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ヒストリア  作者: パリィ
1章 兆し
28/66

王都潜入 2

三└(┐Lε:)┘


「ここが異世界の王都…か」


俺は今、異世界に来て初めてその場所にある人々の文化を目の当たりにしている。

数度の転移を繰り返し、到着した場所はヘテルベルク王都、レティアベルクの平民居住区画から少し離れた小高い丘の上にある小屋。小屋から出て丘の上から一望できる風景はまさにヨーロッパの街並み。見える範囲には、コンクリートやビルのような高層建造物は見当たらない。その代わり、二つの大きな城壁と石造りやレンガ造りで建てられた街並みが遥か遠くまで見える。


「お待ちしておりました」


その声に振り向くと、そこには体が半分透けている水色の肌の美女が、恭しく頭を下げたままの態勢で立っていた。


「この度、カナタ様と妹様方に王都をご案内するよう、リーズリット様から仰せつかった水の精霊アルシアと申します。どうぞ宜しくお願い致します」

「ああ。宜しく頼む」

「おねがいにゃ!」

「よろしくお願いします」

「はい。ですがご案内する前に」


にっこりと微笑むアルシアが俺に視線を向ける。


「ん?どうした?」

「いえ、何故リーズリット様までいらしているのでしょう?話は聞いておりませんが…」

「何?」


すると俺の正面にリーズリットの姿が突然現れる。何故お前がここにいる。


「何故バラすのじゃー!」

「いえ、だって私リーズリット様がいらっしゃるなんて話聞いてませんよ?我らが父たるカナタ様と、姉妹達(シスターズ)のルピナ様、ラザエラ様を案内せよとしか…」


そこには両手を突き上げ怒りを現す幼女と、困り顔の水の精霊がいた。ルピナとラザエラは驚き固まっている。


「リット、お前自分の仕事はどうした?」

「ラージュ翁に任せた!」

「お前…妹の部下に自分の仕事任せるとか…。大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃし冗談じゃ。我が(しもべ)たちは皆働き者じゃし大陸の情報もリアルタイムで入って来ているからの!」


怒っていた表情から一変して偉そうに胸を張る幼女。あぁ…可愛い…。


くっ!つい許してしまいそうになるっ!だが俺は負けんぞ!


「仕方ないな。それで後で問題が起きないのなら俺は何も言わないが」


悔しい!幼女には敵わないの!!


「リットお姉様もくるにゃ?一緒にゃ?」

「おぉ、ルピナ。そうじゃよ。儂も一緒にルピナと王都の観光巡りじゃ!」

「ご主人様…リットお姉様…」


ラザエラが何か言いたそうな目でこちらを見ている。謝るからそんな目でご主人様を見るなよ…。


「やったにゃー!あ、でも先にお仕事するにゃ!」

「おぉ、偉いのぉ。どこぞの昼間から酒をかっくらっている姉にも聞かせてやりたいのぉ」


あぁ、微笑ましい。ネコミミ少女と幼女がじゃれ合っている。スクリーンショット撮らなきゃ。


「あの、リーズリット様。王都は人間至上主義の国。精霊は…」

「分かっておる。儂も其方と同様に姿を隠して共に行動する。大丈夫じゃ」

「あ!ルピも擬態のスクロール使うのにゃ!」


ルピナは肩から掛けてあるポーチから擬態のスクロールを取り出し使用する。すると、溶けるように頭のネコミミや腰の尻尾が消え、その髪の色は目立たぬ茶髪に変化し、見た目は完全に人間の少女になった。


「おぉ!めんこいのぉ!めんこいのぉ!儂のルピナはどんな姿になってもめんこいのぉ!」

「ルピ、中々可愛いですよ。似合ってます」

「はい。妹様は可愛いですね。これは妹様に甘くなってしまう理由も分かります」


ルピナは嬉しそうに姉やアルシアの賛辞を受け取り、トコトコと俺の前にやってきて、町娘に扮して着ている質素な衣装のスカートの裾を持ちその場でクルリと一回転する。


「ルピナ、最高に可愛いぞ。もうそのまま持って帰りたいくらいだ」


と思ったままの感想を述べてあげた。するとルピナは勢いをつけて俺の胸に飛び込み頬擦りを始める。


「嬉しい!ご主人様!」


ルピナには予め言葉遣いを変えるように言ってある。だがご主人様とだけは呼び方を変えたがらなかった。そこは人前で使い分けてくれとは頼んであるが…。


「はは、甘えん坊め。少し見惚れたぞ?」

「うん!どんどんルピに見惚れていいよ!」


と一頻りじゃれあった後、俺は本題を思い出しアルシアを呼ぶ。


「アルシア、こちらの準備はできた。王都の案内を頼めるか?」

「はい。私は大丈夫なのですが、リーズリット様では無くて大丈夫ですか?」

「何故だ?お前が案内してくれるのだろう?リットは《透明化(インビジブル)》でも《潜伏(ハイド)》でも使って勝手についてくるだけだからな。自分から案内するつもりなら最初から誰かには頼んでいないさ」


そう言うと、アルシアは安心したようにホッとした表情になる。いきなりリーズリットが現れてどうすればいいのか不安だったのだろう。計画に支障はないが、俺も元からリットを同行させるつもりでは無かったので一瞬対応に困ったが、まあこれで大丈夫だろう。


「じゃあ済まないが簡単にでいいから王都の概要とこれから向かう場所のことを教えてくれるか?」

「畏まりました。では実際に歩きながらご説明しましょう。私は姿を隠し、皆さまだけに届く声でご説明差し上げますので驚かれないようご注意してください。返事をしていただくときも、どんなに小さな小声でも必ず私には聞こえますので気にせずに小声でお声かけ下さい」

「了解した」

「はい!」

「分かりました」

「儂も消えて付いていくぞい」




そして俺たちは小屋を後にし、目立たぬ場所から王都内の通りを抜けると人ごみに紛れる。俺が想像していたよりも人の数が多い。はぐれないようにルピナの手を握って歩いた。


『アルシア、聞こえるか?』

『はい。ばっちり聞こえておりますよ』

『流石だな。今俺たちがいるこの通りはどの辺なんだ?やけに人通りが激しいみたいだが』

『ここは第一城壁内の北区にある平民街ですね。この通りを真っすぐ進めば大通りに出ます。大通りは大規模な商店街になっていますので、昼の時間帯の今は、外食や買い物に来るお客様で一番通りが埋め尽くされる時間帯ですね』

『なるほど。俺たちも昼食と行きたいが、まずはルピナのスキルチェックだ』

『畏まりました。ではそのままお進みください』


俺の異世界初の王都散策はこうして物々しく始まった。その後、ルピナの固有スキル《精神汚染》はしっかりと発動、定着し、操ることも確認できた。俺もその間にパーシェルに頼まれた一仕事をこなし、結局落ち着いたのは午後3時ほどだった。





「二人とも、どこかで飯でも食べようか。今日の分は終わったから後は軽く見て回ろう」

「いいの!?」

「ああ。いいぞ。俺も少し見て回りたいからな。だが店が閉まるのは早いらしいからな。夕方5時か6時くらいには閉まる店が多いそうだ」

「じゃあ早くご飯食べていこう!」

「ははは、分かった分かった」


と皆で歩き出そうとしたとき、目の前の建物からドーン!という凄まじい物音と共に、派手な色の甲冑を身に着けた男がこちらに向かって吹っ飛んでくる。


「あらよっと」


さり気なくルピナの肩を持ち、片手で吹っ飛んできた男をいなす。この程度なら身体強化までせずとも軽い軽い。


男は俺にいなされ、横にあった壁に激突しそのまま気を失ってしまったようだ。勢いをだいぶ殺してやったため、目立つ怪我はしていない筈である。だが突然な大きな物音と、建物の扉が破壊され、吹っ飛んできた男を見てしまった歩行者たちは足を止めこちらを興味深げに見ている。


あんまり目立ちたくないな。そのままスルーしよう。


と心に決めてルピナとラザエラを伴い足早に去ろうとしたが。



「お待ちを」



後ろから声を掛けられ、内心で大きくため息をついてしまう。


「ご主人様、如何なさいます?」

「如何も何も、こうなってしまった以上逃げられんよ…。話は俺がするからそのままそこに居てくれ」

「御意」


声を掛けられる前なら逃げれたとは思うが、もう遅い。ここで逃げれば目立つし、下手をすると怪しまれるだろう。


俺は振り向くと、サラリーマン時代に鍛えられた営業スマイルで答える。


「何でしょう?どうかされましたか?」

「へうっ!?あ、あいや、その。大丈夫か?怪我はなかったか?男が吹っ飛んできたであろう?」


振り向いた先にいたのは背が高く、灰色のローブを着た女だった。赤く長い髪を後ろで簡単に結ってあり、顔も整っていて普通に美人である。着ているローブの裾は右足の方が大きく破れ、細く綺麗な長い足が剥き出しになっていて色っぽさを感じる。


そして何故か俺の鍛えられた営業スマイルを見て少し頬を赤らめている。



…そんな馬鹿な。



「いえ、我々は避けたので怪我などはありません。お気遣いありがとうございます」


だが俺は負けじと歴戦の営業スマイルのまま答えてやる。


「よけ、た?そんな馬鹿な…あ、いや…そ、そうか。怪我がなければそれでいいんだ。だが迷惑をかけたことには変わりない。何か詫びを入れさせてほしい」


……面倒な人物に会ってしまったかもしれない。もちろん断るに決まっている。


「すみません。先を急いでいるもので…」

「じ、時間は取らせない!どうだろうか!お連れの方も一緒に食事でも奢らせていただきたい!」


oh...


『カナタ様、予定していた行動は全て終了しているので付き合ってもいいと思います。その女性はちょっとした有名人なので、怪しまれると後々行動がとり辛くなるかもしれません』


何っ!?

マジで面倒なやつに絡まれちまったな…


『逆にここで縁を作っておくといいかもしれませんね。それに彼女は、ハーフです』


ハーフ…?

まさか亜人か!?


だが見た目は身長の高い美人というだけで人間にしか見えないが…。あぁ、なるほど。見えないところに特徴が出ているかもしれないのか。それならば…。


「そ、そうですか。私どもは王都へ来たばかりでしたので、食事する店を迷っていたところなのです。それならばお付き合いしていただきたい。手持ちもあるので奢らなくても大丈夫ですよ」

「そ、そうか!良かった!静かでいい店を知っている!もちろん私が奢らさせてもらうぞ!詫びだからな!」



こうして俺たちは異世界初の王都散策はできずに、謎の美女に連れられて商店街の奥へ案内されていった。


王都に潜入してまだ1日目。日が暮れる前から今後の展開に波乱の予感を感じていた。




スマホで読み辛かったので次回から文体を少し変えていくかもしれません。

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