表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイコパス皇帝とシリアルキラー姫~42人殺した娘を、父は今日も隠し続ける~  作者: 諏訪 富二一(ふじいち)
麗しき災厄

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/30

幸運は導いた

 セレスティアが次に向かったのは治安局だった。


 だが、そこで得られた情報も執政官の話とほとんど変わらなかった。


 多少増えたのは、死体の主と思われる行方不明者の候補リストだけ。


 それも完全には確定していない。


 年齢。


 体格。


 失踪時期。


 家族の証言。


 それらを無理やり照合して作った、捜査途中の資料にすぎなかった。


(駄目だな)


 セレスティアは資料に目を通しながら思う。


(このまま聞き込みを続けても情報は増えない)


(なら、死体を見るしかない)


 彼女は治安局員に頼み、死体の安置所へ案内してもらった。


 そこでサイコメトリーを使い、死体や遺留物から情報を集めるつもりだった。


 だが、それも空振りに終わる。


 遺留品はほとんど残っていなかった。


 そして死体そのものには、深淵の魔法による妨害が施されていた。


 触れた瞬間、情報の底が見えない。


 ただ黒く、重く、沈んでいる。


 見ようとすればするほど、意識が無関係な夢や恐怖の残骸へ引っ張られそうになる。


(深淵か)


(随分と念入りだ)


(犯人、もしくは協力者に高度な魔術師がいる)


 セレスティアは死体を一つずつ確認した。


 首はない。


 身元を示す装飾品もない。


 さらにエンバーミングが施されている。


 そして、よく見ると肌を切り取られている箇所がいくつもあった。


 最初は防御創かと思った。


 だが違う。


 防御創なら、腕や手に集中するはずだ。


 しかし傷は脇の下や内腿にもあった。


(こんな場所に防御創はできない)


(争った傷ではない)


(切り取った傷だ)


 セレスティアは一体の死体の前で足を止めた。


 十四、五歳ほどの少年。


 その背中、右の肩甲骨付近。


 三センチ四方ほど、皮膚が切り取られていた。


(そうか)


(痣か)


(ほくろ、瘤、火傷痕でもいい)


(個人を特定できる特徴を消した)


 胸の奥が冷える。


 これは衝動的な殺人ではない。


 死体を隠すための処理があまりに丁寧だ。


 エンバーミング。


 特徴部位の切除。


 遺留品の処分。


 深淵の魔法。


 犯人は、死体が見つかる可能性を想定していた。


(いや)


(本当にそうか?)


(見つかる前提なら、そもそも保管などしない)


(死体を保管していた?)


(なぜ?)


(儀式のためか)


(収集か)


(コープスパーティーの準備か)


 セレスティアは眉を寄せる。


(エンバーミングにも違和感がある)


 エンバーミングは稀人が伝えた異世界の技術だ。


 だが、この世界では一般的ではない。


 死体はアンデッド化を防ぐため、骨が灰になるまで火葬するのが基本である。


 保存処理など本来必要ない。


(この技術を知っている者は限られる)


(学者)


(魔術師)


(医師)


(貴族)


(知識欲の強い商人)


(あるいは、稀人由来の技術に触れられる立場の者)


 セレスティアは死体を見下ろす。


(だが、これがコープスパーティー事変の再現ならどうだ)


(黒山羊と毒ヘビの教団の指導者層なら知識はある)


(死者を保存する理由もあるかもしれない)


(死者を辱め、怨嗟を高めるため?)


(いや、エンバーミングに怨嗟を増幅する効果があるなど聞いたことがない)


(だが、私が知らないだけか?)


(あり得る)


(魔術儀式の知識はアシュハートの方が詳しい)


(なぜ一緒に来なかった)


(私は愚か者か)


 内心では自分を罵倒していたが、表情は冷静なままだった。


 治安局員は、彼女が落ち着いて死体を観察しているようにしか見えなかっただろう。


 セレスティア・ヴァレンティアは冷静沈着に見える。


 実際、判断は冷静だ。


 だが感情が薄いわけではない。


 むしろ内側では、常に忙しく怒り、焦り、悩み、反省している。


 それが表に出ないだけである。


「ありがとうございました」


 セレスティアは死体安置所を出た。


 現時点で分かったことは多くない。


 しかし、ただの殺人事件ではない。


 それだけは確かだった。


 治安局の入口付近へ差しかかった時だった。


「失礼。勇者殿ですかな?」


 不意に声を掛けられた。


 振り向く。


 そこに立っていたのは、身なりの良い中年の男だった。


 柔らかな笑み。


 少し落ち着きすぎた物腰。


 貴族だろう。


「私はパーラメント・ヒル男爵と申します」


 男は丁寧に礼を取った。


「少し、お話を伺っても?」


 この出会いが、アウグストゥスにとって最悪の一手になる。


 その時のセレスティアは、まだ知る由もなかった。



◇ ——おまけ——



厄介なことだ。


月に一度。


多ければ二度ほど。


彼女は人を殺して帰って来る。


どうやら周期があるらしい。


いや、それは別に構わん。


問題は、死体の数が日に日に増えていることだ。


首だけならまだいい。


場所を取らんからな。


厄介なのは胴体の方だ。


流石に全部を保管するのは無理がある。


なにせ、これから先も増え続けるのだから。


……ん?


娘の蛮行を止めないのか、だと?


お前は俺に何を期待している。


ーーアウグストゥス回想録より抜粋




続きが気になる方は、ブックマーク、評価をお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ