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ヒストリア  作者: パリィ
2章 暁の救世主
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憂う王国


「一体何がどうなっているのだ…」


ヘテルブルク王国。王都レティアベルクにある王城、赤王城。


謁見の間にて玉座に座る初老の男性、ヘテルベルク王ザローナ・レイ・ヘテルベルクは、将軍や大臣達の前で一人の兵士からの伝令を聞いていた。


「リフ大森林攻略部隊が完全に姿を消した、とそちは申すか…」

「はい…」


跪き、頭を垂れたまま報告をする伝令兵。

その表情は見えないが、王や将軍、大臣たちや高級貴族達を前にして緊張の汗が滴り落ちている。


「我が王国軍だけでは無く、連合軍全てが忽然と姿を消しました。争った形跡は無く、守備軍として駐屯地を守護していた聖教国の司令官、ヌアザ・ナレグ司教総代理と思われる死体だけが発見されました」

「ぬぅ…。一体何が起こったのだ。駐屯地は各国で場所が決まっていた筈だ。他国の軍は本当に居なかったのか?」


全ての軍が消えるはずがないと、未だに伝令兵の言葉を信用できないヘテルベルク王ザローナは、跪いている伝令兵に改めて問う。


「はい。一人も…馬やロバ、牛なども居りませんでした。補給物資なども全て忽然と消えて居ります。現在は駐屯地外にて我が軍は野営地を設置し、引き続き周辺の調査を行っております」

「ふむぅ…」


どんな質問をしても調査中としか返ってこず、ザローナ王は溜息を吐いてしまう。


それを見た一人の青年が、王の前に歩み出て跪き、頭を垂れた。


「父王、これでは埒が明きませぬ。私が直接現地へ向かい、調査の指揮に当たる許可を」

「クロセルか…。それはならぬ。既に増援とは別にレナード将軍を派遣しておる。そこな伝令兵の言うことが本当ならば緊急事態である。お主が城を抜けることは許さぬ」


先行したベルム将軍率いるリフ大森林方面軍とは別に、攻略部隊を支援する増援部隊を数日遅れで大規模な物資の輸送隊と共に送り出している。


今、目の前にいる伝令兵はその増援部隊の伝令兵だ。

そしてここに同じ報告をしてきた二人目の伝令兵でもある。


一度目はここまで詳細な報告は無く、緊急時に飛ばされる早馬にて王城へ駆けて来た者だった。


そして一度目の報告で、あまりの報告内容の荒唐無稽さに、既に増援部隊とは別に、調査部隊としてレナード将軍を既に派遣していた。


「されどっ!先日の『赤い雨の夜』事件から始まり、我らの城で起こった昏睡事件や今回の連合軍消失の件。全てにおいて腑に落ちぬことが多過ぎます!!異質すぎるこの状況下で、王族の一人として座して待つ事はできません!!」


白い刺繍が縫い付けられ、金銀の装飾が施された豪華な礼服を翻し、勢いよく立ち上がるクロセルと呼ばれた青年。


顔付きはまだ若く、背は高いが身体つきは華奢で、凡そ剣等握った事もないような手付きをしている。

だが彼こそヘテルブルク王国の第一王子、クロセル・レイ・ヘテルブルク本人である。


「お主が行った所で状況は変わらん。儂が考えるに昏睡事件と連合軍消失は時期が重なっておるところに何者かの意図を感じる。ここは慎重に動かねばならん。下手に動けば状況が悪化する恐れがある」

「くぅっ…」


悔しそうに拳を強く握り、父であり王であるザローナを睨むクロセル。

ザローナが言っていたように、クロセルも同じように事件の関連性の可能性を考えていただけに反論ができない。


「殿下、ここは冷静になりましょう。お気持ちは分かりますが、やはり今は迂闊に動くべきではありません」


黒いローブを羽織った男がクロセルを宥める。

男は宮廷魔道士の一人であり、クロセルの魔法学の師でもある。


クロセルは男の言葉ではっと我に返ったように王を睨むのをやめ、視線を男に移した。


「ぐぬぅ、レイチェルよ。すまぬ。少々頭に血が上ってしまっていたようだ。父王、私の無礼をお許し下さい。少々熱くなってしまっていたようです」


クロセルは王に向き直り深々とお辞儀をして謝罪する。

王も苦笑しつつも手で合図し、クロセルの頭を上げさせた。


「そちの気持ちは分かるぞ、クロセル。退席を許可しよう。しばし頭を冷やして来るといい」

「はっ!御意に御座います!では父王、皆様方、少々失礼致させて頂きます」


深く一礼し、レイチェルを連れ立って謁見の間から去っていくクロセル。


「難しいですなぁ…陛下」


隣に立っている宰相がザローナだけに聞こえる声で呟く。

それに何も答えることなく、去っていくクロセルの背中を見つめながらザローナは頭を抱えていた。






「クソォ!!クソォ!!愚王の癖にィ!!死に損ないの塵めっ!!」


クロセルは頭を冷やせと言われ、会議を途中で抜けると城を出るなという言い付けを破り、第二城壁内にある自然公園にやってきていた。


「何が慎重にだ!!そうやっていつもチンタラ動いてるから連合にいつも良いようにやられてんだよ!!学ぶこともできない耄碌爺めっ!!」


クロセルはストレスを発散するかのように回りの物に当たり散らす癖がある。

そして今は周りに人がいない事を確認し、自然公園内にある独立記念碑を蹴り回していた。


「殿下、城の外で癇癪を起こされるのは些か不味いかと…」


怒り狂うクロセルを諌めるのは、王城から付いてきた宮廷魔道士のレイチェル。

彼がクロセル付きになって早数年。クロセルの癇癪にはもう慣れているようで冷静に対処する。


「黙れレイチェル!あんなクソ爺がいつまで経っても玉座から降りないからこうなってんだ!お前だって分かってるだろ!!」


先ほどからクロセルが言っている事はレイチェルも思うところがあり、それは半ば正しいが、半分は間違っている。


その内容はヘテルベルク王国が五年前、連合に加入した時期からの物だ。その時は時勢的にも外交的にも内政的にも、全ての状況に於いてそう成るべくして成ってしまった。


その判断を最終的に下したのは現王ザローナで、王国の歴史の中でも最大の失政だと言う声も密かに上がっていることも把握している。


だがここでレイチェルまでクロセルと怒りを共有したところで何も変わらない。


「お気持ちはご理解できますが、抑えることも大事でございます。今ここで物に当たり散らしても何も状況は変わりません。城へ戻りましょう」


故に自身の主の品位の欠片もない行動を諫めるレイチェル。

クロセルは短気だが、人の話を聞けるだけの耳は持っているのをレイチェルは知っている。


クロセルは石碑を蹴ろうとしている足を収め、悪態を付きながらも時間を掛けて落ち着きを取り戻していく。


「ッチ、バレる前に戻るか。《陰伏(ハイド)》」


クロセルは潜伏系スキル《陰伏》を使い、その煌びやかな礼服を纏った姿を消していく。

ようやく自然公園内に静寂が戻ると、レイチェルは一つ大きな溜息をつき、クロセルと同様に《陰伏》を使いその場から姿を消した。







「アハ!いい素材(もの)みぃーつけた」


誰もいなくなった自然公園内に響く声。


宮廷魔導士であるレイチェルが密かに行っていた《索敵》スキルにすら引っかからず、仮面を付けた燕尾服の男が一人、上空から一連の行動を観察していた。


「ハハ!僕のカナタ君を愉しませるために、王国には生贄になってもらおうか」


嗤う仮面は更なる素材(役者)を探すため、クロセルとレイチェルを追い、王城へ向かって姿を消していった。











現在数話分のストックを多少書き直しています。

時間は掛からないとは思いますが、遅れたらごめんなさい・*・:≡( ε:)

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