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ヒストリア  作者: パリィ
1章 兆し
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王都潜入 1

「ご主人様、ルピナの固有スキルの調整が整いました。王国への潜入経路も同時に構築致しましたので、当初の計画通り実地試験も兼ねたご主人様による敵情視察をいつでも開始できます」


ルピナのパワーレベリングが終わった日の夜、自室にて秘書として控えているリーゼからそんな報告がされた。


「ああ、できたか。なら早速明日にでもヘデルベルク王国へ行くか」

「畏まりました」


ヘデルベルク王国。リフ大森林から見て南東に位置する大国で、元は帝国の一部であったが200年前に独立。


国王をカレル・ド・ヘデルベルクとし、広大な領土を貴族達に治めさせる帝国を模範とした封建制度が主流の国である。


メイ達が住んでいたラテール共和国を滅ぼした連合軍の中枢の1国でもある国だ。


そして俺は明日、ヘデルベルク王国の王都であるニルスベルクスへ潜入することになっている。


「行くのは俺とルピナ、ラザエラの3人だったな。滞在予定日数は…」

「二泊三日ですね。現地では私が使役するアンデッドと、リットお姉様の精霊達がご主人様をご案内致しますのでご安心下さい」


王国も含め、今や南方諸国には数え切れないほどの諜報員や工作員が、リーズリットとリーゼの鮮やかな手際により潜入に成功して活動している。


今回の主目的は、ルピナの固有スキルの発動。これだけで言えば現地に俺が潜り込む必要はないが、俺が我儘を通し同行する事になった。


我儘と言うのも、折角異世界に来たのだから少しは観光もしたい!と言う異世界転移、または転生した諸兄なら気持ちは分かってもらえるだろう。


まあそのせいで滞在日数が伸び、二泊三日になったが。


「現地では大っぴらに転移スクロールのご使用は控えて下さい。感知される可能性がありますので。ルピナには擬態のスクロールを予備も含めて5日分手渡して置きます。くれぐれも忘れないようにご使用下さい」

「了解だ」


これから潜入するヘデルベルク王国は人族至上主義を掲げる大国である。その掲げる主義思想でラテール共和国を滅ぼした主要国でもある。そこに住む亜人種たちはすべからく処刑、または奴隷にされているだろう。

その現場がどれほど残酷で救いの無い光景なのかは、戦争も無い平和な日本でぬくぬく育った俺には想像もつかない。


そして、見た目が獣人種に見えるルピナが潜入する。見つかれば下手をすると即処刑。良くて奴隷化だろう。

絶対にそんな事にはさせないが。


だが下手な騒ぎを起こすわけにもいかないので、擬態のスクロールを地下倉庫から引っ張り出してきている。緊急時の用意も万全で、常にリットとリーゼの配下達が俺たちを護衛してくれる。そして対人戦では圧倒的な強さを誇るラザエラも同行させる。我ながら完璧な布陣である。



そして俺は、ある事を心に決めていた。皆からは唐突だとは思われるかもしれないが、王国潜入の際に自身のアバターを元に戻そうと思っていたのだ。


今は黒髪の長髪で赤黒い目にしているが、本来の俺のアバターは黒髪で短髪の、茶色っ気が混じった黒い目だ。身長や体型は今も元も変わらない。


「リーゼ、今から俺のアバターを元に戻す。皆に周知とメイ達村の生き残り連中にも伝えておいてくれないか?」

「お戻しになるのですね。承知致しました。私達はご主人様が分かりますが、メイ達には驚かれるでしょうね?」


リーゼはくすくすと笑うとメッセージを使い、皆に伝え始めた。俺はステータス詳細画面からアバター変更へ画面を移し、1枚だけあるアバター変更カードを使用する。


元の姿はテンプレートとして保存してあるので、画面に出てきた項目を順次選択し、変更決定ボタンを押す。


一瞬だけ体が光り輝き出す。


そして、なんの感慨も無く元の黒髪短髪の黒目に姿は変わる。背格好は相変わらずだ。


「リーゼ、どうだ?おかしな所はないか?」


異世界に来てからシステムの内容が変更されているものがいくつか確認されているので、念のためリーゼに元に戻ったかを確認してもらう。


「あぁ…。はい。いつもの勇ましく雄々しい我が主人に戻りました。異常な点は見受けられません。成功ですね」


恍惚とした表情で俺を見つめ、その頬は紅潮している。無意識にだろうか、俺に体を寄せ、自然に腕の中へ入ってくる。


「ああ…ご主人様。今までの姿もいろいろと刺激されましたが、やはり元のご主人様の方が落ち着きます…」

「お前は俺の姿に何が刺激されたんだ…」



その後、俺のアバターが元の姿に戻った事を知った姉妹達全員が俺の自室へ押し掛け、皆一様にリーゼと同じ行動をしていた。


一目見ておきたいと言ったメイも訪れ、俺の姿を見て少し驚いていた。まあ事情を知らなければ、髪切って目の色変えたくらいだしね!


目の色はどうやって変えたのか聞かれた際に、適当に「ま、魔法でね」と答えておいた。多分間違ってはいないはずである。







そして次の朝。

異世界に来てそろそろ1週間が経とうとする日。王国へ潜入する俺とルピナ、ラザエラは普段の装備ではなく、リーゼが揃えたシンプルな町人ファッションで、魔法陣のある屋敷のとある一室に訪れていた。


そして周りには、メイド組はツインのみだが、()()()()()が俺達を見送りに集まってくれている。


「皆わざわざ来てもらってすまんな。三日後の朝には戻るつもりだからそれまで屋敷とメイ達を頼むぞ」

「承知致しました。カナタ様ご不在中の万事はお任せ下さい」


俺が不在中は全ての事柄に於いて姉妹達の長女であるイーリスに一任している。補佐には鈴とリーズリットも付いている。俺が居なくても盤石な体制である。


ルピナとラザエラは上の姉達に囲まれ、撫でられながらもみくちゃにされている。


「ルピナ、ラザエラぁ、ご主人様に迷惑を掛けるんじゃないえ?虐められたらすぐに言うんえ?ウチが一晩で滅ぼしてやるけえ…」


下の妹達に極甘の鈴が物騒な事を言っている。普段はちゃらんぽらんだが、妹の事となると過保護が激しくなる。


「大丈夫にゃ!ご主人様とラザ姉様が守ってくれるにゃ!お土産も期待しててにゃ!」

「鈴お姉さま、ご主人様とルピのことはお任せください。必ず守り抜いてみせます」

「ルピナ、ラザエラ。良いですか?変な人には付いて行ってはダメですよ?拾い食いも禁止です。お腹を壊した時の薬は持ちましたね?ああ、完全回復ポーションも作っておきました。持って行きなさい」


鈴より過保護なミストが、ゲーム内でも貴重な完全回復ポーションをストック単位で渡している。因みに1ストック10本である。


「ミストお姉様ありがとにゃ!ルピはご主人様とラザ姉様だけに付いていくから大丈夫にゃ!拾い食いもしないにゃよ?」

「あぁ、もう!心配で心配で!!」


元気よく笑顔で答えるルピナをこれでもかと抱きしめるミスト。


「ミスト落ち着くっすよ。あっしが作った『遠隔くん』が常にご主人様たちに張り付いてるっすから、屋敷からでもご主人様たちの姿をモニターできるっすよ」


パーシェルがそんなミストを宥めるために、今回の目的の一つを説明している。今回の潜入では、パーシェルが片手間で作り出したあれやこれやのテストも兼ねている。主目的はルピナの固有スキルの発動に変わりはないが、これも優先度が高い実地試験である事には変わりない。



「パニエ、俺がいない間はパーシェルと連携して森の資源調査と伐採を進めておくように。今後は大量の資源の確保が重要になってくるからお前の役割は最重要だぞ?パーシェルもだ。姉妹達全員で協力するように」

「はい!ご主人様!」

「ういーす」


王都への潜入も含め、今始動している計画は全てその先の布石に過ぎない。それを認識している姉妹達は全員真剣な表情で頷く。


終始寂しそうな表情だったリーゼが俺の側へ来ると、か細い声で「お気を付けて…」と呟く。その細い体を軽く抱きしめ、ゆっくりと離れる。


「すぐ戻ってくるさ。お前たちがいる場所が俺の家だからな。お土産も買ってくるから良い子にして待ってるんだぞ?」

「…はい」


俯くリーゼの頭を撫でながら、上の姉達にもみくちゃにされている二人を呼ぶ。


「ほら、行くぞ。いくつかの転移陣を経由しなきゃいけない距離だからな。あまりのんびりはしていられないぞ?」

「はいにゃー!」

「御意」


二人を伴って転移陣が掛かれた上に乗る。


「では皆、行ってくる」

「「「「「行ってらっしゃいませ」」」」」


魔法陣に描かれた模様が光り出し、次第に俺たち三人を光が包み込んでいく。


「行って…らっしゃいませ…」


リーゼの絞り出すかのような声が聞こえたのを最後に、俺たちは屋敷から転移した。






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