変質
「ご主人様、今ちょっとよろしいですか?」
「お?どうした?」
大森林の魔物を討伐し、中に何も無い不思議なダンジョンを調査し終わった日の夜。
イーリスがルピナを連れて自室へとやってきていた。
俺の周りには小さな大精霊リーズリットとアンデッドフェアリーのリーゼが諜報計画の内容を詰めにやってきていた。
「夜分遅くにすみません。お伝えしなければいけない事が分かりました」
「ん?いいぞ、気にするな。話してみな」
と答えると、イーリスは隣に立っているルピナの肩を持ち、自分の正面に移動させる。
「ルピナの固有スキルについてです」
「ルピナの固有スキルか…《心眼》の事か?」
ルピナは姉妹達の中でも末っ子である。そして戦闘能力だけで言えば姉妹間ではワースト。だがルピナには種族特有の固有スキルを複数持ち、その中でも《心眼》は、生活スキル《鑑定》の最上位上位互換スキルであり、プレイヤーが取得する事はできないレアな固有スキルである。
「いえ、《心眼》ではありません。《精神汚染》です」
「何?あれがどうかしたのか?」
ルピナの固有スキル《精神汚染》。ヒストリア内でのスキル説明では、目を合わせた相手の精神状態を操る事ができると書かれている。これだけを聞くと大変有用なスキルに聞こえるかもしれないが、実は実際に使ってみると、一定のレベル以下の敵に対して2、3秒のディレイを発動させるだけの、下手をすると他の初級のデバフ系魔法の方が使い勝手がいい説明詐欺のスキルである。
「はい。結論から申しますと、ルピナの《精神汚染》スキルは、内容が少し変質し威力が大きく向上しておりました。本日雇用された生き残りの女性と子供たちにも協力してもらい、実証実験も複数回行なっております。こちらがその結果を纏めた書類になります。できれば今目を通されて頂くと…」
ファイリングされてある書類を受け取ると、中には5枚程の書類が入っている。これぐらいだったらすぐ読めそうだな。
「ショコラ、皆に何か飲み物を。皆済まない。少しそこで寛いで待っていてくれ。すぐに目を通す」
「畏まりました」
ファイリングされた書類を取り出し、『ルピナの固有スキル調査結果』と書かれた1枚目から目を通していく。
これは…。
1枚、2枚、3枚と時間にして20分経つか経たないかくらいして、ザッと全てを読み終わった書類を机に置く。そして自身のお手製の沈み過ぎないデスクチェアーに背中を預け、体重をかけてもたれていく。
「ふぅ。皆そのまま寛いでいたままでいい。ルピナ、おいで」
「はいにゃ」
とととと〜と小走りでやってきたルピナを受け止め、膝の上に乗せる。俺はルピナの銀色に輝く美しい髪を優しく撫でながら少し考えて話を切り出した。
「ルピナ良かったな。お前も姉達と同様、戦える事が分かったぞ」
「はいにゃ!すっごく嬉しいのにゃ!」
俺は、ルピナが自分が一番弱く戦えないことを悩んでいたのを知っていた。唯一皆が持っていない《心眼》スキルでの活躍も、この世界に来てからは地下倉庫の物資しか使っていない為、その機会は殆ど訪れていなかった。
「お姉様たちと肩を並べて戦えるのにゃ!」
「そうだな。本当に良かった。だがこの《精神汚染》は魔力量に左右されるみたいだな。レベリングが必要だ。それは俺がどうにかしてやる。魔力量を底上げする装備やアイテムもお前に与えよう。後はルピナ、お前のやる気次第だ」
「やるにゃ!!」
ルピナは俺の膝ので器用に体を動かし向き直る。その目には、やはりヒストリア内では見たことのない真剣で、やる気に満ち溢れた輝きが灯っていた。
「よし、なら早速明日からレベリングだな。ゆっくりしている暇はないぞ?」
「分かったにゃ!」
「よしよし。ルピナは可愛いな~。ほれほれ~うりうり~」
「にゃふ、耳はだめですご主人様ぁ~」
やはり獣耳は癒される。ロリっ子獣耳は最高だな!
「やはり小さい子の方が…」
「小さいは正義なのじゃ!」
「?、何の話ですか?」
はっ!!いかん!またやらかしてしまった。ルピナが可愛いのがいけないんだ!
それでも撫でる手は止まらない。このいつまでも触っていたくなる感触、ちょんと自己主張しているネコミミ、そして軽くコンパクトサイズの体系!もはや抱っこされて撫でられるために生まれてきたとしか思えない!
俺が作ったんだが。
そしてリーゼから事情を聴いたイーリスは軽いジト目でこちらを睨みつつ、リットは大喜びしていた。その後はルピナを抱っこしたままの態勢でイーリスも含めて諜報計画の内容を少し変更して話を進め、今夜は解散となった。
そして就寝前の今、ショコラが淹れてくれた緑茶を啜りながらパーシェルにメッセージを送っていた。
『パーシェル、今いいか?』
『はいはーい。どうされました~?』
『明日、ルピナのパワーレベリングを行う。少し人形とゴーレムを貸してくれないか?』
『あぁ、ルピナの《精神汚染》のためっすよね?あっしはもとよりそうするつもりでしたよ~。ミストが世話する気満々っしたので一緒に連れて行ってやってください』
『あぁ、パーティー設定でルピナに経験値が入るようにするから姉妹の誰かが来るのは構わない。後もう一つ頼んでいいか?』
『ほい?なんでしょ?』
『経験値増加系のポーションと装備をお前に作っておいてほしい。俺が持っているのは既製品ばかりだから少々経験値の入りが悪い。俺が作り直すよりパーシェルが作った方が遥かに高性能になるはずだからな』
『あぁ、OKっすー。素材は地下倉庫の使いますけど大丈夫っすかー?』
『そうだな。よっぽど貴重なものでない限りは今後断りは入れなくていいからどんどん使え』
『あははー!流石に遠慮があるっすよ!ありがたく使わせていただきまっす!』
『はは、頼んだぞ』
『うぃーっす。ご主人様はもうご就寝ですか?』
『ショコラが淹れてくれた茶を飲んだら寝るつもりだ。邪魔して悪かったな』
『いえいえ、滅相もない~。ご主人様のラブコールですし、何より大切な妹の悩みが解決するんスから!要らないと言われても協力するっすよ!』
『そうかそうか。イーリスでさえレベリングに付き合おうとしていたからな。あいつもやること相当あるはずなんだがな』
『ぁー。御姉様は今、連日で北方大山脈に行かれてるんでしたっけ?下手するとリット姉様とリーゼより忙しいかもしれないっすね』
『あぁ、イーリスと鈴はこんなところで力を使えないからな…北方大山脈くらい離れていないと屋敷がぶっ壊れる。まあ都合よく北方大山脈の調査もできるからお前も大助かりだろ?』
『そりゃもう!御二人がご帰還されるたび面白い素材をたんまりと持って帰ってきてくれますからね。あっ!すんませんご主人様。呼ばれたんで切りますねー。今から食料プラントの最終確認なんスよ!』
『おぉ…マジか…それ終わったら食糧問題は完全に解決だな。よくやった。邪魔して悪かったな。おやすみパーシェル』
『邪魔なんかじゃないっすよー!おやすみっすご主人様!』
よしよし、向こうも順調のようだ。工作計画も順調だし、後はルピナの魔力量の問題か…。
「ふぅ。む…」
一息付き、湯呑に口をつけると緑茶はもう温くなっていた。
「淹れなおしましょうか?」
「済まんな。頼む」
「畏まりました」
ここまでは順調に進んでいる。ルピナの《精神汚染》があまりにも強力に変化していたので計画はさらにも増して軌道に乗るだろう。
「お待たせいたしました」
「相変わらず早いな。ありがとう」
「いえ、どなたかのお姉さまと話し込んでいることは分かっておりましたから、予め」
「なるほど、済まないな」
熱い緑茶を飲みつつ、イーリスに手渡された『ルピナの固有スキル調査結果』を熟読し、日付が変わる前に俺はベッドに潜り込んだ。
すると、潜り込んだベッドの中に、何故かショコラの橙色の長い髪が目の前に現れた。
「…何をしてるんだショコラ」
「決して同衾して朝を迎えたマロンが羨ましかった訳ではないんです」
「…俺が寝るまでだぞ?また騒ぎで起こされるのは勘弁だからな」
「はい」
「もっと寄れ。寒い」
もぞもぞと毛布の中を移動し、ショコラが近寄ってくる。そして手を伸ばさなくても届く距離に来たショコラを撫でまわしてやる。
「あー…髪が乱れます」
「おっと、すまんな。嫌だったか?」
「…むー。もっと」
そしてしばらく撫でていると、何故か俺より先にショコラの方が眠りについてしまった。こいつら睡眠必要ないって言ってたはずなんだが…。ありがちな、「必要はないけどできないことはない」みたいな?
そしてその寝顔を見ていると起こす気にもなれず、明日の朝、誰かに見つかりませんようにと願って、俺はショコラの隣で眠りについた。
_:(´ཀ`」 ∠):_ …
↑人物紹介作成に手間取る作者の図。




