マリウス・アザゼル
「マリウス・アザゼル、21歳、グライドリヒ・バイツ・ザルディアス帝国軍第二師団副将軍で二つ名が《紫焰》。そんで、一応帝国で最強の武を誇る…ねぇ。マジで?」
アルシアから尋問で得た目の前の男の情報を読み上げていく。
「ふん。一応は余計だボケ」
エッテが正式に仲間に加わり、アルシアが付き添い屋敷の案内して行くのを見送り、俺はそのままリーゼと共にもう一人の被害者…捕虜の下へやって来ていた。
俺の目の前には青く長い髪を後ろで一括りにし、黒い着物を羽織って二言目には悪態しか付かない男、マリウス・アザゼルが不遜な態度を崩さずにどっかりと座っている。
この世界にも着物はあるんだなぁ…と思いながらアルシアによるレポートに目を通す。
その内容には事前の尋問では非協力的で態度も悪いと書かれた後に素行は悪くなく、むしろ最良だと記述されている。
ではこの不遜な態度は何なのだろうか?
アルシアのレポートを疑いたくは無いが…。
部屋は相変わらずの地下牢と言う名のVIP部屋。だが心なしか整理整頓が行き届き、エッテの部屋より綺麗で何処と無く可愛らしく見えるのは気のせいだろうか。
「ふーん。最強ねぇ…どうやって最強を決めたんだ?模擬戦でもしたのか?」
マリウスは答えるつもりがないようで、備え付けられているソファーに座ったまま目を瞑り、沈黙を保っている。
「まぁ、少なくともうちのイーリスが小突いただけで沈んだのは知っている。生きている所を見ると弱くは無いんだろうな」
俺の言葉にピクリと反応するマリウス。
「てめぇ…何が言いたい?」
その言葉遣いに俺より先にリーゼが反応した。
「待てリーゼ、何を言われても我慢しろと言ったろ?」
リーゼはいつのまにかマリウスの背後を取り、テーブルの上にあった果物ナイフをマリウスの喉元に突き立てようとしていた。
マリウスはリーゼの一連の動作を把握出来なかったのだろう。顔が青くなり、驚愕の表情に変わっている。
「…申し訳ありません。つい」
リーゼはナイフを元にあった場所へと戻すと、静かに俺の背後に控えた。
「で、俺が何を言いたいかって?いいよ、教えてやろう。俺の後ろに控えている支援型のリーゼの動きすら把握できない弱いお前を、強くしてやろうと思っている」
「…んだと?」
マリウス君、強がってるみたいだけど冷や汗流れてますよ。
とは言わず、それらは見て見ぬ振りをして俺は続けて説明する。
「これは俺たちの実験にもなる。まあ君と言う体で試すから人体実験になるかな?だが死ぬことは無いし悪いようにはならないのは確かだ。この話を受けるのにはいくつか条件もある」
俺は予めリットやリーゼによる調査報告書で各国の主要な人物の趣味嗜好、性格をある程度把握している。
マリウス君も例に漏れずその調査結果に記載されており、実はマリウス君の全てを知っていたりする。
流石に加護持ちだったのは記載されていなかったが。
先ほどのリーゼの行動も彼に見せるための演出で、彼に提案を飲ませるための撒き餌のようなものだ。
「…言え」
ほらね。
事前の調査では、マリウス君は強さだけを求めて己を鍛えてきている武人と判断されている。そこに元々亜人差別などと言った下らない思想も無くただひたすらに強さだけを求めている武人だ。
俺的にはそれだけで好感も持てるし都合もいい。
故に彼には「今より強くなれる」と言う条件を提示し、自分より強者と戦いたがる癖があるマリウス君には、実際にその強さを見せつければ必ずこちらへ引き込めると思ったのだ。
俺はニヤリと笑みを浮かべ実験の対価となる条件を述べる。
「条件は3つだ。1つ目は俺たちの仲間になる事。2つ目は亜人を差別しない事。3つ目は裏切らない事。これだけだ」
要は俺たちの仲間になれ、と言う条件だ。
ぶっちゃけ断られても人体実験はするし監視付きの生活が続行するだけだ。
帝国に戻してやるつもりははなから無い。
「お前たちの仲間になればあの白い小娘より強くなれるのか?」
おっと、いきなり難儀な質問が飛んで来た。
だが俺には魔法の言葉がある。
「それはお前のやる気次第だ」
「やらせてもらおう」
即答だった。
まあそうだろうと思ってたけど。
「だがこちらにも条件を飲んでもらいたい。帝都に妹を残して来ている。俺が帝国を出奔したとバレれば妹は殺されるだろう」
あぁ、そう言えば家族構成に妹がいたなこいつ。
「リーゼ」
「畏まりました」
流石はリーゼ。会話の流れから全てを察しているようだ。
「心配するな。お前の家の者はすぐに皆こちらにやってくる。指一本、誰にも触れさせないよ」
「…どう言う事だ?」
まあ、マリウス君は分からなくて当然だ。
こちらは事前に家族構成も住所も抑えている。ならば後は潜伏させてあるリーゼの配下を使って、各地に隠蔽され張り巡らされた転移陣を通って運べばいい。
だがまだ教えてやるつもりはない。
「言葉の通りだ。たが妹さんが来るなら部屋を別に用意してやらないとな。確か体が生まれつき弱いんだっけ?ならミストの部屋の近くに用意しておいてやろうか」
横目でリーゼを見る。
それだけで察してリーゼは教えてくれる。
「ミストお姉様のお部屋の隣は一つ空きがありますね。元々小部屋の倉庫として使用するつもりでしたので整理されていません。ツインに伝えて清掃と家具を一通り運ばせておきましょう」
どうだ。
俺のリーゼはこんなにも優秀なんだぞフハハ!
「…さっきから勝手に話を進めやがって!どうして妹が病弱なのを知ってやがる。っていうかどうやってここまで連れて来るんだ?つかここはどこだよ!!」
マリウス君は怒りっぽいなぁ。
仕方ないから「普通に調べて普通に連れてくる」とだけ説明すると更に怒り出した。
マリウス君には後でカルシウムが豊富な食べ物を用意してあげようと思った。
後は妹さんをこちらに拉致すれば、俺はマリウス君からの条件を満たしたことになる。
それが終われば、晴れて俺たちは都合のいい実験台…もといソーニャやエッテに続く新たな仲間が加わり、俺たちの計画も下準備が終わり最終段階へ移行することになる。
「それじゃあマリウス君、部屋ができたら案内させよう。妹さんが到着したら俺も挨拶するつもりだからな」
「てめぇ勝手に話を進めるなっ!」
そしてマリウス君の理解が追い付かないまま、彼は(半ば強制的に)俺たちの仲間となった。
「北区の主要な街道整備は終わりました。後は計画通り徐々に森を切り開いて範囲を広げて行くだけですね。後の発展に備えてこの位置を空けて用水路を引きましょう……っ///」
パニエが淡々と報告し、最後には顔を赤くして俺から一歩遠ざかる。
マリウス君は妹さんと合流するまで部屋から動かないそうで、俺は今、空いた時間を使い現地で森を整備している《姉妹達》の下へ様子見に来ていた。
「お、おう。用水路周辺のことはパーシェルに協力を頼んでおくか。ログハウスの方はどうだ?数は予定数には達したと聞いているが」
「は、はい。数は揃っています。念のため現在もパーシェルお姉様の《人形》達と増築中です。どちからと言うと家具の方が少ないため、工房に追加を発注しているところです」
そしてまた一歩下がって行く。
「パニエ、何故ご主人様から離れて行くんですか?先程から気になっていましたが、失礼ですよ?真面目な貴方らしくもない」
リーゼが目敏く気付く。
顔を真っ赤にしながら下がって行けば、そりゃ流石にバレますよパニエちゃん…。
「顔が赤いですね。病気とは無縁の私たちが風邪なんて引く訳がありませんし…。ご主人様と何かありましたか?」
い、いかん!
パニエは十中八九、昨日の風呂の事を思い出しているのだろう。
すぐに鈴には見つかったが、ある条件で黙っていてもらう事に成功した矢先にリーゼにバレてしまう。
「そ、それは………言えません」
真っ赤な顔をしたまま俯いてしまうパニエ。
おかしいな…リーゼから黒いオーラが滲み出ているように見える。
リーゼは鋭い目で俺に視線を移し…。
「ご主人様、何をお隠しになっているのですか?」
その後、マリウスの妹さんが到着したと言う報告が上がるまで、俺は昨日のお風呂の件を説明させられた。




