127 バロム、強制退去
いつの間にか30万字超えててた件
「何だマスター? 吾輩に何か用か?」
モニターと向かい合っているバロムはこちらを一瞥し、やましいことは何もないと言わんばかりにしらばっくれる。
「おいバロム。これ、お前がなんかやっただろ」
「いやはや、心外であるなぁ... アングルからして吾輩が撮ったものでないと分かるだろう? であれば必然的に、投稿したのも吾輩ではないとわかるだろうに」
なおもすっとぼけるバロム。しかし、俺は確信を持って言い放つ。
「そうだな。でも、お前が何かしらの小細工をしたってことはお見通しだよ。なめんな」
少しの沈黙の後、バロムは一転して悪魔のような笑みを浮かべていた。
「何故バレた? 下手を打ったつもりもなければ、マスターのスキルには読心の類いも無かったはず..... それに、アイテムによる嘘看破も上手く躱したつもりだったが」
と、そんな風に開き直ったバロムに対し、俺は嘲るようにこう言った。
「カマかけただけだ。間抜け」
再びの沈黙。
直後に空を仰いだバロムは、前髪を搔き上げるような、芝居じみた身振りと共に高笑いを上げた。
「フフフ..... フハハハハハハハハハハハッ!」
近所迷惑を一切考えていない無遠慮な笑い声が響く。そのまま息が枯れるまで笑い続けたバロムは、一転して表情の抜け落ちた能面のような顔で、抑揚のない脅し文句を口にする。
「ほほーう.... いくらマスターとはいえど、所詮はいまだ人の身のまま。神たる吾輩の覇道を妨げるなど、百年早い。大人しく吾輩に手を貸すことが最善だと言っておこう」
そう驕り高ぶるバロム。しかし俺は優しいので、執行猶予を与えるくらいの温情をくれてやるのもやぶさかではない。
「お前、今期のランクマは結構やりこんでたよな。俺の慈悲が残っているうちに、土下座して許しを請えばゲームくらいはさせてやるさ」
しかし、バロムは聞く耳を持たなかった。
「何をいまさら... 吾輩の辞書に妥協の文字はないのだよ。全力で戦い、全力で取り組み、全力で稼ぐ。そこに水を差せる存在など、今現状ではリビングのニートくらいしかおらん。あの怠け者に泣きついてみるか? 10年後くらいには動いてくれるかもしれんな」
「.....最後通告はした。じゃ、あとはお前の自業自得ってことで」
「ほう。今ここで戦うか? ....しかし、パソコンが巻き込まれるといかんからな。【一騎打ち】による空間遮断を行っておこう。なに、吾輩はマスターのことを認めているからな。戦いとして成り立つよう、同じ土俵で戦ってやろうではないか」
と、そんな風に戦うことを前提に準備を進めるバロムに対し、俺は容赦なく必殺のカードを切った。
「俺は契約者で、お前は召喚獣だ。そのことは分かってるよな?」
「ふむ。しかし、現実の【召喚】というスキルには絶対命令権などは組み込まれておらん。あくまで心を通じ合わせるか、力で屈服させるしかないぞ」
「ああ、そうだな...... 【召喚解除】だ」
「ぁ、ちょま....」
間の抜けた情けない声を残して、バロムは元居た魔界に強制退去していった。これで、俺が召喚しない限りバロムはこちらに戻れない。命令権は無かろうと、バロムという召喚獣をこの世界に繋ぎとめているのは俺なのだ。俺が魔力の供給をカットすれば、自然とバロムはこの世界に居られなくなって当たり前だろうに。
バロムよ、お前は一か月ゲーム禁止だ。ざまぁみろ。
....さて、改めてネット上をにぎわせている記事を読んでいくと、でるわでるわ。
正体不明の仮面探索者!だの 挙句の果てには謎仮面=隠者説などなど... かなり際どい記事が散見される。そんなものをはじめとして、ネット上には無断転載されたバロムの動画を元にした様々なネットニュースが飛び交っていた。
「隠者、格闘タイプだったって... なんだよコレ。はぁ」
収拾は、つかないだろうなぁ.... もう世界中に拡散されているし。それに、バロムが粉砕した蜘蛛モンスターのステータス詳細までもが探索者Wikiに掲載されているというのも問題だ。
推定レベル300超、加えて種族名や進化数までもがきっちりと....
どこの誰が書き込んだんだ? ここまで詳細な編集権限を持てるのは、第二級迷宮鑑定士の資格を持ってる探索者のはず。それに加えて、バロムが現場に向かう前に蜘蛛モンスターに接敵していた探索者ってわけだ。
特定は出来るだろうが... 無駄だな。
「ふぅ.......... よし。切り替えていこう」
広まってしまったものは仕方ない。であれば、俺が次に知るべきはバロムがなぜあのような暴挙に出たのかだ。
例えば.... あの映像をネタに、探索者活動の許可を得ようとした?
違うな。取引材料にする前からネットに上げてちゃ意味がない。バロムがバカで、「もう隠者として吾輩が目立ったのだから、あとは吾輩が探索者として活動してやろう!」とかバカなことを考えたならあり得るが、バロムもそこまでバカじゃないしな....
であれば、目立つことそのものに意味があったとかか? バロムは人間に対する承認欲求なんて持っていないだろうし、目立つことによって何かしらの利益があるとか。
「つってもなぁ、本人は送り返したし」
あんなのでも憤怒を司る悪魔だ。今はかなり荒れているだろうし、当分の間は呼ぶのを控えたほうがいいだろう。
「であれば、聞くべきはあっちだな」
意を決して、俺はリビングでエルの羽のブラッシングをしているアネモイに問う。
アネモイは普段から自堕落に生活しており、俺が権能の扱いについて教えを乞うた時も軽くあしらわれたが、今日の俺はアネモイとテレビの直線上に土下座してでも聞き出す覚悟だ。
そしてその覚悟を感じ取ったのか、アネモイもテレビに向けていた視線をこちらに移した。
「で、バロムがあんなことをした理由に心当たりとか.... ある?」
「では、その情報の対価を請求しましょうか。そうですねぇ... 一日三回、私に向けて祈りを捧げてもらいましょう。そうすれば教えてあげますよ」
問いに対して、アネモイから帰ってきたのはそんな良く分からない返事だった。
「......はぃ? いや、まぁいいんだけどさ。そんなのがお礼になるのか?」
「はい、なります。そして、これこそがマスターの問いへの答えでもあるのです」
余計に意味が分からない。祈りがお礼で、しかもバロムが自分のことをSNSに曝した理由?
「........あ~ そういうこと!?」
「分かったようですね。では、答え合わせをしましょう」
「神だから、信仰が力になるとか.... そういう系?」
「そういう系です」
アネモイやバロムのようにレベル1000になった存在は、祈られることで力を得られるらしい。それが今回の事件を起こした狙いで、あわよくば探索者として金を稼げる下地を築こうとしたのかな?
だが、探索者って信仰されるのだろうか... キングはアイドル的な扱いをされていたが、偶像崇拝もオッケーなタイプ?
「でもさ、バロムはそんな新興宗教のご神体みたいにはなってないけど」
「感情の種類は問われません。畏怖、尊敬、信奉.... それが何であれ、強い意思が注がれれば、それは我々の力となります。もちろん相性はありますがね? 悪魔の神格たるヤツであれば、恐怖の対象となるだけでも力を得られるでしょう」
「へぇ」
今回のバロムが映る動画はヒーロームーブみたな感じだった。しかし、その結果として向けられるのは恐怖とは真逆になるだろう。あのバロムが妥協したということは、少しは俺の心労を慮って忖度したということなのだろうか?
「....」
よし、今シーズンが終わる前には召喚してやろうか... 終了一日前だけどな。
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
↑
作者の反応




