狂歌
そろそろ整理しないといろいろ矛盾点が出てきそう_:(´ཀ`」 ∠):_
勢いだけでいつの間にか30話超えてました。そして成長していない文章力…。
リフ大森林制圧作戦二日目
旧ラテール共和国領北部 連合軍駐屯地
「申し上げます。昨日だけで先鋒、第一陣の全ての軍が森へ突入を完了致しました」
「うむ。精々露払いでもして貰わんとな」
聖教国大森林遠征十字軍の総司令官、ヌアザ・ナレグ司教総代理は使いの兵の定時報告を聞いていた。
周りには奴隷の女達を侍らし、昼間から高級ワインを飲んだくっている。
昨日は第一陣の出陣を見送ると、直ぐに本陣へ戻り今の今まで酒と女に耽っていた。
天幕の中は鼻をつく様々な臭いが充満し、報告に来た兵は苦虫を潰したような顔をしている。
「んふぅ、昨日は随分森の奥へ進んだようでは無いか。今はどこまで進んでいるのか分かるのか?」
引き攣った表情の女性の唇を貪りながら、跪いている若い兵士に問いかける。
「第二連絡中継拠点の構築予定地までは進んでいる様子です。"遠話の水晶"の設置も完了したと先程連絡が入りました」
「ふん、やはり野蛮人どもに先鋒を任せて正解だったな。吠えるだけしか能がないと思っていたが、露払いくらいはできたようだな」
どこまでも見下した様子のヌアザは、その有名な無能ぶり故に連合軍内でも前線に出られても困ると言う理由から、無難な後方拠点の防衛司令官のポストを与えられているに過ぎない。
それをヌアザはどう勘違いしたのか、高貴で司教総代理と言う立場の自分に忖度し、楽なポストを態々振り分けて貰えたと思っている。
彼はそんな自分の勘違いに疑問を持つこともせず、ただ与えられるがままにそのポストを存分に享受していた。
「ヌアザ様、これより数刻後には王国軍並びに帝国軍の後詰めが、増援として森へ進行します。2カ国の軍が離れた後の駐屯地防衛部隊の再編成と計画をっ!?」
唐突に若い兵士の兜にワイングラスが直撃し、指示を仰ぐ言葉を遮る。
それはヌアザが持っていたワイングラスで、ヌアザの突然の豹変振りに奴隷の女達は怯え後ずさる。
「高貴な儂が何故そんな事をせねばならん!神に選ばれたこの儂がっ!!そんな物適当にやっておればいいのだ!!そもそもここは天下の連合軍駐屯地だぞ!?誰が襲ってくると言うのだ!?少しは物を考えて喋れこのクズが!!」
若い兵士にぶち撒けられたワインが滴り落ちる。跪いたそのままの格好から頭を上げる事なく「畏まりました」と一言呟くと、直ぐに立ち上がり退室していく。
「ッチ!使えん奴ばかりじゃ。この儂の手を煩わそうなどと、一兵卒が何を考えているのだ」
ヌアザはその後もブツブツと文句を垂れ流し、怯えたままの奴隷を連れて再び褥へ戻っていく。
ヌアザの派手な天幕からは、悲鳴のような嬌声が夕刻まで続いたという。
そしてそれが彼の人生最後の享楽の時間であった。
「ベルム将軍率いる王国軍の後詰が森の第一拠点へ到達した模様です」
「よろしい。では我々も入るとするか」
帝国大森林制圧軍総司令官アスバ・ゴドゥラス将軍は、後詰めとして連合軍駐屯地へ残り、第一陣の様子の限りで森へ侵入する算段であった。
そして今朝に自分の副将、マリウスが既に40km地点に到達し、連絡中継拠点を構築していると報告が入った。
アスバ将軍はすぐさま出陣の支度をし、部隊の再確認をしているうちに王国軍の後詰めが既に森へ侵入して行ったと報告が入った。
「出陣せよ」
そして全ての確認が終わり、大量に積まれた補給物資を抱え拡張された幅広い道を、帝国軍が隊列をなして森へ侵入していく。
駐屯地には僅か1万5千の兵を帝国軍駐屯地の守備に当たらせ、自身も森へ入っていく。
森の進入路整備も僅か1日で綺麗に均され、補給物資を抱え込んだ馬車が2台並走しても十分全速で走ることができる。
「この分なら夕方にはマリウスの元へ辿り着けるな」
愛馬の手綱を握り、順調に計画が進んでいる事にほくそ笑むアスバ将軍。
彼の周りで並走するその部下達の表情にも余裕が見える。
数多く在籍している帝国軍将校の中でも、アスバ将軍は名将とまでは言わないが、戦に於いては堅実な戦略・戦術眼を持っていて、皇帝からも一目置かれている存在だ。
もしかすると1日目にマリウスと共に森へ入っていれば、その違和感に気付けたかもしれない。
だがそんな「もし」は既に無く、突貫で整備された道を行く彼は、この深き森の脅威に最後まで気付く事は無かった。
リフ大森林第一拠点
「それは本当か?」
ヘデルベルク王国軍大森林方面軍総司令官ベルム・コンラッド将軍は、森林内の第一拠点にある王国軍の仮司令部として小さな屋敷が宛てがわれていた。
そして今しがた早馬にて王都から緊急の伝令がもたらされ、その内容に大きな衝撃を受けていた。
「はっ!城内の衛兵から住み込みの使用人、果ては陛下までもが、全員が丸一日昏睡状態に陥っておりました!」
「どういう事だ…」
その不可解な内容にショックを隠せないベルム将軍。
どさっと全身から力が抜けていくように固い皮製のデスクチェアに座り込む。
「侵入者…か?いや、それは無い。王城の見張りと結界を破れる者など居りはせぬ。毒?だが死人は出ていない…一体何が起こったのだ…?」
思考を巡らすが、答えどころか可能性すら出てこない。
もたらされた情報では何一つ見えてこない。
「もう一度聞くが、陛下と殿下は無事なのだろうな?」
ベルム将軍にとって自分の命よりも大切な存在。ヘデルベルク王国と言う大国を治める現国王と、未来の自分が仕える王子の事が何よりも気掛かりである。
「はっ!先程も申した通り傷一つありません。ただ…」
言い淀む兵にドクンっと一度大きく心臓が跳ね、自身の体に緊張が走るのがわかった。
「ただ、何だ!?早く申さぬか!!」
平時では、彼はこのように大きく声を荒げる事は無い。戦場や演説、演出で声を出す事はよくあるが、このように反射的に素で声を張りあげる事は人生でも片手で数えれる程だ。
その自身の行動にもワンテンポ遅れて驚愕する。
「ぬぅ…すまんな」
「いえ、その…陛下や殿下も同様なのですが、昏睡した者たち全てが昏睡前後の記憶が抜けているそうなのです。つまり…何も分かっていないのです」
「…は?何だそれは?」
有り得ぬことでは無い。魔法を使いこなせる者ならばそう言った現象を起こす事はやろうと思えばできる。
だがそれを成功させるには、大きな壁をいくつも乗り越えなければならない。
「やはり賊か?それしか考えられん。だがどうやって結界を突破し、宮廷魔術師の索敵を逃れ、衛兵や"蜘蛛"達の目を掻い潜った?考えれば考えるほど分からん…」
例え全ての壁を乗り越えたとしても、その賊の目的が分からない。無くなった物も無く、居なくなった者もいない。暗殺かとも思ったが誰も殺されてはいない。
まるで"赤い雨の夜"事件の時と同じ、何もかもが理解できない怪現象のように感じてくる。
「………了解した。御苦労だった。陛下にはお身体を大事にするよう宜しく伝えておいてくれ。下がっていいぞ」
現国王とは幼い頃から共に学び、鍛え、戦場で戦ってきた親友でもある。
故にその一大事に駆け付けられぬ思いを言葉に込めて伝令に伝える。
「はっ!恐縮ですが、換えの馬の用意ができるまでここに居ても?」
「構わん。暫し休んでから出立せよ」
そして彼は一兵卒にですら気を遣える部下思いの将軍としても有名で、信頼に厚く、付いてくる兵達の士気も常に高い。王国が誇る名将である。
「はっ!ありがとうございます!それでは失礼致します!」
キビキビと退室していく伝令の後ろ姿を眺めつつ、ベルム将軍は頭を抱える。
その姿勢で暫く思考の海を漂い、結局結論は出ないまま気掛かりを残し、第一陣と合流するために第一拠点を出立していった。
「さぁ、時間やえ」
二日目の日は沈み、夜空は黒く厚い雲に覆われ《灯火》のスキルで照らしても、薄暗く不気味さが漂う大森林。
その上空に黒と白の花魁を大きくはだけさせた美女が一人、視線だけで射抜かれそうなほど細められた目で、旧ラテール共和国領にある連合軍の駐屯地を見下ろしていた。
「あれが神を騙る愚か者かえ?ひひっ!小さい、ほんに小さいえ。ひひ、ひひひひひひひひひひ」
甲高い嗤い声が闇の中に響く。
不気味に夜空を漂う彼女の周りに風が集まり、音も立てずに渦を成していく。
次第に大きくなるが、暫くすると唐突に渦は霧散した。
「ーーーーーー」
歌が聞こえる。
独特のリズムを刻み、断罪の音を奏でていく。
「ーーーーーーーーーー」
誰にも気付かれず、悟られず。
「ーーーーーーーーーーーーーー」
暗い夜道を彷徨うように。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
乗せる想いは恋心。
「嗚呼、君想フ恋ノ詠」
殺戮の夜が始まりを告げた。




