偉業への一歩
体調が怪しいですが登校します三└(┐Lε:)┘
『ごっしゅじーん、食料プラントと北区の整備、大規模転移陣の用意でっきましたー!』
それは、道化師を召喚したその日の午後にパーシェルから飛んできたメッセージから始まった。
ピエロの件もいろいろと考えなければと思っていたが、パーシェルに任せた役割は俺たちの計画で一番大切な部分を担っているので、最優先で処理しなければならない。
リーゼが不在の今、俺はパニエ達を連れ立って早速屋敷を出た。
因みにリーゼは今、聖教国の首都にあたる聖都ナシュティルへアンデッドを本格的に送り込むためリットと共に現地近郊へ赴いている。
なので俺たちの頭脳組が両方とも居ない今、俺の秘書はパニエがやっている。
普段は見えない場所から俺を護衛しているラザエラや、紫持ち冒険者のソーニャとメイド道を邁進しているメイの四人でパーシェルの工房へやってきていた。
「相変わらず本格的な工房なんだが、禍々しいな」
工場と呼べるほど大きくは無いが、それなりのスペースを取る煉瓦造りの建物といくつもある煙突。
その周囲では、パーシェルが召喚した《人形》や作業用の《鉄人形》達が何やら目視できる黒いオーラを発しながら忙しなく動いている。
その召喚された一体一体がかなりの高スペックの生産スキルを複数保有する人形達なので、生産されるパーツの一つ一つに生産ボーナスが乗り、超が付くほどの高品質素材を昼夜問わず吐き出し続けている。
「これは…凄いな。帝国にある有名な工房ですらこんな規模は見たことがない。しかも働いているのはゴーレムか?こんなに機敏で細かく動けるゴーレムなんて存在したんだな…」
ソーニャが物珍しそうにキョロキョロとあちこち見渡している。対照的にメイは何度も訪れていたらしく、仲が良さそうに人形達に話し掛けられている。
「俺たちの計画の根底を支える工房だよ。基本的にここで作れないものは無い。入り用な物があれば訪れてみるといい。廃棄村の生き残りのメイド達も今では皆利用しているぞ」
俺たちがバタバタと王国へ潜入したり連合軍と戦っている間に、元村人達は子供達も含め、屋敷での生活に驚く速度で順応していた。
やる事や考える事が多過ぎて屋敷で雇用することが決まってからは、元村人の女性や子供達の事をリーゼやパニエ、ツイン達メイド組に任せていたら、これまたいつの間にか様々な設備や大人と子供向けの娯楽施設、24時間営業の売店、魔法の訓練施設、実戦向けに作られたダンジョンモドキなどが屋敷の内外問わず出来上がっていた。
報告書としては上がってきているのだろうが、どうにも連日忙しく、潜入と称した王都観光などもあり後回しにしていてしまったようだ。
「そうだったのか。そう言えばカナタさん達の計画とは何なのだ?私はまだ内容を聞いていないのだが」
「げっ。話してなかったっけ?ごめん、後で屋敷に戻ったらきちんと話そう。ソーニャにも協力してもらわなけりゃいけないからな」
言い訳ではないが、ソーニャを迎え入れた頃は一番忙しかったと筈だ。王城の地下から救い出した亜人種達と、持ち帰った城内にあった資料で判明したリフ大森林侵攻計画の対処とか。
だが現実ではどんなに忙しくても報連相を忘れたことがない元社畜プロのこの俺が、まさかここまで鈍っているとは…。異世界は本当に恐ろしい。
「分かった。私で力になれるなら協力しよう」
とソーニャは真面目に答えながらも視線はあちらこちらに動いている。この工房は本当に珍しいようだ。
「ごっしゅじーん、あと妹たちよー!こっちこっちー!」
建物の裏手からパーシェルの声が聞こえる。よく見ると建物の陰からちょこんと顔を出し、手招きしているパーシェルを見つける。
「外に出しているのか。これはかなりの大きさになったかな?」
あちこちに興味津々なソーニャと人形達と、井戸端会議に発展しそうなメイをはぐれないように手を引いて手招きしているパーシェルの元へ向かう。
建物の裏手は森を開拓し、土地を綺麗に平らに均して運動ができそうな広さのグラウンドができている。
そしてそこには巨大な筒状の魔導機械が鎮座していた。
「ご主人様、ういっす!お約束通り最優先で食料プラントを完成させたっすよ!ここにあるのは見本っすけど、きちんとした本物の一つっすよ!実際に動かせるっす!」
「これが…。流石は俺の自慢のパーシェルだな。本当に良くやった」
「ぁ…」
煤で汚れた群青の髪を撫でる。俺の無茶な日程で突貫で作成に取り組んでくれていたのだろう、凡そ普通の少女からは臭わないオイルや独特の金属臭がしている。
撫でながら生活スキル《浄化》を使い、汚れや臭いを消し去る。
「えへへ、褒められたっす!もー、ご主人様大好きっすー!」
飛び込んでくるパーシェルを受け止め撫で回す。そう言えばまともに会ったのも久し振りににるな。
メッセージだけのやり取りは駄目だな。まともなコミュニケーションが取れない。
「お前のご褒美は奮発してやらないとな。とりあえずコイツの説明してもらえるか?俺以外は知らないと思うからな」
設計に関わっている俺とリーズリット、イーリス以外の者は食料プラントの概要を知らない。完成はしたが設置箇所の問題もあるため皆に説明は必要だろう。
「ういっす!ご褒美奮発予約頂きましたー!ではご説明致します!今ご主人様達の目の前にある魔工機は食料プラント1号くん、通称1号くんっす。その仕組みは簡単に説明すると、空気中に漂う魔力を原動力、素材とし、食料を供給する機械っす!」
二階建ての家が一軒丸々入りそうなほど大きなその機械は、魔力を動力源とした魔導機械であり、魔石や空気中の魔力を供給することによって食料を生み出す優れた機械だ。
この1号君はゲーム内にあった拠点設備系の設計図を解析し、パーシェルが独自の技術を使って作り出した一つ目の設備になる。
「リフ大森林から北方平原、北方大山脈に掛けて魔力濃度やその循環が悪いことは調査で判明してたっすよね?1号くん達はその澱んだ魔力を動力として動くっす。さらに吸い込んだ大気中の魔力を浄化し、素材に変換して食料を生成するっす」
そう言って食料プラントに近付くと、パーシェルは備え付けられているパネルを叩きだす。
すると微かな重低音と共に食料プラント1号くん、通称1号くんは動き出した。
「取り敢えずお一つ食べてみて下さいっす。味も良い感じに仕上がったっす」
1号くんから取り出した固形物をパーシェルから受け取る。形は長方形の手のひらサイズで某保存食のようなものだった。
一口齧ってみると、その硬そうな見た目に反して思っていたよりも柔らかく、サクサクとクッキーのような食感で、味もチョコレート風味のようだった。
「どうっすか?一応これはサンプルなんでこんな感じで出したっすけど、本格的に動かすときは味は勿論、形も色も香りも数百通りまでそれぞれ調整できるようになっているっす。カロリーも調整できるのでダイエットにも持ってこいっすよ!」
ダイエットと言う言葉にソーニャとメイがピクリと反応する。パニエとラザエラはあまり興味は無いようだが。
「十分だ。味も悪くない。っと言うかそこまで調整できるとは思わなかったな。漠然とした質問になるが、1号くんはどのくらいの連続生産が可能なんだ?」
「そっすねー。実際には複数連続生産を主としているので、固形食だけなら1台あたりを24時間連続フル稼働して大体10万食以上可能っすよー」
これは本当にとんでもないものを作ってくれたな…。
だがこれから食糧は生命線にもなるものだ。吐き捨てるほどあるぐらいで丁度いい。
「……そうか。良くやったな。設置箇所の選定はどうだ?」
パーシェルは思案顔になり、顎に手を置き少し考える仕草を取る。設置箇所の選定にまだ目処が立っていないのかもしれない。
「まだ分かっていない感じか?」
「ああいえ、それは大丈夫っす。ただ予定地の開拓と施設の作成忘れてたなあ〜って、えへへ」
聞いてみればどうやら準備ができていなかっただけのようで、本人としても頭から抜け落ちていたのか照れ臭そうに笑っている。
それなら俺も協力できそうだな。
「なんだそうだったのか。なら予定地周辺の魔物の排除くらいならしておこう。丁度パニエもいるからな、ついでに伐採も行おう」
「うおーマジっすか!助かるっす!ちょっと厄介な魔物が住み着いているらしくて、パニちゃん忙しそうだったっすし…暇して飲んだくれてる鈴お姉ぇに押し付けるつもりだったんすよ!」
厄介な魔物?そんなのが住み着いていたのか。これはやはり俺が直接見に行った方がいいな。
「いやー助かるっす!」とパニエの肩を叩くパーシェル。今回は紫持ちのソーニャもいるから実力を測る意味でも行っておきたいな。
「それじゃあ魔物退治の方は任せろ。取り敢えず出来上がった物を一通り見てからだけどな。残りを案内してくれるか?」
「うぃーっす!ほんじゃ少し離れた位置へ転移するんで付いてきてくださーい」
その後もパーシェルの案内は続き、食料プラント1号くん、通称1号くんの時と同様に『生産マスター』のその名に恥じぬ働きっぷりを見せてくれたパーシェル。
計画が成功すれば一番の功労者はパーシェルで間違いないだろう。
と俺は確信しながらパーシェルの製作物に目を回すソーニャの手を引きながら見て回っていった。




