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異世界倒叙サスペンス~サイコパス男爵とシリアルキラー令嬢~  作者: 諏訪 富二一(ふじいち)
2部

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劣勢

緑色の光が、夜を切り刻む。


一射。


二射。


三射。


間を置かず四射。


リマが放った矢は直線だけではない。


途中で角度を変え、左右から挟み込むもの。


上空へ撃ち上げてから落下してくるもの。


一射目を避けた先へ二射目が来るよう計算されたもの。


ドライツェン・イェーガー。


その名は伊達ではない。


少なくとも、普通の魔法使いなら最初の三秒で地面へ落ちている。


それを。


アスイズミは全て捌いた。


光の剣が一閃する。


正面から来た矢を斬る。


身体を傾けて二射目をかわし、そのまま剣の腹で三射目の軌道を逸らす。


背後から迫った四射目は、振り向きもしない。


頭を僅かに下げただけ。


矢が髪を掠めて抜けていった。


「いやいやいやいや! なんだこいつ!」


リマの声から余裕が減っている。


「おかしいだろ! 最初はもうちょっと人間らしく困ってたじゃないか! なんで俺の矢を見慣れてきてるんだよ!」


矢を番えながら後退する。


その間にもアスイズミが迫る。


リマが下がれば詰める。


上へ逃げれば跳ぶ。


横へ回れば最短距離で追ってくる。


戦闘を始めた直後から強いとは感じていた。


だが十分ほど前のアスイズミと、今のアスイズミは明らかに別物だった。


反応が速くなっているだけではない。


選択が変わっている。


最初は矢そのものへ反応していた。


今は違う。


リマが弓を引く。


肩が動く。


視線が向く。


魔力が収束する。


その段階で、もう避け始めている。


攻撃が放たれてから避けているのではない。


放たれる前の情報から、次を予測している。


「冗談だろ……」


リマの背筋へ冷たい汗が流れた。


空中で身体を捻る。


光の剣が足元を通過した。


紙一重。


反撃で三本の矢を同時に放つ。


アスイズミが二本を斬る。


残り一本が肩へ刺さった。


「よし――」


そう思った瞬間。


アスイズミは矢が刺さったまま踏み込んできた。


「喜ばせろよ!」


リマが慌てて距離を取る。


その背後。


何もない空間から、刀が現れた。


アウグストゥス。


隠密状態からの奇襲。


アスイズミの首へ刃が迫る。


だが。


ガキン!


光の剣が、背後から来た刀を受け止めた。


アウグストゥスの眉が動く。


アスイズミは振り返ってすらいなかった。


その状態から刀を弾き。


正面のリマが放った矢を首を傾けて避ける。


「おいおい……」


リマの口元が引きつった。


アウグストゥスはすぐに再び姿を消す。


アスイズミは追わない。


正面へいるリマを見る。


最初の数分で判断したらしい。


アウグストゥスよりリマの方が弱い。


ならば先に弱い方を潰す。


合理的だった。


嫌になるほど。


「俺からかよ!」


光の剣が迫る。


リマは弓で受けようとはせず、大きく後退した。


刃先が胸元を掠める。


衣服が裂けた。


次。


脇腹。


かわす。


次。


首。


身体を反らして避ける。


三撃目で金髪が数本、宙へ舞った。


「くっそ! ドライツェン・イェーガーのこの俺が、こんな無名の悪漢に追い回されるなんて、帰ったら絶対笑いものじゃないか!」


悪態を吐きながら、さらに矢を放つ。


焦りを喋ることで誤魔化しているだけだった。


息が上がっている。


腕にも疲労が溜まり始めている。


対してアスイズミも無傷ではない。


姿を消したアウグストゥスは、リマが生んだ僅かな隙を逃さず斬撃を入れている。


肩。


背。


腿。


小さな傷が少しずつ増えていた。


出血もしている。


無駄ではない。


だが消耗の速度が違う。


アスイズミより先に、リマの方が限界へ近づいている。


「まずいな……」


また矢を放つ。


斬られる。


二本目。


かわされる。


三本目。


軌道を読まれていた。


「陛下ぁ。聞こえてるでしょう?」


返事はない。


当然だ。


だがどこかにいる。


「このまま同じこと続けてたら、先に俺が本当に二回くらい死にますよ。そろそろ何か手を変えないと、完全にジリ貧ですって」


冗談めかした声。


だが顔には脂汗が滲んでいた。


リマは矢を番える。


アスイズミを睨む。


その時。


アスイズミの目が、リマから外れた。


何もない空間へ向く。


そこには誰もいない。


少なくとも、リマの目には。


直後。


その空間からアウグストゥスの刀が現れた。


だが今度は、刀が姿を現すより先に。


光の剣がそこへ振り抜かれていた。


ガキィン――!


完全な先読み。


姿を消したアウグストゥスの奇襲を、攻撃が始まる前から待っていた。


リマから笑みが消えた。


「……陛下」


喉が乾く。


「こいつ、隠れてるアンタの位置まで学習し始めてません?」

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