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ヒストリア  作者: パリィ
2章 暁の救世主
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交易都市 王国軍蹂躙戦


「さぁ、蹂躙しなさい」


そのミストの一言で足元のアンデッド達が動き出し、向かってくる王国軍へ動き出した。


視認できる王国軍の先頭は重装騎兵。見える限りでは二千程が城壁内から出てきているようだ。

横隊で横に大きく広がりながらその突破力を活かし、緒戦からアンデッドの群れを蹴散らしてくるつもりだろう。


「ただのアンデッドと侮りましたか。……そのまま進みなさい」


ミストはアンデッドを前進させることを選ぶ。


そして次第に距離は近付き、黒いアンデッドの群れと王国軍重装騎兵の両者は激突する。


だが予想外にも蹴散らされていったのは王国軍重装騎兵の方だった。


一体一体のステータスが上級者プレイヤー並に高いアンデッドの群れは、重装騎兵如きの突撃にはビクともせず、重装備の騎士が乗った馬を固まった複数のアンデッドが分厚い層を作り出し受け止め、足を止めた馬上の騎士達に無数のゾンビやグール達が飛び掛かっていく。


そうして両者が激突して数分も経たないうちに約二千の重装騎兵はその姿を消していく。


「まだ終わっていません。進みなさい」


騎士や馬の死肉を喰らうアンデッド達に、ミストは再び命令を下す。


するとアンデッド達は立ち上がり、城壁の外に陣を張っている王国軍に向けて走り出した。





「ごめんなさいね、アグニスさん。指揮者は貴方なのに勝手な事をしてしまったわ」


ミストは隣に控えている、赤い半透明の体を持つ女性に頭を下げる。


アグニスと呼ばれた女性はアルシアと同じ精霊種で、今回の作戦で王国方面の囮となるアンデッド部隊の指揮をリーズリットから任されていた。


「いえ、構いません。リーズリット様よりミスト様方には便宜を図れと言われているので……。このままアンデッド達の指揮を続行しますか?」


アグニスはミストに問い返すが、ミストは首を横に振りアグニスに指揮権を返した。


「王国軍とリーゼが作り上げたアンデッドには圧倒的な能力差があります。このままいけば敵野戦軍はすぐに殲滅できるでしょう。私は姿を見せたくは無いので上空で待機しているので、後はアグニスさんにお任せしてもよろしいですか?」

「そうですか。畏まりました。すぐに終わらせますので少々お待ち下さい」


アグニスは淡白な反応を返すが、ミストはアグニスに優しく微笑み頷くとその場から姿を消した。


それを見送ったアグニスは、城壁の側に布陣している王国軍とアンデッド達が交戦状態になったのを確認する。


それはもはや戦闘では無く、腹を空かせたアンデッド達の捕食風景となっていた。


「や、やめろぉ!来るな!!こっちへ来るなああぁぁ!!」

「ぎゃあああああ!!俺の腕!!俺の腕があああ!!」

「なんでこいつら剣も魔法も効かないんだよ!なっ!!足がああぁああ!ぎゃあああああああ!!!」


人間たちの叫び声が響く。

アグニスが命令を下さずとも襲い掛かった無数のアンデッドは王国軍の防衛線を容易く食い破り、既に勝敗は付いているようだった。


「……ミスト様と会話をしているうちに既に結果は出てしまっていたようですね」


王国軍の陣形は保たず敵味方が入り乱れ、大混戦となり、アンデッド達は捕食した人間たちを貪っている。


アグニスは勝敗が決した戦場を一瞥すると、アンデッド達に新たな命令を下す。


「冒険者は殺してはなりません。生かして捕らえなさい」


それだけを命令すると、冒険者達と交戦していたアンデッド達は攻撃の手を止め反転し、王国軍だけを狙い始めた。


王国軍の全滅はもう時間の問題である。


「さて、後は敵の指揮官ですね。本当は皆殺しでもいいのですが、大旦那様の御命令ですからね……」


誰もいない空間にそれだけ言い残し、アグニスは王国軍の司令官が陣取っている城壁へゆっくりと飛んでいった。









交易都市ドリクトス 城壁上 本陣



「一体何が起こっているっ!?」


その声は交易都市ドリクトスを治める領主、クーディ伯爵の叫びだった。


現在、交易都市ドリクトスの城壁の外では、アンデッドの大群を相手に都市の守備隊と駐留している王国軍が接敵し、敵味方入り乱れる大混戦となっていた。


目の前の敵はゾンビやスケルトン、グールなどといった戦場跡に出現する戦場に出たことがある者ならば誰もが目にしたことがあるアンデッド達。


クーディ伯爵も若い頃に何度も戦場に出たことがあり、見たことのある敵だった。

だがどのアンデッドもクーディ伯爵の知識には無い動きをしている。


「何故アンデッドが陣形を取り重装騎兵を止めることができたのだ……。何故アンデッドがああも統率された動きを取れるのだ……」


クーディ伯爵が言っているのはアンデッド達の緒戦の動きのことだ。


こちらに無闇矢鱈に突っ込んで来ると思わせておいて、激突の直前になって陣形を組み上げ重装騎兵を迎撃してみせた。その後、分厚い陣形を突破できず足の止まった騎士達を馬から落とすと言う荒技で重装騎兵の騎士達は一網打尽にされてしまった。



初めは重装騎兵達の突撃で気勢を削ぎ、重歩兵で前線を支えながら後方の魔道兵と冒険者達でこちらが一網打尽にしてしまう腹積もりであったのに、いとも簡単にその思惑は覆された。


「何故……我が軍がここまでいいようにされている?」


どこがきっかけかは分かっている。

全てはアンデッドと侮り、無謀な突撃で貴重な重装騎兵を失い、本陣眼下にある後方陣地まで侵食されてしまっている。


重装騎兵を殲滅したアンデッドの群れは更に、後方部隊の前面に出ていた重装歩兵の盾を食い破りながら以前その足は止まらない。


こうして戦いが始まって大した時間も経過しないうちに、王国軍は瀕死の有り様だった。



「ジョージ・リック司令官!これは城内へ退却させた方がいいのでは無いかっ!?」


クーディ伯爵は指揮官であるリックに問う。


前線の完全崩壊は時間の問題で、ここで撤退しなければ全滅は免れない。


今リック司令官やクーディ伯爵の眼下で戦っているアンデッドは、明らかに普通のアンデッドの質では無い。


圧倒的な腕力や脚力の力強さにその数も多く、それぞれが意思を持ち動いている仕草も見て取れる。


何よりも陣形を変えながらこちらを攻め立ててくる賢さ。

連携を取り、翻弄し、悉くこちらの先手を取っていく。


リック司令官は今までにない魔物の習性に驚きながらもまるで底が見えない恐怖に駆られ、本人は冷静に考え命令を下していたつもりが、まともな思考ができない状態に陥っていた。


「アンデッドが……魔物が連携を取るなどあり得ないっ!!やつらは獣と一緒で本能だけで動いているだけだっ!!城内に待機している冒険者共を投入して数で押し潰せばっ……」


リックは眼下の惨状が見えているにも関わらず、同じ轍を踏もうとしている。


これにはクーディ伯爵も流石に焼け石に水だと分かる。それに城内で待機している冒険者は新人も多く、治安維持に回っている者が多い。


そして何よりこの乱戦模様だ。

経験の浅い冒険者などひとたまりもないだろう。


「リック司令官!!貴様乱心したか!?我が都市の冒険者を無駄死にさせるつもりかぁっ!?貴様の権限をこの場で凍結させてもらうっ!!以降は儂が指揮を執るぞっ!!」


クーディ伯爵はリック司令官がまともな思考が取れず、指揮が出来ていないことを察して軍の指揮権を凍結を宣言した。


リックという男はもともと大貴族の出で、金と実家の権力でのし上がってきた男だ。


今までは表立って批判することも難しく、せめて小競り合いの無い誰にも迷惑を掛からず対外的にもそれなりのポストとして、重要都市である交易都市の防衛部隊の司令官として赴任させられていた。


「馬鹿なっ!!この私が指揮をせず勝てるわけがないっ!凍結などさせんぞ下級貴族めが!!」


リックが剣を抜き、クーディ伯爵に突き付ける。


「貴様っ!?衛兵!リック司令官を取り押さえろ!!奴は乱心しておる!捕らえて城壁の中へ連れて行け!!」


クーディ伯爵の命令で衛兵達がリック司令官を取り押さえようとしたその時。




「その必要はありませんよ」




乱戦となった戦場によく透き通り、耳心地の良い凛とした声が響く。


「がっ…!?」


その声が聞こえた瞬間、リック司令官の胸から赤い半透明の人の腕が生えていた。


誰にも何が起こったか理解できず、動く事も出来なかった。


リック司令官の体はそのまま燃え始め、あっという間に灰と化していく。


その場に残ったのは、リック司令官を殺害したと思われる赤い半透明の体をした美女が一人。

それだけで人間ではないと分かる出で立ちに、衛兵達は咄嗟にクーディ伯爵を守るように美女の前に立ち塞がった。


「降伏しなさい。勝敗は決しました。貴方達の抵抗は無意味です」

「しゃ、喋った!?言葉を話せるのかっ!?」


人間の姿に擬態する魔物は数種類いるが、言葉を話す魔物は聞いたこともない。

その場の全員が驚愕し、呆気にとられている。


そんな中で正体不明の女はリック司令官に告げる。


「交易都市は我々が占領させて頂きます。貴方がたの軍人や冒険者方には一時拘束させて頂きますが、抵抗しなければ命までは取りません。お早目の決断をお願い致します」

「ま、待てっ!貴様らは一体何者だっ!?お前はあのアンデッド達の仲間なのかっ!?」

「そうですよ。そして我々が何者かなど貴方達には関係ありません。今後は質問に受け答えは致しませんので、降伏か死かのどちらかだけをお答えください」


誰もが呆気にとられる中クーディ伯爵が女に問い、あっさりと認められる。


そして確かに旗色は最悪に悪く、前線は崩れ城壁へアンデッドの群れがなだれ込んでくるのは時間の問題だろう。


実際にこうして敵であるアンデッドの仲間と認めた正体不明の女はここまで入り込み、リック司令官を殺害している。


「伯爵、もしやあの女がアンデッドを操っていたのやも知れません。あの女さえ殺せば…」


クーディ伯爵の側近である武官が耳打ちで伯爵に告げる。


確かに知能が高い者が魔物の群れを率いると言うのは珍しくない。


言葉を話せるほど知能があるのなら、アンデッドを操り陣形を取り組織的に動かすことも出来るだろう。


つまりあの正体不明の女を殺せばアンデッドはただの烏合の衆となる。


そこまで考えた伯爵は側近達に命じる。


「よし、ならばまずはわざと降伏に応じて油断を誘う。儂が合図したらあの女を殺せ」

「承知」


そう言うと伯爵は腰の武器を地面に起き、正体不明の女に向かって話しかけた。

それを見た部下達も手に持った武器を下ろし、地面に置いた。


「言う通りにしよう。降伏するので命だけは保証して欲しい」

「そうですか、では停戦の旨を伝えます」


そう言って女性はクーディ伯爵に背を向けた。


クーディ伯爵はそれを見逃さず、静かに部下に合図を送る。


部下は懐から短刀を取り出し女性の背後に忍び寄っていく。


そしてその間合いに入った瞬間、取った!とクーディ伯爵が思う間も無く。


「……愚かな」


女性が振り返らずに呟いた。


「ああああああああああああああっ!!!!」


短刀を持った兵士が突然激しく燃え上がり、叫び始める。


「小賢しい真似を…」


振り向く女性。


その瞳には先程まで無かった殺気が宿っている。


「ま、待て!!違うんだ!これは部下が勝手にっ!!」

「いいえ。今の貴方の浅はかな行動でもはや降伏の道は断たれました。皆殺しです」

「なっ!?」


クーディ伯爵が居る本陣である城壁の上には、いつのまにかアンデッド達がよじ登り、その場を囲んでいた。


「殺しなさい」

「ま、待って!!ぎゃあああああああああ」


赤い半透明の体を持つ女性は、振り返りもせずその場で浮遊し、空へと上がっていく。


そこには八枚の白い翼をもつ美女、ミストが待っていた。


「よかったのですか?領主を殺せば都市の住民を纏めるのに時間が掛かるでしょう?」


ミストの質問に対して首を横に降るアグニス。


「いいえ。あれは腹の中で何を考えて居るのか分かりません。作戦に支障を来す訳にはいかないのであのような者は早めに摘んでおく方が安心できます」


ミストは成る程と頷き、それ以上何も言わなかった。


「冒険者は生かしておきます。亜人を奴隷として使役している者もいるようですし、その者たちは後程対処致します。まずは都市を占領し、大規模転移陣の設置を優先させます」

「ええ、アグニスさん。貴方に任せます」


アグニスと呼ばれた半透明の体を持つ女性はミストに一礼し、都市へと降りていった。




交易都市の城門は既に開かれ、都市内部には夥しい数のアンデッドが入り込んでいる。


「さぁ、後は任せて進軍しましょう。目標は王都です……」


それだけ言い残し、ミストはその場から姿を消した。



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