姉の気持ち
目が覚めちゃったのでこっそり登校。
「おっらぁ!」
今俺は、絶賛戦闘中である。
目の前には三体の首吊り人形が俺目掛けて中級魔法《氷結の棺》を容赦なく放ってくる。飛来する巨大な氷の塊を、大きくバックステップで距離を取り回避し続けざまにカウンタースキル《後の先手》で反撃を試みる。
俺の双剣から放たれた衝撃波が三体の首吊り人形へ直撃するが、一体が生き残り反撃の詠唱を始めた。
「やっぱパーシェルの《人形》は強いな」
今目の前で戦っている首吊り人形はパーシェルの固有スキル《人形の楽園》によって特殊召喚された人形だ。この異世界に来て戦った中で一番強い気がするのは気のせいではない。因みに人形一体のレベルは4000に調整されてあり、リーゼレベルでないとまともに太刀打ちができないレベルだ。
「ごっしゅじんさまー!人形たちはどうっすかー?」
遠くからパーシェルの声が聞こえてくる。パーシェルは食糧プラント第一号の建造が終わり、早くも次の作業に入っている。俺の様子を見に来たのは、自分のに召喚した人形たちの確認のためだろう。
「いい運動になってるー!もうちょっと強くても大丈夫だぞー!」
「これ以上はあっしのMPがもたねぇっすー!数が少なくなるっすけどそれでいいなら出しますよー?」
話しながらも戦いは続く。中級魔法《結晶の吹雪》を唱え始める首吊り人形。発動すれば回避はほぼ不可能の中級魔法でもかなり大規模で、えげつない魔法である。
「うおぉぉぉぉぉっらぁ!」
自身の高AGIと身体強化魔法を生かして突っ込む。パーシェルの召喚する人形達も、姉妹全員から聞いていた「スキルの性能や威力が向上している」の例に漏れず、その放つスキルや魔法は強力かつ詠唱時間の短縮がされていた。
首吊り人形の詠唱終了寸前に、聞き手に持った片手剣が人形に届く。詠唱中の無防備な体を袈裟斬りにした後、もう片方の剣で首を撥ね止めを刺す。
「お?おわったっすかー?どうっすか、うちの子たち。強いでしょ~?」
「あぁ、少なくとも俺が異世界に来て戦った魔物たちの数百倍は強かったな。まぁ、雑魚としか戦ってないんだが」
「そりゃそうっすよー。なんたってレベルやステータスの調整までも効くようになったんすから」
「レベル4000だもんな。中級ダンジョンのボス以上はあるなー。今頃ルピナはレベル上がりすぎてヒーヒー言ってるんじゃないのか?」
ルピナは今、俺と態とパーティーを組み屋敷の中で休んでいる。そしてパーシェルが召喚した人形たちを相手に俺が戦い、倒すと全て経験値がルピナに行くように設定してある。つまりパワーレベリングである。実はこのやり方はゲーム内でレベルの低いパートナーキャラを一定のレベルまで上げるメジャーな手法ではあるが、この異世界で使えるかどうかは直前まで俺は知らずに行おうとしていた。
結局は使えたのだが、その後が問題だった。急激なレベルの上昇にルピナが目を回して倒れたのだ。「音で死ぬにゃー!」と言っていたのでたぶんレベルアップ時の効果音だろう。最初は俺の傍にいたのだが、ルピナは今ミストに連れられて屋敷の中に戻っていた。
因みにルピナの今のレベルは180。累計レベルは430を超えたくらいだ。人形のレベルは4000とかなりの差があるのでルピナに入っている1体倒すごとに入る経験値は膨大だ。
「まーまー。まだ20分くらいしか経ってないっすからねー。目標はどれくらいでしたっけ?」
「とりあえず累計500だな。レベルリセットの実験も兼ねてるし、一応項目はあるが、もしかしたらがあるからな。まあレベルリングの目的もMP総量を増やす事だからな。元々MPは高い種族だから今回に限ってはそこまでレベルが高く無くても大丈夫だろうと思ってる」
「そうっすねー。1つレベルが上がるだけでもかなりの上昇量がありそうっすもんねー。ちなみにパワーレベリングで大丈夫なんすか?ヒストリアと違ってあっしら戦闘AIなんて入ってないっすよ?」
パーシェルの言っていることはきっとパワーレベリングではプレイヤースキルが身につかないということだろう。端的に言えば、実際に戦わないと戦い方が身につかないけど大丈夫か?ということだ。
「あぁ念のため聞いたんだがな、まあなんだ。矢面にはあまり出たくはないらしい。そもそも全線で戦うような種族でも無いしな」
「んーまぁ…そっすねぇ…。基本的な立ち回りくらいは覚えておいた方がお姉ちゃんは安心するんすけどね。あまり無理強いもしたくはないっすけど…」
末っ子に甘くなるとはこういうことなのだろう。パワーレベリングは俺がしなくてもイーリスや鈴はやる気満々だった。鈴までも、ルピナは戦わなくても側にいるだけでいいとも言っていた。ルピナだけにまさに猫っ可愛がりである。
「お前の言わんとすることも分かるがな。本人の希望も大事だが…少し検討しておこう」
ここは異世界でヒストリアオンラインではない。十分な保険があっても何が起こるか検討もつかない。ならば、やれることはやっておくべきだろう。
「うっす。その辺はあっしは苦手なんでご主人様にお任せするっす」
「ああ。まあ、なんとかなるだろ」
ルピナは戦力としては姉妹たちの中ではワーストだが、持ちうる固有スキルの数はイーリスと同等だ。ポテンシャルは秘めている。後は本人のやる気次第だが。
「さて、もう少し付き合ってもらうぞパーシェル。今のままのレベルでいいから人形を頼む」
「うっす。後の安全なレベリングのためには初期のパワーレベリングも悪くはないっすからね」
地面に紋章が浮かび上がり、《魔女の傀儡》が出現する。
「おいおい、奮発したな。レベル5000ってとこじゃないか。リーゼでもキツイぞ?」
「妹のためっすからね。あーMPすっからかんっすよもー」
「多分こいつを後2~3体倒せば累計500は行くだろう。頼むぞ?」
と言い残し、《魔女の傀儡》へ吶喊する。後ろでパーシェルが無理っす!と連呼しているが、MP配分を間違った自分の責任である。《魔女の傀儡》も1体の経験値は凄まじいが、俺でも手古摺る上級ダンジョンの奥で遭遇する罠師の類の魔物だ。無駄に多いHPと面倒なスキルのオンパレードで、倒しても有用なドロップ品は無く、実入りは経験値だけで嫌われ者の魔物である。
その後、ルピナのパワーレベリングが終了したのは約1時間後の事だった。
「さて、ルピナのレベリングも一応終わったが。リセットは…」
召喚パートナーの詳細画面には、通常レベルリセットボタンが点滅している。つまりレベルリセットはできると言うことである。この異世界のヌルゲーが確定してしまった。
「ルピナ、どうやらレベルがリセットできるようだ。実験的にリセットしたいのだが…」
「にゃ!?またレベリングするにゃ!?い、嫌だにゃ…」
どうやらレベルアップの効果音がトラウマになってしまっているようだ。パワーレベリングの効果音がトラウマになるのはプレイヤーくらいなものだろう。人格ができてしまった弊害だろうか…。
「レベリングはもうしないぞ?ただ異世界でもレベルリセットがきちんとされるか試したいだけだ」
レベリングはしないと言ってやると、ルピナは恐る恐る頷く。
「ほんとにゃね?信じてるにゃよ?」
「もう目標累計レベルには達してるからな。しないよ」
そう言って落ち着かせ、膝の上に乗せて撫でてやる。
「じゃ、じゃあいいにゃよ…信じてるにゃよ?」
「大丈夫だ。それじゃ押すぞ?」
点滅するレベルリセットボタンに指を置く。ヒストリア内であれば体が光るエフェクトを発し、そのまま通常レベルがリセットされるのだが。
「…なんだこれは?」
ルピナの体は光ることなく、パートナー詳細画面に「必要素材」と書かれた画面が新たに表示された。
そこには、「魔石核 必要数:1」とだけ書かれていた。魔石なら持っているが、魔石核とは何だろうと思っていると、何の変化も起こらないことにルピナが疑問の声を上げる。
「ま、まだかにゃ?まだ終わらないにゃ?焦らしてるにゃ?」
「いや、焦らしてる訳ではないんだが…どうやらレベルのリセットには素材が必要になっているみたいでな」
「そうなのかにゃ?」
「ああ。魔石核って知ってるか?」
ルピナはうーんと少し唸り、ばっと何かを思いついたように俺を見て、
「知らないにゃ!」
「だろうと思ったよ」
これは早めに全員の必要素材を確認しておかなければ。後でリットとリーゼに知っているかも聞かなきゃな。ヒストリアでレベルリセットに素材なんて要求されることは無い。ある一定以上の通常レベルと現実時間の経過でリセットは可能になったはず。と言うことは異世界に来てレベルリセットの内容が変わったということだ。
「…とにかく、今回はレベルリセットはお預けだな。後で全員に周知しておこう」
「分かったにゃ!」
魔石核なんて持ってないからな。今はどうしようもない。とにかくルピナのステータスを確認して…。
その後、ルピナの魔力総量が必要十分に上がっていたことが分かったため、悪夢のパワーレベリングは終了した。当の本人は、自分のレベルやステータスが上がったことよりも、パワーレベリングが終わったことに喜んでいたのは言うまでもないだろう。
魔力=MP
魔力総量=MPの最大値
念のため_(┐「ε:)_




