王都潜入 3
案内されたのは大通りから少し離れた商店街の一角だった。辺りは意外と静かで大通りの喧騒が遠くに聞こえるような場所だ。
こじんまりとしたログハウスのような木造りのお店で、入ってみると中は意外と広い。
「改めて、私の問題に巻き込んでしまって申し訳ない」
目の前で背の高い美女が軽く頭を下げている。
「こちらに怪我は無かったんだ。そう気にしないでほしい」
「そう言ってもらえると助かる。マスター済まない、こちらに何か飲み物を」
店の中に客は俺たちしかおらず、ゆったりとした雰囲気もあって非情に落ち着きやすい店内になっている。道中で畏まることは無いと言われたので口調はとっくに戻している。この方が楽でいい。
「自己紹介が遅れたな。私はソーニャと言う。冒険者をやっている者だ」
「俺はカナタだ。こっちの小さいほうがルピナ。大きいほうがラザエラだ」
ルピナとラザエラはペコっと軽くお辞儀をする。だがソーニャは二人を見て固まっているようだ。
「どうした?」
「あ、ああ。すまない。二人とも美人だと思ってな。私も容姿には少し自信があったのだがな…」
二人に見惚れていたのか。それも仕方ないな。
二人は着ているものこそ質素で地味目な麻の生地でできた服だが、本人たちの容姿は俺が俺好みに調整して作ったのだからそりゃ美人だろう。
ルピナは擬態で髪の色は変わっているが、基本的な顔や体形などは全く変わっていない。
ラザエラも容姿は言わずもがな。普段ポニーテールにしている亜麻色の髪は今は下ろされている。二人とも普段しないことをして随分と雰囲気がガラッと変わっている。
「だろ?俺の家族は皆美人なんだ」
そしてそんな彼女たちを褒められたのが嬉しくてついそんなことを言ってしまう。
作者は俺だからな!
「家族…?えっと、そちらの…ラザエラさんが奥さん、ですか?」
「はうぇっ!?」
「にゃっ!?」
唐突な質問にラザエラとルピナから変な声が上がる。
「あぁ、すまない。少し言い方が悪かったかもな。俺には奥さんはいないんだ。この娘たちも家族だが血は繋がっていない。まあそういうことだ。察してくれると助かる」
こういう時は落ち着いて大人な対応だ。俺の両サイドにいるラザエラとルピナは動揺しすぎて俺の服の裾を握りしめている。
「あ、そ、そうだったのか。すまない。不躾なことを聞いてしまった。許してくれ」
「気にしなくていい。とりあえず飯を食わせてくれないか?何があるのか分からないからオススメで」
だってメニュー表がテーブルの上に無いんだもの…。
「そうだな。ここの店はなんでもうまいが…今日の日替わりはハーミットクラブの肉か…マスター、日替わり4つ頼む」
初老に差し掛かったであろう年配のマスターがタイミングよく飲み物を運んできてくれたので、ソーニャはそのまま注文していく。
マスターは一つ頷くと厨房に消えていった。
マスターの身の熟しや店の落ち着いた雰囲気も相まって、隠れた名店とも思えてくる。いやきっとここは本当に隠れた名店なのだろう。
「この店の雰囲気いいな…気に入ったよ」
「であろう?私もこの雰囲気は大好きなんだ。気に入ってもらえて嬉しい」
そう言って無邪気に微笑むソーニャ。やはり顔だけだと亜人とのハーフには見えないな。
「そういえばカナタさんたちはどうして王都に?先ほど王都に来たばかりだと言っていたが」
「そうだな。知り合いを訪ねて来たんだが、どうにも引っ越したようでね。どうしようもないから王都観光でもして帰ろうってなったんだ」
本当のことは言えないからね。嘘も仕方ない。
この辺の口裏合わせは王都に来る前から3人で話し合っているので問題はない。相手に合わせて言い訳も数パターンも用意してあるのだ!
リーゼ様ありがとうございます。
「そ、そうか……えっと。王都観光か、うん。いいんじゃないか?」
「そうだろ?…そういえばソーニャはあそこで何をしていたんだ?」
俺が聞くと、少しばつが悪そうに顔をそむけるソーニャ。
「わ、私は冒険者なのだがな?さっきの話ではないが、周りよりは容姿がすぐれているらしくて、ああ言った手前に絡まれやすいんだ…」
「あ、あー…。なるほどな。と言うことはあの男を吹っ飛ばしたのは」
「私の尻をどさくさに紛れて触ろうとしていたからな。死なない程度に吹っ飛ばしてやった」
やはりあの男を吹っ飛ばしたのはソーニャだった。
「3人に怪我がなくて本当に良かった。ついカッっとなって周りが見えなくなってしまってな…面目ない」
「もう気にするな。冒険者と言っていたが、あの場所は冒険者ギルドだったりするのか?」
「ああ、そうだ。まあ最近実入りの良いクエストもないからな。そうだ、明日は暇だから私が王都を案内してやろうか?」
そうきたか。明日の日中はルピナはお休みで俺がパーシェルから預かったものを設置しようと思っていたが…。
『カナタ様、是非受けて下さい。パーシェル様からの預かり物は私どもが設置しておきますので』
アルシアのソーニャ押しが中々のものだ。何か理由があるのはなんとなく分かるが。
ルピナとラザエラの顔を交互に見ると、アルシアの声は聞こえていたのか、二人とも頷いている。
「よし、じゃあソーニャさえよければ案内を頼む」
「やった!…こほん。もちろんだ。宿はもう取っていたりするのか?良ければ明日の朝迎えに行くが」
宿かぁ…取りたかったんだけどなぁ…。実は俺たちが滞在する予定地は、王都の外に不可視のエンチャントがされてある仮設拠点がもう設置されてある。
「いや、まだ決めてはいないんだがそこまでしてもらうのは悪い。むしろ案内してもらえる俺たちがソーニャを迎えに行こう」
「そ、そうか?まぁ、それはそれで…ふふ。あ、いや。カナタさんがそれでいいならそれで!」
「じゃあ決定だな。ソーニャが泊っている宿とかはあるのか?」
「ああ。森の小鹿亭という宿屋だな。商店街の大通りから住居区画に入る通りにある。どちらかと言うと住居区画に近い場所だな」
住居区画と言うのはあの平民街のことだろう。住居区画は確か来るときに通った筈だ。
また後でアルシアに確認しておかなければならないな。
「了解だ。明日を楽しみにしておく」
「ああ。期待していてくれ。お、丁度料理が来たようだ。早速頂こう」
話の区切りにマスターが見計らったかのように料理を運んでくる。
出された料理は初めて見る素材で作られていて、少し癖はあるがとても美味しく頂けた。
その後、俺たちは他愛のない雑談を交わし、店を出てソーニャと分かれた。
思いのほか時間が経過していたのか、外はもう薄暗くなっていた。
「今日はここまでにするか。戻っていろいろと確認し直さなければならないな」
「はい!」
「御意」
『畏まりました。では、この近くに魔力隠滅のエンチャントがされた転移陣が設置されていますので、そこへご案内致します』
案内された先は商店街の路地裏だった。木箱が置かれた地面に薄っすらと転移陣が描かれてあり、特定の魔力波形でなければ起動しないようになっている。
これもパーシェルが片手間に開発したそうだ。
そして転移された先は、遠くに王都の巨大な壁とその奥の光が薄っすらと見える小高い山の中腹だった。
周囲を見回してみるが、何も見当たらない。
「我らが父の帰還です。開けなさい」
アルシアが実体化し、何もない開けた空間に向かって声を上げる。
すると一部の空間が歪みだし、扉が現れた。
アルシアが道を開け俺に一礼し、先に入るように促す。
それに頷き扉の前まで進むと、扉は音もなく開き、俺も中へ入っていく。
中はキャンプ場にあるコテージの内装のようになっていてかなりの広さが設けられている。
「「おかえりなさいませ、ご主人様」」
そしてそこにはパーシェルが特殊召喚した《人形》の2人のメイドが待っていた。
「これから3日間世話になる。よろしく頼むな」
「「はい、ご主人様」」
備え付けられているソファーにどかっと座り、大きく息をつく。
久しぶりの人ごみに少し酔ってしまっていたのか、疲労が滲み出てくる。
「ご主人様、ホットコーヒーです」
「湯船の方ももう間もなく準備が整います」
「あぁ、ありがとう。確か…」
「私がユーリアで」
「私がミリアです」
桃色のウェーブが掛かった髪型をしているのがユーリアで、水色のウェーブが掛かった髪型をしているのがミリアと名乗る。二人とも肩まである同じ髪型で、色で見分けやすい。
「すまないな。もう覚えた。二人ともありがとうな」
「「勿体なきお言葉」」
息がぴったりだ。人形だが双子なのだろうか。
「カナタ様。お疲れのところ申し訳ありませんが、あの女冒険者のソーニャのことでお話が」
いつの間にか俺が座っているソファーの後ろで待機していたアルシア。
リットもいつの間にか実体化しており、ルピナと室内を探検している。
「ああ。それは俺も聞こうと思っていた。コーヒーを飲んだらすぐに風呂に入ってくる。少しだけ待っていてくれないか?」
「畏まりました。急かしてしまったようで申し訳ありません」
「気にしなくていい。アルシアが大事だろうと思ったからあの提案も受けたんだしな。まあ立ってないで座ってお茶でも飲んでるといい。俺の身の回りのことはユーリアとミリアがやってくれるからな。話すのはお互いにリラックスしてからだ」
というか今日はいつもと違う意味でだいぶ疲れたな。ソーニャの一件もそうだが、やはり人ごみの中を歩き通したのがじわじわと来てるな。
「はい、仰せのままに」
そうして暫く雑談を交わしながら出されたコーヒーを飲み、コテージに備え付けられている露天風呂に浸かった。このコテージ型拠点は、もともとヒストリア内にあったアイテムをリーズリットとパーシェルが弄って完成した試作品である。
露天風呂なんかはリーズリットの強い要望で後付けされたものだ。不可視のエンチャントがされているからこそできる荒業でもある。
そうして露天風呂を楽しんだ後、リットとルピナ、ラザエラも風呂から上がり、全員が揃ったところでアルシアが話を始めた。
「まず、本日皆さまが邂逅したお相手のソーニャは亜人と人間のハーフになります」
「やはりそうだったか。だが何故亜人と人のハーフが王国に?確かハーフも忌み嫌われてるそうだが」
確かハーフも見つかり次第即処刑だったはずだ。ハーフはただの亜人より厳しく、捕まればまず命は無いと報告では聞いていたが。
「彼女は見ての通り、見える箇所に亜人の特徴が出てきておりません。そしてラテール共和国が滅亡した当時も彼女は冒険者ギルドからの依頼で砂漠の国、シヴへと赴いていたそうです」
なるほど。追ってもかからず今生きていて冒険者を続けているということは、そもそもハーフとして見られていないわけか。かなりの豪運の持ち主だ。
「そして彼女は大陸中にある冒険者ギルドの中でもトップレベルの実力者の持ち主だそうです。そして祖国であるラテール共和国を滅ぼし、家族を殺した連合を深く恨んでいるとも報告が入っております」
「その報告は確かなのか?どうやって調査したんだ?」
俺の質問に頷きアルシアは続ける。
「冒険者ギルドは多くの冒険者たちを抱えており、その頂点に立つ者たちが並々ならぬ力を持つと聞きます。それらトップレベルの者達が我々の警戒すべき相手なのかを見極めるため、全員に監視をつけています」
「補足しておくが、精霊は嘘は付かんぞ?その冒険者何某どもを監視しておるのは儂の精霊たちじゃ。アルシアの言うことは間違いはない」
なるほどな。連合軍を恨んでいるというのが本当ならば、アルシアがこの先で言いたいことが大方予想が付いてくる。
「リーズリット様の言う通りでございます。我々精霊は嘘を付けません。ですので、私の勝手な意見になりますが、彼女を味方に引き入れてはどうでしょう?彼女の境遇や抱いている恨みは、この先のカナタ様の計画と利害が一致すると思うのですが」
「そうだな…。だが味方にするのはいいとしても、どうやって引き入れる?まだ会ったばかりだぞ?信用も無い相手に付いていくと思うか?」
と俺が言うと、控えているユーリアとミリア以外の全員が互いの顔を見回す。
あれ?俺なんかおかしいこと言ったか?
「そ、それは問題ないかと…」
「そうじゃな…」
「にゃ~…」
「…」
「あぁ、やっぱりソーニャのあの反応は俺の気のせいではなかったのね?」
異世界に来て人生で初めて俺のモテ気が到来したようだった。




