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ヒストリア  作者: パリィ
1章 兆し
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詩謡ふ者達

「ーーー」


小さな声で歌う。

月が出ない夜に貴方を想う。


「ーーーーーー」


決まったリズムは無く。

暗き夜が白けるまで。


「ーーーーーーーー」


眠れる夜は来ない。

貴方を想うから。


「ーーーーーーーーーーーー」


だから歌うの。

想いを夜風に乗せて。


夜は明けること無く。

私の夢は永遠に醒めない。


約束の場所で、また出逢う。




「桜花」




あの桜の木の下で。




終焉ノ世界(ワールドエンド)





連合軍の駐屯地を覆う暗く蠢く夜空が晴れる。

一本の桜の木を境に世界が二つに割れる。



朝のように眩しく、夕暮れのように寂しく。





桜の花びらと蝶が舞う。

黒と白の二色の蝶々。


均された土地が盛り上がり、緑豊かな丘に変わる。



無限と思える程の蝶が舞い、倒れた連合軍へ止まっていく。


蝶が止まった兵士は、文字通り消えて無くなる。


世界の糧となり、消えていく。



「夢幻に続く果てなき夜の闇」



桜の木の下には黒と白の花魁姿の美女が一人、恋の詩を歌う。



「世界ノ終リニ君ヲ想フ」



最後の一節を詠う。


二つに割れた世界が音を立てて崩壊し、やがて崩れた場所から一つに交わりだす。



「恋ひわび、しばしも寝ばや、夢のうちに」



再構築されていく世界は、再び元の夜空に戻っていく。



「見ゆれば逢ひぬ、見ねば忘れぬ」



舞う蝶は糧を探し空を舞う。



「これがカナタ様へ捧ぐ大和歌」



糧を全て吸い尽くした蝶は消え、散った桜の花びらも儚く消えていく。


やがて世界の終焉は終わりを迎える。



連合軍の駐屯地に生ける者はおらず。無数の天幕と残された大量の物資だけがそこに残されていた。


ここに文字通り、駐屯地を守る連合軍と、連合軍の一翼を担う聖教国軍20万は、戦うこともなく静かに全滅した。





「帰るえ…ご主人様の下へ」











時刻は遡り、鈴がヘンリエッタを発見する頃。


パニエは一人、連合軍の第二中継拠点から遠く離れた暗い森の中で佇んでいる。

目を閉じ精神を研ぎ澄ましながら、森と会話する。


暫くして会話が終わると、ゆっくり目を開き暗い森を見据える。

パニエが片手を前に突き出すと大きな紋章が現れた。


「さぁ、始めましょう」


青白く浮かぶ計算され尽くした全ての線が、大きな一つの紋章を輝かせる。

光の芸術のように美しく、元の世界であれば現代アートとして多くの人々を魅了するだろう。



「あなたたちが入った森は迷いの森」



パニエの詠唱が始まり、最初の一言で森は静寂に包まれる。



「我が森を侵す愚か者には断罪を」



森に棲む動物や虫の声が止む。



「誰も逃れることはできず」



森に生きる全ての者が唸り出す。



「全ては森の糧となる」



大地が揺れ出し、連合軍の退路を塞ぐ。



(かばね)も残さず、喰い尽くせ」



そして『森』が意思を持ち、連合軍を襲いだす。



「絶望に打ちひしがれなさい。《怒れる巨人(アングリーフォレスト)》」



鼓膜が破れんばかりの咆哮がリフ大森林中に響いた。

大気を揺らしながら『森が』動き出す。



森を荒らされ、そこに棲む者達も怒り狂い動き出す。地響きを鳴らしながら、大きく又は多くの森に生ける者達が、各地に散らばる連合軍へ襲いかかっていく。


各地で上がる悲鳴と咆哮。連合軍の第二拠点は常に20km感覚で中継地点を構築している。普通であればどんなに甲高い悲鳴でもパニエの耳には届かないが、遠くで鳴り響く全ての声を『森』はパニエに届ける。


「帝国軍はルピナの実験台でしたね。そこは避けておきましょう。少し心配ですがイーリス御姉様が付いていらっしゃるなら私の出番は無いでしょう」


気を取り直し、『森』へ魔力を込める。

『森』はそれに応えるかのように()()()を発し、連合軍に牙を剥いていく。


「な、何で今更コイツらが出てくるんだぁ!?」

「ヒ、ヒィィィ!!虫が、虫がぁっ!!」

「嫌だ!食うなっ!!俺を食うなあああああっ!!!」



『森』が状況を伝えてくれる。

だが多くの戦域で既に戦いになっておらず、ただ『森』に捕食される者達の断末魔だけが響いている。


「一人残さず糧になさい。貴方は既にカナタ様のもの。庭を荒らす盗人に苦しみと死を与えましょう」


暗い夜に唸り声が響き渡る。

森を荒らした者を逃すまいと。


「退けぇ!!退けぇ!!撤退せよ!!第一拠点に後退せよ!!」


何処の軍の司令官だろうか。もはや退路は断たれていると言うのに撤退を図ろうとしている者がいる。

『森』へ問いかけると返事はすぐに返ってきた。それは王国軍の司令官だと言う。


「愚かな…」


パニエは背中に背負った弓を取り出すと、矢もつがえずに弦を引き絞る。


「抵抗する者には更なる苦しみを」


音も無く放たれる見えない矢。

見えない矢は数秒も掛らず迷い無く王国軍の司令官を射抜いた。


「がぁっ!!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


『森』を通さずに聴こえてきそうな程の苦悶の声。

不可視の矢に射貫かれた司令官は落馬し、苦しみ悶える。周りにいた兵が応急手当をしようするが外傷は見当たらずただ困惑している様子だ。


周辺の兵達も何も手が打てず、数分間も司令官はのたうち回り、絶命した。

王国軍は司令官を失い、士気も完全に崩壊した。


「全く下品な声でした。妹達が居なくて良かったです」


戦場に出ているルピナには聴こえているかも知れませんが…。


「イーリス御姉様が付いていらっしゃるから大丈夫でしょう」



各地で悲鳴と断末魔が響く中、パニエは取り出した弓を背負い直し、『森』が食事を終えるのを静かに待った。


退路を断たれ、『森』そのものに襲われた連合軍は、ここでもまた碌な抵抗もできずに全滅していった。




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