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ヒストリア  作者: パリィ
2章 暁の救世主
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歪み

才能がある。

賢い子だ。

将来は大将軍ですな。

魔法の習得も著しい。

流石は殿下。

天才です。


貴方はお父上…いや、歴代の王すら凌ぐ王となるでしょう。


殿下なら大陸を統一することもできますな。



クロセル・レイ・ヘテルベルクは、幼い頃から周りに持て囃されながら成長してきた。


「クソォ!!クソォ!!愚王の癖にィ!!死に損ないの塵めっ!!


だがそれでも、1を知って10まで分からなくても、平均以上で物事を知り、知識や技術として己の糧としてきた。


「何が慎重にだ!!そうやっていつもチンタラ動いてるから連合に良いようにやられてんだよ!!学ぶこともできない耄碌爺めっ!!」


それだけで周りは評価し、自分を認めてくれていた。


「殿下、城の外で癇癪を起こされるのは些か不味いかと…」


成人し、父である王を支えてきた。いつしか自分がその玉座に座るため。


「黙れレイチェル!あんなクソ爺がいつまで経っても玉座から降りないからこうなってんだ!お前だって分かってるだろ!!」


だがその時はいつまで経っても訪れる事はなかった。周りが自分を認めても、父である王が認めなかったからだ。


「お気持ちはご理解できますが、抑えることも大事でございます。今ここで物に当たり散らしても何も状況は変わりません。城へ戻りましょう」


父である王がやる事はいつも無難で日和見的なものだった。物事に流されるように結局正しい選択はできず、その場凌ぎの政策を執る。


それはいつしか不満に変わり、鬱憤を晴らすように人や物に当たるようになっていた。


自分ならこうする。

自分ならこちらを選ぶ。

自分なら…。



日々募る不満は尽きる事なく、視界は灰色に染まり、夢を見るどころか夜に眠る事すら難しくなっていた。



そんな時だった。



帝国の『武踏姫』との縁談の話が舞い込んできたのは。



帝国の第三皇女『武踏姫』。


帝国が興って以来、毎年開かれる武闘大会に(よわい)14歳の時に初出場し、そのまま初優勝。

その後も3年連続で優勝を勝ち取る快挙を成し遂げた帝国の皇女の二つ名だった。


そんな女との突然の婚約の話。

正直気は乗らなかった。


だが逆らうこともできずに、顔合わせのために数週間かけ帝国へ赴いた。


曰く、気性が荒く、逆らう者は容赦無く殺す。

曰く、片手で人の頭を潰せる。

曰く、剣でも魔法でも何でも使い熟すことができる。


『武踏姫』に会うまでは様々な噂話を聴き、どんな筋肉ダルマかと思い、戦々恐々としていた。


そして帝都に到着し、歓迎パーティーが催される事になった。

旅疲れが抜けきらない重い体で、皆一様にごつく同じ顔をした帝国貴族達からの挨拶を丁寧に返す。


風土や文化的な事もあって、帝国貴族は我が強い者だらけだった。


接待に疲れ切ったころに、『武踏姫』は俺の前に現れた。



彼女を見た瞬間に俺の世界に色が付き、光が灯った。

噂話で聞いたことは、全て真っ赤な嘘だと確信した。


お淑やかで見惚れてしまうほど可憐な笑顔。武芸によって磨かれたその肢体は引き締まり、一種の芸術品と思える程美しいと感じた。


一目惚れだった。

初めて特定の女性を欲しいと思ってしまった。


そこから先はあまり良く覚えていない。


ただ自分がみっともないくらい彼女にアプローチを掛けていたと断片的な記憶から推測できる。

その中でも彼女は俺の話を全て笑顔で受け流し、最後にこう言った。


「貴方との婚姻は致しません。パーティーを楽しんだらどうぞお引き取り下さい」


生まれて初めて他人に拒絶された瞬間だった。

思考が真っ白になり、ショックで呆然としているうちに『武踏姫』は退席していった。

俺はパーティー会場で大きな声で何かを喚き散らし、醜態を晒していたとレイチェルに教えられた。




その後、すぐに帝国側から正式に縁談の話は破棄された。

だが俺は諦めきれず、何度も個人的に彼女に連絡を送り、返事のない便りを待ち続けた。

何通送ったかは覚えていない。内容も特に定まったことは書かず、その日に何があったか、俺はこうしているなど自分でもよく分からない内容を書き連ねていたような気がする。



そうして一年が経ったある日、初めて彼女からの便箋が届けられた。


喜び勇み、封を開け中身を見ると一文だけ書かれた便箋が入っていた。


「私と結ばれたいのなら、大陸に残る何かを成し遂げなさい」


その内容は婚姻する為の条件だった。


俺はまだ王になれない。

あの爺が還暦を過ぎようとしているのに未だに玉座に縋り付き、俺はそれを支えているだけ。


何も成し遂げる事などできない。


焦りは加速して増し、最終的には父である王をどうやって玉座から引き摺り落とそうかという事だけを考えるようになっていた。




そんな時に事件は重なるようにして起こり始めた。


初めは何かの始まりを告げるように、大陸全土に降り注いだと言われる『赤い雨の夜』事件。以前調査は細々と続けられているが、原因は殆ど分かっていないそうだ。


ただ一つ分かったのは、赤い雨粒は血の匂いがしていたと言う事だけ。


そして赤王城内で起こった無差別昏睡事件。昏睡していた者全てが記憶の一部が無くなるという怪事件だった。俺もその被害者の一人だ。


これに関しても、侵入者や魔法などと言った何の痕跡も見当たらず、原因不明とされ、未だ調査は続けられている。


そして直近に起こった大事件。連合軍消失事件だ。


初まりはリフ大森林の調査から始まった。どうやって調査をしたのか知っていたと思う筈なのだが、そこの記憶だけ抜け落ちている。


ただ、何らかの方法でリフ大森林に莫大な希少資源が眠っていることを知った連合軍各国は、貪欲にもリフ大森林を制圧せんと大軍を挙げた。


そして各国で様々な思惑や陰謀があったのは知っている。むしろ無い方がおかしい。


そして連合軍が森に踏み入った。


あらかじめいくつもの進入路を形成し、大軍が馬車でも並列して通れる程に幅を取り整備を先行して行っていたため、初日は予定以上に進む事が出来たと早馬で送られてきた伝令から伝えられた。


事件が起きたのは、その次の日だった。


二日目の連絡は一切が来なくなり、密かに渡していた"遠話の水晶"以外の国宝級のマジックアイテムでの連絡も途絶。


王城内では様々な憶測が飛び交った。


数日後、血相を変えた伝令が王城に飛び込んで戻ってきた。そいつは後から送られるはずだった増援の伝令兵で、謁見の間に通されると、現地に先行していた連合軍全軍が一人も残らず消えていたと王の前で話した。


その場に居た者たちは、信じられない出来事に衝撃を受け、誤報だと騒ぎ立てた挙句に伝令兵を他国の間者扱いまでしだす始末だった。

伝令兵は増援を率いている将軍の印を持っていて、それを王に見せることによって間者でもなく本当の出来事だということが証明された。


それから王国は、増援だった筈の派遣軍に調査を命令し後からレナード将軍率いる様々な分野に優れる専門の調査部隊を編成、現地へ派遣した。


それからも、王城内は荒れに荒れた。


どこの国が裏切った、リフ大森林に生息する魔物にやられた、これは王国に対する陰謀だ、などなど。


荒唐無稽な憶測が飛び交い、度重なる怪事件に座して待つしか出来ない状況に、誰しも苛立ちと恐怖を覚えた。


そしてどこからか情報は洩れ出し、連合軍各国は慌てふためきながら緊急会談を行った。

そうしてようやく重い腰を上げ、連合軍全体でこの怪事件の真相を突き止めるために動き出した。


そんな各国がみっともなく動き出している時に、俺は『武踏姫』のあの一文を思い出していた。



「私と結ばれたいのなら、大陸に残る何かを成し遂げなさい」



これは、俺のために舞い降りたチャンスだと思った。


連続して巻き起こる怪事件。


その異様性から全てが繋がっているのではないかと、一部では議論されている様子に一つでも解決すれば全てが紐解けると俺は思い、連合軍全体が動き出す中、座して待つ無能な父王に直訴した。


だがやはり、それは無能な父王の判断で却下された。



このままでは『武踏姫』に振り向いてもらう事はできず、彼女は他国の王子か有力な貴族の元へ嫁いでしまう。


焦りと苛立ちは隠せず、王城から抜け出すと国が保護している自然公園へ向かい、独立碑に当たり散らしながらレイチェルに諫められていた。


「ここで動かなきゃ意味ないだろうが…」


レイチェルにも聞こえぬ小さな声で呟く。


俺の行動を諌め、城に戻れとのたまうレイチェルの言う通りにし、冷静さを取り戻した俺は王城内の自室へ戻った。



そして、その日の夜に道化師(そいつ)は現れた。




「やあ、クロセル君。少し(わたし)とお話しようじゃないか」



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