劣勢
緑色の光が、夜を切り刻む。
一射。
二射。
三射。
間を置かず四射。
リマが放った矢は直線だけではない。
途中で角度を変え、左右から挟み込むもの。
上空へ撃ち上げてから落下してくるもの。
一射目を避けた先へ二射目が来るよう計算されたもの。
ドライツェン・イェーガー。
その名は伊達ではない。
少なくとも、普通の魔法使いなら最初の三秒で地面へ落ちている。
それを。
アスイズミは全て捌いた。
光の剣が一閃する。
正面から来た矢を斬る。
身体を傾けて二射目をかわし、そのまま剣の腹で三射目の軌道を逸らす。
背後から迫った四射目は、振り向きもしない。
頭を僅かに下げただけ。
矢が髪を掠めて抜けていった。
「いやいやいやいや! なんだこいつ!」
リマの声から余裕が減っている。
「おかしいだろ! 最初はもうちょっと人間らしく困ってたじゃないか! なんで俺の矢を見慣れてきてるんだよ!」
矢を番えながら後退する。
その間にもアスイズミが迫る。
リマが下がれば詰める。
上へ逃げれば跳ぶ。
横へ回れば最短距離で追ってくる。
戦闘を始めた直後から強いとは感じていた。
だが十分ほど前のアスイズミと、今のアスイズミは明らかに別物だった。
反応が速くなっているだけではない。
選択が変わっている。
最初は矢そのものへ反応していた。
今は違う。
リマが弓を引く。
肩が動く。
視線が向く。
魔力が収束する。
その段階で、もう避け始めている。
攻撃が放たれてから避けているのではない。
放たれる前の情報から、次を予測している。
「冗談だろ……」
リマの背筋へ冷たい汗が流れた。
空中で身体を捻る。
光の剣が足元を通過した。
紙一重。
反撃で三本の矢を同時に放つ。
アスイズミが二本を斬る。
残り一本が肩へ刺さった。
「よし――」
そう思った瞬間。
アスイズミは矢が刺さったまま踏み込んできた。
「喜ばせろよ!」
リマが慌てて距離を取る。
その背後。
何もない空間から、刀が現れた。
アウグストゥス。
隠密状態からの奇襲。
アスイズミの首へ刃が迫る。
だが。
ガキン!
光の剣が、背後から来た刀を受け止めた。
アウグストゥスの眉が動く。
アスイズミは振り返ってすらいなかった。
その状態から刀を弾き。
正面のリマが放った矢を首を傾けて避ける。
「おいおい……」
リマの口元が引きつった。
アウグストゥスはすぐに再び姿を消す。
アスイズミは追わない。
正面へいるリマを見る。
最初の数分で判断したらしい。
アウグストゥスよりリマの方が弱い。
ならば先に弱い方を潰す。
合理的だった。
嫌になるほど。
「俺からかよ!」
光の剣が迫る。
リマは弓で受けようとはせず、大きく後退した。
刃先が胸元を掠める。
衣服が裂けた。
次。
脇腹。
かわす。
次。
首。
身体を反らして避ける。
三撃目で金髪が数本、宙へ舞った。
「くっそ! ドライツェン・イェーガーのこの俺が、こんな無名の悪漢に追い回されるなんて、帰ったら絶対笑いものじゃないか!」
悪態を吐きながら、さらに矢を放つ。
焦りを喋ることで誤魔化しているだけだった。
息が上がっている。
腕にも疲労が溜まり始めている。
対してアスイズミも無傷ではない。
姿を消したアウグストゥスは、リマが生んだ僅かな隙を逃さず斬撃を入れている。
肩。
背。
腿。
小さな傷が少しずつ増えていた。
出血もしている。
無駄ではない。
だが消耗の速度が違う。
アスイズミより先に、リマの方が限界へ近づいている。
「まずいな……」
また矢を放つ。
斬られる。
二本目。
かわされる。
三本目。
軌道を読まれていた。
「陛下ぁ。聞こえてるでしょう?」
返事はない。
当然だ。
だがどこかにいる。
「このまま同じこと続けてたら、先に俺が本当に二回くらい死にますよ。そろそろ何か手を変えないと、完全にジリ貧ですって」
冗談めかした声。
だが顔には脂汗が滲んでいた。
リマは矢を番える。
アスイズミを睨む。
その時。
アスイズミの目が、リマから外れた。
何もない空間へ向く。
そこには誰もいない。
少なくとも、リマの目には。
直後。
その空間からアウグストゥスの刀が現れた。
だが今度は、刀が姿を現すより先に。
光の剣がそこへ振り抜かれていた。
ガキィン――!
完全な先読み。
姿を消したアウグストゥスの奇襲を、攻撃が始まる前から待っていた。
リマから笑みが消えた。
「……陛下」
喉が乾く。
「こいつ、隠れてるアンタの位置まで学習し始めてません?」
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