リフ大森林魔物討伐戦
「屋敷を中心に、リフ大森林魔物討伐戦を行う」
俺の声が響く会議室。
だがそこに居るのはアイスココアを飲むリーズリットとリーゼ、パニエ、俺の膝の上に乗っているリリルだけである。
今は異世界4日目のお昼前。またもドタバタ騒ぎで起こされ、なんとも言えない気分で起床した。地味に睡眠時間がしっかりと取れているのが悔しい。
そして今、パニエによるリフ大森林の掌握が完了した。その際、大森林に生息する魔物たちの詳細な情報がパニエから報告された。パニエの情報によると、大雑把に言うと数体の魔物以外は小物ばかりだそうだ。だが平均レベルで見れば、この大陸でも上位に入る部類らしい。
まあそれを知っているからこそ連合軍はメイ達に追っ手はかからず、今まで生きてこれたそうだが。
メイ達が開拓した部分は大森林のかなり中央に近い部分だ。何故そこまで生きてこれたのか疑問に思い聞いてみたところ、ある魔族の夫婦が対魔師だったそうで、森の開けた土地を探し、結界を何重にも張り巡らせ襲われなかったそうだ。
その夫婦は先の変異種達の襲撃によって亡くなったそうだ。メイは、落ち着いたらあの襲撃で命を落とした者たちの慰霊碑を建てたいと呟いていたのをツインから聞いた。
俺もそれに対し一言返事で許可を出し、ツインに落ち着くまで待ってくれと伝言を残しておいた。
因みにこの大森林内には、変異種は他に見つからなかったそうだ。そもそも変異種自体珍しいものであって、群れるような事もない。あの一件はやはり何か裏がありそうな気配がする。
色々と話が逸れてしまったが、このタイミングで魔物討伐を宣言したのには理由がいくつかある。俺がまたも無理矢理起こされた早朝の2時間後くらいに、パニエから入ったリフ大森林掌握完了のメッセージが切っ掛けである。
メッセージの内容から、数え切れないほどの魔物が生息しているらしく、今後の事も考えるとリットとリーゼに相談した方がいいと思い二人を会議室に呼びつけた。
今後の事と言うのが、魔物討伐の主な理由になる。今朝パニエの一報から少し後に、メイから生き残り全員が納得したので正式に雇用して欲しいと直接頭を下げられ、即時承認。今日から動ける女性達は、早速メイド4人による研修が行われている。
俺含め召喚している姉妹達ならば、この森の魔物程度には負けるはずもないが、今から雇用し屋敷で働いて貰うのは一般人である。しかもか弱い女性と子供達しかいないので、目に見えるリスクを減らそうと思ったのだ。
後は屋敷周辺だけでも森の木々を伐採し、パーシェルが主導している生産施設の建設や、女性向けや子供向けの娯楽施設を建設しようと言う案が一定層から計画されている。
なお、伐採した木々は予備資材として地下倉庫行き決定だ。つまり倉庫の肥やしだな。
などなどと言った理由により、根絶は不可能ではあるが、ある程度の魔物達を周囲一帯から殲滅する計画が決定した。
「それはいつからやるつもりじゃ?ご主人様」
「うーん。森の事はパニエに任せるつもりだったし、パニエの予定次第だなぁ。他の連中は今パーシェルのお使いに出てるし」
今屋敷にいる姉妹達はメイド組を除けば、目の前にいる3人だけである。メンツ的にできない事は無い。というかパニエ一人でも十分なんだが。
因みに護衛のラザエラは鈴に引き摺られて一緒にお使いに行った。
「ご主人様、この後の私の予定は特にありませんよ?魔物討伐ならば一人でもやろうとは思っていましたし」
「ん?そうだったのか。なら動こうと思えばすぐに行動できるな。リットとリーゼは?」
二人に聞くと、リットとリーゼは顔をお互い見合わせ、示し合わせたかのようにこちらに振り向く。
「暇じゃ!」
「暇です!」
あ、これ本当は絶対忙しい感じだな。
「本当か?姉妹達でお前らが一番忙しい筈だと思ったんだがな」
「ご主人様の共をする方が優先なのじゃ。雑事はリーゼのとこのラージュ翁がしてくれよう」
「あ、私は本当に暇ですよ?全てラージュに任せていますからね」
二人してにっこりと満面の笑みである。仕事放棄する気満々だな。
ラージュには今度何か埋め合わせしてやろう。
「分かった分かった。付いてくるのはいいが、俺も直接動くぞ?体を動かさないと鈍るからな。ここんとこ書類とにらめっこばかりでフラストレーションも溜まってるからな」
パニエ一人でも余裕な魔物の討伐を企画した本当の理由はこれである。あと腹の肉も気になってくるしな。ここでしっかり運動不足も解消だ。
「ご主人様が直接戦うというのであれば…うーん。リットお姉様、どうしたらいいでしょうか?」
「パニエは魔物の巣の分布が分かるじゃろ?とりあえず周辺の安全を確保するためじゃから、屋敷から周囲50km以内にある巣の規模が大きなところをご主人様に教えて差し上げればいい。小さなところは我らが潰せばいい。単独で動いているようなはぐれはラージュ翁に任せよ」
リフ大森林の簡略図を眺めながらリットが説明する。ラージュの扱いにそろそろ同情を覚えてしまいそうだ。アンデッドって何貰ったら喜ぶのかな?
「畏まりました。では全員で行動になりますね」
「うむ。儂もリーゼも配下を使えばいいからの。お主の傍にいて指示を出した方が効率的じゃ。それに久方ぶりにご主人様の舞いも見たいしのー」
「ふふ、同感です」
リットとリーゼは本当にただ付いてくるだけのつもりのようだ。ピクニック気分でわくわくしているのが分かる。まぁ、別に俺は構わないんだが…ラージュが不憫だな。
「…よし、決まったな。昼食食べて一息付いたら出発だ」
こうして、俺の運動不足・フラストレーション解消のためのリフ大森林魔物討伐戦が昼食後に決行されることが決まった。
「何だろうなぁ…この感じ…」
俺の目の前にはブルーゴブリンの屍の山が築かれつつあった。
昼食後、俺たちはシルバーファングのるいるいに乗り、パニエの能力で見つけた魔物の巣を虱潰しに潰していた。今はもう5つ目の巣である。
報告で聞いていた通り、森の魔物たちは上位種である色付きの魔物が多く見受けられた。そりゃ平均レベルが高くなるはずだ。
「ほいほいっ、と。《双連斬》」
今は片手剣を両手持ちスタイル、いわゆる二刀流で戦っている。運動のために魔法はなるべく使わずに、できるだけ体を動かすスタイルだ。
降り下ろした二本の剣から派手な衝撃波がブルーゴブリンどもをミンチに変えていく。
「ご主人様、北方と東方ともに屋敷から50km圏内に存在する巣は全て潰しました」
背後からリーゼの声。短距離索敵で辺りを索敵するが周囲にもう敵はいない。終わるのを見計らって降りてきたのだろう。どうやらリットとリーゼは本当に動く気がないようで、上空で待機しているシルバーファングのるいるいの背中から使役している精霊やアンデッドたちに指示を出しているだけだった。
「お、そうか。こっちもなぁ…動けてはいるんだが、果たして運動になっているのか怪しいくらい敵が柔らかくてな…」
「あ、でしたらパニエが面白いものを見つけているそうですよ?」
「お?強い敵か?」
折角久しぶりに地下倉庫から取り出したお気に入りの近接戦闘装備には返り血の一つもついていない。敵が弱すぎてパッシブスキルの《吸血のオーラ》で切らずとも勝手に死んでいくのだ。もちろん、自身が味方と認識している者には発動しないため、リーゼは俺の腕をさりげなく抱くことができる。
だが面白いものか…せめてゴブリンやオーク、トロールやサイクロプス以外がいいな。あいつらは駄目だ。筋肉が少なすぎるんだ。
「はい。パニエ曰く、ここからもう少し南に行った場所にダンジョンらしきものを発見したそうです」
「おぉ?ダンジョンか。この異世界にもダンジョンが確認されてるって報告では聞いていたが、意外と近場にあったんだな。よし、確か残る巣は4つだったな?さっさと潰してダンジョン調査へ行こう」
「畏まりました」
雑魚ばかりを相手にしてテンションがダダ下がりだった俺は、ダンジョンがあると聞いただけでモチベーションを持ち直し、残る大規模と判断された巣を嬉々として潰していった。
「ここですね」
パニエが指示した場所には、周りの木々に囲まれて少々見難いが、確かに人工物らしきものが見える。るいるいを降下させ近づいてみると、そこにはレンガ造りのアーチ状の門があった。
「これは自然発生型のダンジョンみたいじゃな」
「あぁ、遺跡型とは違うタイプのやつか」
確か報告書には、この世界のダンジョンはかなりの種類があると書かれてあったな。正直他のことが忙しくてあんまり目を通してないけど。
「遺跡型は名前の通りじゃ。その遺跡の立地にもよるが、遺跡には魔力溜まりが起きやすいそうじゃ。その魔力が変異しダンジョン核が形成されるのじゃよ。自然発生型はまたちょっと趣が違ってじゃな、魔力溜まりもない場所に突然形成されるそうなのじゃ。この世界の研究者たちは未だに自然発生型ダンジョンのメカニズムが分かっていないようじゃ」
「流石俺のリット。その言い方だとリットはすでに分かっているみたいじゃないか」
リットはその小さな体を反らし、自慢げに「当り前じゃ!」と答える。小さな女の子が胸を反らして威張っている姿って尊いな。
「簡単なことじゃ、答えは死体じゃよ」
「死体?どういうことだ?」
「正確に言うと魔物の死体じゃ。この異世界に生きる者は皆すべからくその体に魔力を宿している。中でも魔物の個体によっては桁違いの魔力を有しているそうじゃ。それらが討伐される、または自然死を迎えると死体から抜け出した魔力が集まり、その一帯に大規模な独特の魔力溜まりが形成されるのじゃ。それから先はどのダンジョンも変わらん。核が形成され、その場を中心に核の保有する魔力に応じた規模のダンジョンが形成されるのじゃよ」
「お、おう…。ってか普通に調べれば分かりそうなもんだがな…」
自然に発生したダンジョンの場所で過去何があったかなど調べれば予想がつきそうなものなのに。
「さぁ、そこまでは理由は知らなんだ。突拍子もないような説を唱える学者も多いでな。正直、報告を聞くたびイライラしたわい。大体予想はつくがの」
うーむ。流石は小さき天才設定。リットは賢いし可愛いしぺったんこで最強だな。
「まあ儂の話はこれでいいじゃろ。早速入ってみるのじゃー!」
ずんずんと進む幼女の背中を微笑ましく見守る。あぁ可愛い。抱っこして撫でたい。
「ご主人様ニヤけすぎですよ」
「そうです。そんなに小さいほうがいいんですか?」
両サイドをがっちりとリーゼとパニエに挟まれ連行される。やめろ、俺はロリコンではない。
「ち、違う!リットだからいいんだ。分かるだろ?」
「先ほどもリリルを膝の上に乗せていましたし、ルピナもよく膝の上に乗せてますよね?」
「私たちは乗せてもらったことないのに…」
あ、あかん!このままじゃロリコンの烙印を押されてしまう!
「そ、そうだな。お前たちも帰ったら乗せてやろう。パニエは任務を遂行したしな!ご、ご褒美だ!」
「本当ですかっ!?やったぁ!」
「ご主人様ぁ、私も頑張ってます…」
「も、もちろん!リーゼは俺の秘書もしてくれているしな!北方の領土も獲得してくれたし、何か褒美を与えないとな!」
「うふふ。考えておきますね?」
普段は真面目でクールビューティ系のパニエが零れんばかりの笑顔で喜びを示している。その反対ではリーゼが怪しく微笑み何やら考えている様子に、俺は初めてリーゼの笑顔が怖いと思った。
「何をやっておる!はよー来んかー!」
とリットの急かす声にようやく二人は元に戻り、四人でダンジョンへ入っていく。入口から少し進むと、中は真っ暗で、真っ黒なローブを着ているリーゼの姿なんかは隣にいるはずなのに見えない。
「《灯火》」
生活スキルの一つ、ライトを唱える。ぽわーっと光の玉が宙を浮き、辺りを照らした。
「意外としっかりした道だな」
「完全に石造りですね。自然に発生したとは思えないほど精巧にできていますね…」
壁を撫でるパニエの言う通り、通路と思われる現在位置は石造りになっていて、思いのほか広い道幅にもなっている。壁の角度も洞窟などとは違い、均一にできているようだった。
「これが異世界のダンジョン…ヒストリアとはまた違った趣ですね…」
「あぁ、そうだな。一応索敵をオンにしているんだが、何も引っかからないな。魔物はいないのか?」
ダンジョンに入ったときから索敵を開始しているが、一向に何も引っかからない。盗賊スキルの《見切り》や生活スキル《鑑定》を使いトラップを警戒するが、やはり何も見当たらなかった。
「本当じゃな。何も引っかからん。何なんじゃろうな、ここは」
「ご主人様、もう少し奥まで行ってみますか?」
「そうだな…」
時刻はそろそろ夕方に差し掛かろうとしていた。他の姉妹達はもう帰りついているだろう。道中の移動に時間が掛かったのが少し痛かったな。効率良く回った筈だったが魔物の縄張りの関係上、大規模な巣は離れた位置同士にあったからな。
「そろそろイーリスたちも帰還しているだろうし、今日はここまでにしよう。後日また探索しにくればいいさ」
「そうじゃな。特に何かあるわけでもなさそうじゃしの」
「畏まりました。では戻りましょう」
そうして異世界初のダンジョン潜入は拍子抜けで終わった。そして結局俺が森で討伐した魔物は全部で989体で、その殆どがゴブリン系だった。数だけが多く、殆ど双剣スキルでなぎ倒していたため、運動になったかやはり怪しかった。
なおこの後に、魔物を一掃した一帯全てに新たな魔物の侵入を防ぐ大規模結界を、リットとパニエが構築していた。




