episode8 奈落の2人部屋
部屋割が決まり、それぞれの夜が始まる。
森先輩が機嫌悪そうに僕たちの部屋を出て行った。思わず先輩に向かって『アホ』なんて言ってしまった…が、僕は謝る気はさらさらない。だって、事実だし。あの奈落さんの言葉の意味が解らなかったなんてホントアホですよ。でもまぁ、最後までからかってやるつもりです。
僕の隣には想い人…奈落さんが居るし。これは天が僕にくださったチャンス!!…だけど…解ってる。衣子さんが言ったあの言葉の意味なんて…。
それでも僕は奈落さんと2人部屋になれて嬉しかった。
こんなのは周りから見たら惨めですか?…惨めでもいいです。だって、それでも…
好きだから…しかたない…。
僕の位置からは奈落さんのほぼ横顔しか伺えないが、大体は想像がつく。森先輩のこと考えてるんでしょ?
昨日、旅館でなにがあったかは僕は知らないけど、奈落さんの表情を見ればわかる。真顔を装ってるみたいだけど、僕にはなんとなく判る。雰囲気とか森先輩を見る目が違う。
そして僕は、森先輩を前にすると肉食系男子なふりをしていたけど本当は…保険をかけて行動してしまう臆病者。無理矢理こっちを振り向かせたいとは思うけど、心のどこかでそうは思ってない。…本当に僕は男として情けない…。欠けている。
年上の女性。ミステリアスで美しい女性。僕が仕事に失敗したりするとちゃんと叱ってくれて、褒める時は褒めてくれる。芯のしっかりした人。他人思いの優しい人。だから憧れた。そして一緒にいるうちに、ずっと一緒にいたいという気持ちになった。僕の好きな人。
今まで数人の可愛い子と付き合ったけど、その殆どは長続きせず短い交際は一週間…なんてこともあった。
原因は大体わかる。僕が恋愛に本気だと思われないから。相手に本気だと思われるのが何となく嫌でそんな素振り見せないようにしてたから。遊びだと思われてすれ違うのは当然。
けど実際、今の恋に比べたら、遊びだったかもしれない、本気じゃなかったかもしれないと思えてくる。
奈落さんはそう思わせるほど、なにか人を引き寄せる魅力があると僕の本能が言う。
そんなダラダラと考えていたら奈落さんから声かけてきた。
奈落「鍵閉めてくるね」
佐々木「は、はいっ!!」
なんか緊張しちゃって声が裏返った。バレバレじゃないか。恥ずかしい。
奈落さんが戻ってきた。
奈落「森が言ってたように本当に鍵壊れそう。後帰る時あのお婆さんに言った方がいいかな。」
佐々木「そ、そうっすね!」
いつも通りを装えない。奈落さんは通常運転だ。
奈落「人形がある棚側と壁側どっちがいい?」
佐々木「どっどちらでも!」
奈落「さっきっからどうしたの?なにか隠し事をしている森みたい」
『森みたい』…さっきっからその名ばかり…。いや、2回しか言ってないか…でも僕には耳にタコが出来るくらい聞いているようで…うざったかった。
僕は頑張って作ってた笑顔が引きつってしまった。
奈落「あ、なんかごめんね。言いたくないことだった?」
佐々木「奈落さんは森先輩が…す、好きなんですか?」
僕は聞きたくなかったことを聞いてしまった。
奈落「うん。好きだよ」
即答だった。僕はなにも答えることができなかった。
奈落「今の会社に入社する前の面接覚えてる?」
え?急に話が変わった??
佐々木「えぇ、覚えてますけど…面接順が一緒で、そこで知り合ったんですよね!僕と奈落さん」
奈落「そう。この会社受けにきた人はろくなことしなければ合格っていう会社だったから、余裕で合格だったのに、佐々木くんはガタガタ震えてて」
佐々木「なっ!だって緊張するじゃないですか!そう言う奈落さんだって!」
奈落「うん。私もすこし緊張してた。」
佐々木「…で、なにが言いたいんです?」
奈落「この人は絶対に『余裕で』受かるなと思ったの」
佐々木「なにを根拠に?」
奈落「根拠…と言われるとわからないけど、素直そうで正直そうで真っ直ぐな人だと思ったから。だからもし、今の部に一緒に受かったら仲良くなりたいと思った。こんな風に異性で思えたのは初めてだったの」
この人はホントに…
奈落「さっき森のこと好きだって言った…私は昔から友達が出来なくて森だけが私に話しかけてくれたの。これだけ聞くと森に執着してるだけとか思うかもしれないけど…。
その森とまた再会して、森から森の友達へと人脈が広くなっていって、そして今楽しく旅行してる。昔の私じゃ考えられなかった。ほんと夢みたい…今すごく幸せ。森のお陰。
森のことは好きだけど、同じくらい中間さんも馬城さんも、そして佐々木くんも私にとって、とっても大切な人なの。1人も欠けたら嫌だと思ったの」
奈落さんの真顔の表情がまるで微笑んでるかのように見えた。
年上の女性。ミステリアスで美しい女性。僕が仕事に失敗したりするとちゃんと叱ってくれて、褒める時は褒めてくれる。芯のしっかりした人。他人思いの優しい人。だから憧れた。そして一緒にいるうちに、ずっと一緒にいたいという気持ちになった。僕の好きな人。
今、告白すらしてないのに失恋してしまった。これからも僕には見せない表情を森先輩に見せるんだろうなと考えると悔しくてしかたがないけど…これでよかったんだと思えた。
僕には十分すぎる言葉だった。
寝るのは結局僕が人形側になったけど…。僕は心清らかに眠れた。
次の日、森先輩は僕に睨みを利かせてきた。どんだけこの人には余裕がないんだ…結果は誰もがわかってるのに…。
まぁ、これはこれで面白いや。
本心じゃないけど、今後とも見守ってやりますかねぇ!!
勿論、隙あらば…ですが!
ー 中間と馬上の部屋にて。
…なんかすごい展開になってしまったな。なんか仲良いからと自動的にすんなりと百合子と2人部屋になったけど、他の奴ら大丈夫かな…
特に三角関係どうなることやら…揉めてないといいけど…。
そんな不安を抱えながら百合子と隣の部屋に来た。この部屋に来るまでの間、特に理由はないが会話はなかった。
先に百合子が入りその後に俺が入ってすぐに鍵を閉めた。
中間「あ、鍵閉めてくれた?」
馬上「おう。閉めたよ」
中間「…ちゃんと閉まった?」
馬上「うん閉まったよ。それがどうかした?やっぱり心配だった?」
中間「いや、心配したと言うよりは、ここの部屋は鍵新しい方だし、この部屋なら私1人でも良かったなーと思って。」
馬上「…百合子…だからなんでそう思うんだよ。」
中間「なんか、なんとなく、あたしと直人、森くんと衣子ちゃん、の組み合わせで部屋割り決まるんじゃないかと思ってたのよ。そうなると淋しがりやの佐々木くんが泣いちゃうんじゃないかと思って心配になったから、直人と佐々木くんって組み合わせがベストだと思ったのよ。」
なにを心配してるのかと思えばそんなことか…泣いちゃうってなんだ。
百合子はふぅと息を吐きながら布団の上に座った。俺も隣の布団に続けて座った。
馬上「子供じゃあるまいし…というか結果、森が1人部屋だしな。」
百合子がゲームの事思い出したのか吹き出して笑った。
中間「あははっ!今思い出してもおっかしかったなぁ〜。あの佐々木くんが一番乗りの時の森くんの顔!絶望よ!顔に出すぎ!!」
また笑った。
百合子が、口を開けて笑っているところを見ると、百合子と出会った時のことをいまだに思い出す。
少し会話がなくなって静かな部屋で俺から話し始めた。
馬上「なぁ、俺たちが出会った時のこと覚えてるか?」
百合子「どうしたの急に」
そんな不思議そうな顔されても当たり前だよな。なんか話したくなっただけだ。別に理由がないし、だからどうなんだと言われたらお終いなような会話だ。
馬上「始めて会ったのは百合子の短大の祭りがあった時だよな。俺はそん時、別なところで働いていたというより、安定した職が見つからずアルバイターだったが。」
中間「そうそう!よく覚えてるわね!確か同じ短大の子が誘う人どうしようってなってて、穴埋めに招待されたのが直人だったのよね。その当時は本当に緊張しちゃってさ!」
馬上「そーだったよなー。百合子はどちらかというと普通だったんだけど俺が緊張してさ」
中間「あれ?緊張してたよ?緊張してたの私だけじゃなかったんだね。直人が緊張とかしなさそうなのに。誰にでも分け隔てなく話すし。」
…そりゃ。緊張したよ。初めて入る大学で、さらに知ってる人1人だけって状況だし。なに話したらいいかわからなかったよ。
それよりも、中間が緊張してたんだな。意外だな。全然そうには見えなかった。
馬上「意外だな。」
中間「そんなことないよ?その時に直人と働きたいと思ったの。」
馬上「何故だ?」
百合子は両方の手の平を不意に合わせて指先を下唇に添えた。
中間「ん?…カッコいいと思ったから。」
馬上「え!?」
俺は意外な言葉に思わず声が出た。どちらかといえば森の方が顔立ちはっきりしててかっこいいと思うが。俺は全然かっこよくないよ。
馬上「どこが?」
中間「え!それ聞くの?…んー。私と同い年なのにもう働いてたところとか。思ったより大人っぽかった所とか。」
(後…顔も。)と百合子は小さな声で言ったが俺は聞き取れなかった。
馬上「ごめん最後の方聞き取れなかった」
中間「え!いや!なにも言ってないよ!」
馬上「そうか…。驚いた。初めてかな。大人っぽいとは言われたことあるけど。ただ単に老け顔なんじゃないか?」
中間「なんで自分の魅力に鈍感なの!?」
中間が少し声を張り上げて言ってきた。驚いた。正直、こんな会話だったから後半そういう喋り方なのかもしれないけど。思ったより子供っぽいところあるんだな。まぁ、素直に嬉しいかな。
馬上「ありがとうね。素直に嬉しいよ。そうやって俺のいいところ見つけようとしてくれて。本当にいいやつだな。改めて思うよ。」
中間「本当だよ。追いつくのにどれだけ苦労したことか。」
馬上「俺に?」
中間「はぁ、周りには敏感なのに、自分の事絡むと本当に鈍感」
…そんなに俺って鈍感か…?
馬上「そんなに鈍感かな」
中間「鈍感だよ!あ!…本当に鈍感だわ…?」
? なんか今日は本当に百合子が不思議な日だ。疑問そうにしている俺を見て少し百合子はムッとした。何か少し怒らせたか?もう少し敏感になろうかな。そんな言い方は変か。
腕を組んでいたのを解いてまた話しかけてきた。
中間「今まで付き合った子…居るの?」
付き合った子…か。交際って事だよね。
馬上「居ない…かな?」
中間「告白された事ないの?」
馬上「ある…かな。」
中間「じゃあ、振ったってこと?」
馬上「いや、振ってない。」
中間「え!?どうゆう事?」
馬上「あー。付き合うってどうゆう事か教えて欲しいって返したかな。教えてくれるかなと思って。そしたらいつのまにか女の子の方から連絡こなくなったかな。一緒に帰ってたりしたけど。…あー。これお付き合いしたってことに入るのかな。」
中間「手…つないだの?」
馬上「…つないだかなぁ。繋ぎたいと言われたから」
中間「…き、キスは?」
馬上「あー。したね。」
中間「そ…そそその先は?」
馬上「女の子と寝ること?したね。殆ど女の子からだけど。…この話聞いて楽しいの?」
なんか過去の恋愛をほじくられるようで嫌な気分になった。
女の子たちはこうやって恋バナとやらをするのか…?た、楽しくないだろ…。
中間「いや。直人が意外にも童貞じゃない事は分かった。」
直人「え!童貞だと思ってたの!?」
中間「あ、いや、侮辱となそんなんじゃなくて。あの、だから、その。女の子に興味ないのかと思ったからさ。」
直人「そりゃあるよ男だもん。」
百合子はなんか焦ったように返事した。
中間「そ!そうよね!」
直人「うん。実際今も少し意識してる。百合子は女の子だし。それにいつも思うけど目のやり場に困るような胸元開いた服とか着るから。その。あ、ごめん。別に見てたわけじゃなくて、あ、見てたんだけど。あ、いや違うそうじゃなくて。なんか…いや…何言ってんだろ…カッコ悪…。」
俺は言いたいことが纏まらなくてあぐらをかいた右膝に肘ついて右手で顔を洗うかのように顔を擦った。
百合子に変だと思われたよなぁ…。嫌われたかな。それは嫌だな…。俺は男だよって伝えたかったんだけど。なんでこうなったかな…。
今百合子はどんな顔してるのかな。
俺は気になって右手指の隙間からチラッと百合子を見た。その顔を見て俺は驚いた。
百合子は驚いた顔を真っ赤に染めて俺の顔を一点に見つめていた。そんな頰を染めた百合子は初めて見た。いつも冷静だったから。
その顔は、一言で言うと、可愛かった。
2年以上の知り合いだけどこんな顔をするんだな。知らなかった。
他にはどんな顔するのかな。俺には知る由もないが、とても気になった。
変だな。お互い疲れてるんだな。
俺は立ち上がった。
馬上「ちょっと俺顔洗いに行くついでに何か飲み物買ってくるよ。」
中間「あ!ちょっ!あたしもっ!あぁ!!」
百合子が俺を引き止めようと俺の裾を引っ張り立ち上がったが、布団で足を取られ転びそうになった。
俺は必死に百合子を助けようとしたが、カッコ悪く2人とも転んだ。俺が上になって百合子が下敷きになってしまった。
馬上「ご、ごめん!俺重いのに!」
俺は慌てて状態を起こそうとしたが、上手くできなかった。なんか右手で触っているところがやけに柔ら…
百合子「あっ…」
百合子は驚き隠せない顔をさっきより真っ赤に染めて、少し眉間にしわを寄せ、変な高い声を出した。
馬上「え…」
これって…
*To be continued…
8話もご覧頂きありがとうございました!
ついに恋人同士のようで恋人ではない馬上と中間の間に動きが!?
次回もお楽しみに!




