第六十話 表情の練習
久しぶりに師匠のところに遊びに行ってから、何日もたった。
行き過ぎだとは思うけど、つい何度も師匠のところに会いに行ってしまって、師匠にはしょうがないわねぇ、と笑われてしまっている。
だけど、そのおかげでだいぶ強くなれてきた気がする。
特に、魔物を倒すことに躊躇いがなくなってきたこととか。
判断力とかも、実践を始めてから身についたことだ。
『リア、今日も師匠のところに行くの?』
『そうだね、行きたい……けど』
『あら、どうしたの?』
わたしが少し迷っているような様子を見て、ミリシアは不思議そうに首を傾げる。
『少し、やらないといけないことを思い出しちゃってね……』
『やらないといけないこと……あったかしら?』
ミリシアは少し首を傾げて、考えている様子だ。
やらないといけないことは、物語通りにするためにとても大事なこと。
わたしは、説明するようにミリシアに言った。
『物語通りにするためには、言葉とか、表情とか……あと動きも物語と同じようにしないといけないと思うの』
『そうね』
『でもわたし、主人公に冷たい態度を取れる自信がなくて……だから、練習しないといけないかもって』
物語の中にいた主人公を目の前にすると、テンション上がって嫌味な態度とかを取れなくなると思うから。
わたしの考えに、ミリシアは納得したように頷いている。
『それなら、わたしも手伝うわ』
『そう? とっても助かるよ、ありがとう』
わたしの言葉に、ミリシアは嬉しそうに笑う。
そのまま、わたしの手を引っ張って鏡の前まで案内してくれた。
『まずはなにから練習するの?』
『そうだね……話すのは難しいかもしれないから、表情とか?』
物語のミリシアは表情の変化が小さかったけど、それでも主人公に思っていることはバレているという不思議な感じだった。
もちろん、主人公の察する能力が高いのもあるんだろうけど……というか、それならなんでヒーローの思いに気づかなかったってことになってしまうけど……
じゃなくて、とりあえず今は思いつく限りの表情を練習しないといけない。
わたしは、鏡に映るわたしをじっと見つめる。
「まずは……軽く睨む、とか」
わたしは小さく呟きながら、鏡に映るわたしを睨んでみる……
けど、いまいち迫力がない。
まだ子供だから……っていうのもありそうだけど、気持ちがこもってないからかな?
『リア、嫌いな人を睨む想像をして。頑張れば、きっとできるわ』
『うん、わかった』
わたしは軽く頷いて、目を閉じる。
嫌いな人……この世界では、あまりいないかも。
人と関わることなんて、少なかったし……このお屋敷に来てからも、あまり周りを意識したことなんてない。
でも、強いていうなら……ミリシアを差別していた、両親かなぁ。
あっという間に追い出されたから、少ししかみていないけど。
わたしは目を開けて、ミリシアの親が目の前にいるイメージで睨む。
『まぁ、上手……! なにを想像したの?』
『ミリシアの親。ミリシアを差別していて、ちょっと嫌いだったから』
『あら……そうなのね。ありがとう』
ミリシアは少し嬉しそうにお礼を言ってきた。
……なんだかちょっと、照れくさいかも。
『……練習続けよ?』
『ええ、頑張りましょう』
少し誤魔化すように言ったわたしに、ミリシアは優しく微笑んできた。




