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電脳ヴァーサス  作者: 水無亘里
Act:01《電脳世界の戦士達》
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Act:01《電脳世界の戦士達》Ⅱ

「というわけで、うちのクラスの出し物は焼きそば屋さんに決定しましたー。拍手ー!」

 わーわーぱちぱちと随分と控えめな喝采が教室を包み込んでいた。

 何がどうなってどういうわけで焼きそば屋さんに決定なのか、異論を唱えたい。

「あの……」

 俺が手を挙げると、議長であるクラス委員のメガネ女子が白々しい目でこっちを見ている。

 何その視線クセになったらどうすんだよやめろ。

「あー……えっとぉ~、ゲームしか能がない断原君に意見なんて求めてないから☆」

 一瞬困った顔をしたかと思ったら、今度はびしっと人の顔を指さしてドヤ顔で断言しやがったぞ、この委員長。

 なんという言われようだ。聞きましたかご近所の皆さん。この学級委員ヒドイんですけどー。

 と思って周りを見回すと、うんうんと頷いているクラス一同。おいなんなのこれどういうことなの?

「はっはっはー! ざまあないな、カエデ!」

「うん、仕方ないよ。そもそも学校でゲームトーナメントなんてできっこないからさ」

 そこには他人事のように(俺と同様にゲーム馬鹿のくせに)ぷぷークスクスと笑う幼馴染のシズとコウイチの姿が。

 え? そうだったの? 俺の立案した『The 電脳ヴァーサス炎のトーナメント~俺に勝てたら100万ガバス~』には一向に反対意見が来ないものだからいっそのこと可決されてるんじゃないのとか思ってたけど、全然そんなことありませんでした。

 ちょっと待ってよ。俺のこの勝ち誇った顔のまま会議の行く末を見守ってた時間を返してよ。「どうせ採用されない駄案の分際で無駄な時間を使いおって」とか呟いてた俺はなんなの? バカなの? 死ぬの?

 困惑する俺を全力で放置したまま、議会は幕を下ろした。

 ゲームばかり全力でプレイしてたらいつの間にかスクールカーストのかなり下位にまで降格していたでござるよ。

 おかげでさっきから変なテンションを突き通してしまっているじゃねえか。にんにん。

 おかしい。俺はここまで残念なキャラに生まれた覚えはねえぞ、ちくしょう。

「そんなわけだから、無能な三人組さんには買い出しをお願いしまぁ~す!」

 きゃぴるん☆ と効果音がしそうなほどに可愛い(あるいは痛々しい)ポージングでおねだり(指図と同じ意味だと思う)する委員長に、俺たち三人は不承不承頷いた。

「……どうして僕まで」

 一人嘆くコウイチに、俺が無能ならお前だって無能だろ、とは言わないでおく優しい俺であった。


 放課後、俺たち三人はスーパーマーケットに来ていた。

 焼きそばの材料なら全部ここで揃うはずだ。

 とりあえず大量の焼きそばをカゴに突っ込んで、コウイチがカートを押している。

 シズは豚肉のパックを眺めていた。ロクに買い物などしないのだろう。その眼は猫じゃらしに誘惑される子猫並に泳いでいた。

「あぁ~~! もぉ~、いいや! これとこれとこれと、あと、これとこれとこれも……よし! 全部入れちゃえ!」

 あろうことか、並んでた肉々を全てカゴにぶち込みやがった。なに、お前の家ってライオンとか飼ってたっけ? 初耳~。

「じゃねえよ! 戻せこのアホンダラ!!」

「えぇ~? いいじゃねえかよ。ほら、カエデも好きだろ? 肉」

 どうやらコイツ、馬鹿らしい。ま、知ってたけど。

「肉は好きだが、メガネ委員長に踏まれて悦ぶ趣味はねえよ!」

「げぇ~~! しまった。やっぱキレるか、あのメガネ……」

「ああ、キレる。間違いなくキレる。メガネの錆にされるね、きっと」

 俺が適当に頷いてやるとコウイチとシズも感心したように唸っていた。

「あ、そっちのキレるなんだ……」

「ああ、そりゃ間違いねえ……。ありゃあ、何人もヤってるヤツの目だ。あたしには解る……」

 コクコクと頷き合って大量の肉を戻し、真面目に買い出しを始める俺たちだった。

 ……というか真面目にやってても、この会話を聞かれた時点で錆になるのは確定な気がするんだが……。

 委員長に【地獄耳】スキル(電脳ヴァーサスでは聞いたことないが)が装着されてないことを切に祈る俺であった。


 レジで領収書を受け取り、スーパーを出たところには、あのメガネ委員長が目くじら立てて仁王立ちしてた……、なんてことはさすがになかった。

 両手に大量のビニール袋を抱え、俺たちは気怠げに学舎へと足を進めていた。

「つーか、これ。賞味期限とか大丈夫なんだろうな……」

 俺の記憶が確かならば文化祭までまだ一ヶ月弱あったような……。

「冷凍しとくから大丈夫って委員長が……」

「……あのメガネ。テキトーすぎるだろ……」

 俺はガックリと肩を落とした。

 そんなやりとりに全く関心がないのか、シズは唐突に話題を変えてきた。

「そんなことよりさ、来週試合あるだろ? 作戦、立てようぜ」

 思わず飛びついてしまったのは、不覚だったかもしれない。だが、人間には優先順位というものがあるのだ。俺にとっての一番はゲーム。

 コウイチもやはりというかなんというか、誰よりも早く飛びついていた。

「でもさ、作戦立ててもシズは言うこと聞かないし……」

「しょうがないだろ。走り出したイノシシは急に曲がったりできないって言うし」

 俺が鼻で嗤いながらシズに視線を送ると、シズはむきーッと歯を剥いて威嚇してくる。まるでサルみたいだ。すごいなお前、一人動物園かよ。入場料取れるよ、それ。

「こんな可愛い美少女捕まえて、イノシシだとーぅ! 踏み潰してやるぞ!!」

「だから何度も言わせるな。踏まれる趣味はねえ!」

 ブオー、ブオーとタタリガミだかオッコトヌシだか王蟲だか知らんが、モノマネしながら頭突きしてくる自称美少女のもののけ姫をコウイチになすりつけ、俺は避難することにした。

 すると、ゴパァッ! と派手な音を立ててシズとコウイチはぶっ倒れた。シズがひっくり返ってスカートの下のスパッツを衆目に晒してたり、そのスパッツの下にコウイチが下敷きにされてラッキースケベ(転んだ拍子にブラジャーの中に手を突っ込んでしまったり、パンティの下に顔が滑り込んでしまったりする現象を指す。ラブコメの神様に愛された男だけに許された所業である。とはいえ、今回はさすがにそこまでの被害は出ていないので「もどき」とでも表現すべきかもしれない)をしたりしているが、まぁ概ね問題はなさそうだった。

 気のせいか、下敷きにされてたうぶなコウイチの顔が赤い。ああ、そうか。空を仰げばもうすっかり夕暮れになっていた。


 若干気まずい空気が流れていた。

 お前のせいだろ、と思ってシズを見ると、俯いていて表情は窺えない。

 仕方なくコウイチを見やると、こっちは何とも言えない顔で赤らめた頬をさすっている。……さっき、シズの臀部を受け止めた場所だな。

 まぁ如何にラッキースケベとはいえ達人の域にまで達していないコウイチではそれほどのダメージは浴びせられないはずだ。転んだ拍子に触れたのは胸部か臀部くらいのものだろう。それもせいぜい服の上からだ。女子的に考えて、それはそこまでのダメージなのだろうか。

 ましてや、こいつは並の女子ですらないのだ。『男女』と書いて『おとこおんな』と呼ぶくらいの漢らしい女子だ。そんなもののふが果たして胸部や臀部の一つや二つでここまで気落ちするだろうか。いや、断じてありえない!

 即ちこれは演技である。俺はそう断じることができる。俺やコウイチに女らしさを見せつけることで、今後のポジショニングを向上させようという浅ましい思考回路によるものだ。この推測に間違いはない。

 ならば、俺の選ぶべき選択肢は一つ。それはこうだ!

 俺はシズの太腿をさすりながら、シズの耳元で囁くように、こう告げた。

「お前の大腿四頭筋……、良い形をしているな。どんなトレーニングをしているんだ……?」

 ビクゥ! と、身体を弛緩させ、しかしさほど抵抗することもなくシズはその行為を受け止めていた。

 俺は、シズの女らしさを否定するため、シズの男らしい部分を褒め称えることにしたのだ。

 俺は腕をそのまま腹へと伸ばし、へその辺りをぐるぐると弄ってやる。

「普段は服に隠れて見えない腹筋も、相当に鍛えられている……。これは一朝一夕で身につくものではないぞ。賞賛に値する……」

 へそに触れた瞬間にビクンと身体を震わせた以外はさしたるリアクションも見えない。震えたのはこそばゆいからとかそんなところだろう。

 俺の腕は、さらにそこから背筋を辿って、胸筋を目指す。視界に映る胸部の肉付きは男性のそれと大差ない。よくよく見ればそのつつしまやかな膨らみに気が向くような向かないような。つまり是筋肉。

「……大胸筋の鍛錬は怠っていないか? ボディビルを目指すならば必須とも言える筋肉だ。努々忘れるんじゃないぞ……」

 俺は胸筋を解そうと手を伸ばし脇腹あたりまで差し掛かったのはいいのだが、ようやくそこから垣間見えたシズの顔色はというとそれはもう筆舌に尽くしがたい様相だ。

 なんというか……、閻魔さまがいるのだ。あれ、ひょっとして俺、地獄に墜とされるの?

「こんの……、セクハラ大魔王が!!!」

「ぐぼらッ!!」

 気のせいか、肋の折れる音が聞こえたんだが……。

 っていうか、俺が大魔王ならそれを一撃で屠るお前は何なんだよ。天魔王か。それとも魔神?


 俺は腹を押さえながら、どうにか歩く二人についていった。

 せめて荷物を……。荷物を持ってって!

 だが、俺の独白は声にもならない。

 目の前には澄まし顔のもののふ姫。隣にはラッキーコウイチ。

 買い出しの荷物はというと、シズの荷物をなかば無理矢理に俺とコウイチが持たされている。どうしてこうなった。

 いや、俺のせいなんだろうけど。

 とはいえ、シズが激昂する理由が俺には分からん。まさか本当に恥ずかしがっていたのか? こいつにそんなオトメ要素が? ……ありえん。コウイチがグレてパンチパーマになって盗んだバイクで走り出すぐらいにありえない。

 それともまさか……。

 俺のウィスパーヴォイスにあてられたシズがオトメに目覚めてしまったということだろうか……。

 それならば考えられる。むしろ大いにありえると言ってしまってもいいだろう。

 そうか。そういうことか。謎は全て解けてしまったぞ。ジッチャンの名に懸けるまでもなかった。

「なるほどな……。分かってしまったよ、シズ……。お前は恥じらっていたのだな」

「あ、あああ当たり前だろッ! あたしだって花も恥じらう十六歳なんだぞッ!? ……だいたい、いきなりすぎるだろ……。……こ、心の準備が……」

 憤ったシズが青筋を立てている。……後半はあまりにぼそぼそと喋るので聴き取れなかったが。

 しかし、オトメに目覚めたというのなら、男らしく扱うのは不相応というものなのだろう。俺は言ってやった。

「もうもののふの振りをするのはやめろ。恥じらいに震える演技も必要ない。何故なら、お前は……お人形だ」

「何……!?」

「分からんのか。お前は俺のウィスパーヴォイス無しでは生きられない木偶の身体に成り果ててしまったのだよ。ならば答えは簡単だ。正直になれ。正直に女の本性を解放しろ。さすれば俺がいくらでも女の快楽を教えてやろうではないか。お前を……お人形にしてな!!」

「死ねッ!! この腐れ外道がッッ!!!!」

 俺の決めゼリフはシズを陥落することもなく、それどころか陥落されたのは俺のほうだったりする。しかも別の意味で。

 俺の発言に、顔を怒りで真っ赤に染めたシズは、腰を深く落とし、まっすぐに相手を突いた!

 ドパァンッ!!

 またしても鳩尾に正拳を食らいながら、俺は世界の平和を憂えていた。

 誰かの願いが叶うとき、きっと誰かがえずいているのだ。

 今の俺のように。おえぇ……。……こんにちは、今日の昼飯の焼きそばパン。ちょっと見ない間に随分と変わり果てた姿になっちゃって。もう~、おばちゃんびっくりしたわよ~。

 近所に住まう主婦、サトウキミエさん(54)のモノマネをすることでどうにか気を紛らわそうとしたが、当然、抗えるわけもなかった。

◆完全なギャグパートです。

好き放題やりました。本当にすみませんでした。

パロディネタはいっぱい入れましたが、全部分かった方はいたでしょうか。

というか自分自身うろ覚えのネタすら使っています。ごめんなさい。

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