本です。現実そっくりな別世界です。
文明レベルは大体同じ位を想定しています。
そういや、アクセルにも幼馴染に奢るっていうシーンがありましたね。どうしてここまで被るんだろうか。
無意識になぞってるとか言われても仕方がないレベルです。すみません。




