深夜姉妹会議
「それじゃあ、私たちだけの会議を始めるわよ」
場所は屋敷の会議室。時刻は深夜0時を回ったほど。
そこには上座の主は不在で、メイドも4人を除く姉妹たちが勢ぞろいしていた。
「司会進行はエルダーである私、イーリスが今後行うわ。私が不在の時は二女である鈴に任せます」
「は~ぃ」
年功序列で組織されているわけではないが、姉妹達はその特性上、長女である"白"のイーリスが何事にも中心になることが多い。そして自分が不在の時には二女である鈴にお鉢が回ることになっている。
分厚い冊子にしてある書類をいくつもテーブルに置いてあり、そこには赤い表紙の冊子も置かれていた。
「この会議は公式として残すつもりです。会議の結果はご主人様に後ほど議事録を提出すると同時に正式に報告するのであしからず。理由は言わなくても分かるわね、リーゼ?」
「はい…」
突然名指しされたことにその意味を理解しているリーゼ。俯く彼女は叱責され、罰せられるのではないかと不安な様子を隠せていない。
だがそれは杞憂に終わる。
「よろしい。ご主人様の寛大な御心で赦してもらえたことを忘れないように」
「肝に銘じます」
イーリスは、リーゼが北方平原で行った"遊牧民大虐殺"については全く気にしておらず、寧ろ自分たちの力がこの世界では圧倒的な力を誇っていることを証明できた戦いとして、リーゼを褒めたい気持ちでいた。
だが手段が悪かった。"大虐殺"に至るまでのリーゼの行動。イーリスは、リーゼが行った一連の行動に於いて、カナタが持つ自分たちへの信頼を著しく低下させたのではないかと恐れている。
結果的には杞憂に終わったが、イーリスの中では簡単に許せるような問題ではなかった。二女である鈴はイーリスの思いを理解していたため、カナタと共にリーゼを迎えに行き悪役を買って出ていた。
鈴にここまでさせた手前罰することはできず、イーリスはこの場で口頭だけの注意で済ませた。
「でも無事に戻ってきてくれて本当に安心したわ。よくやったわ、リーゼ」
「ぁ…。ありがとうございます、御姉様」
その一言で、リーゼは解放された気分になり、表情からも不安が取り除かれていた。
「話を戻します。議事録を取るのは持ち回りで行います。後々ご主人様に提出することを忘れないで丁寧に書くように。じゃあ一つ目の議題…というより先に情報の確認と諜報方針から話そうかしら」
イーリスは束ねられている冊子の山から表紙が黒くなっている一冊を抜き取る。
「まず昨日と今日で得た諜報の結果ね。リーズリットの『精霊の囁き』とリーゼのクローカーを利用した諜報の結果、裏が取れたものを先に皆に伝えるわ。この資料を回して頂戴」
人数分の黒い表紙の冊子が配られていく。
その表紙には何も書かれておらず、表紙をめくると1頁目に『異世界作戦計画構築資料①』とだけ書かれている。
「その冊子は、パーシェルが食糧プラントの製作途中に片手間で作ってくれた"記録の書"を利用しているわ。諜報で得た情報の結果は逐次そこに更新されていくから確認を怠らないでね。後、屋敷からの持ち出しは禁止よ」
全員が頷くのを確認し、イーリスは続ける。
「一先ずその資料は各々後で確認して頂戴。いろいろと話しあわなければならないことが溜まっているから足早にいくわよ。まず確認のため改めて知っている情報から。私たちが今いる場所はリフ大森林ね。リフ大森林はこの大陸中央に位置し、北方にはカレアス平原と北方大山脈、東方には砂の民が住むミレス砂漠、南方には人類諸国、西方には『災禍の亀裂』と呼ばれる大渓谷の向こうに魔族が住む魔国があるわ。そして今回諜報で得た結果は、『南方、西方以外は警戒を薄くして大丈夫』と言う結果よ」
ここで疑問や意見がないか一度話を止めるイーリス。皆真剣な表情でこちらを見ているようで、疑問などはまだ無いようだった。
「理由としては簡単。北方の遊牧民族国家は分かるわね?総人口の1割近くを失った上、魔物や他国を牽制するための軍を丸ごと失ったから、すぐにでも国家として機能不全を起こし始めるでしょう。国に対する信用、経済、皇帝の不在により諸部族の集まりからくる疑心暗鬼、反乱の兆候も燻っている。いずれ国として瓦解、戦乱が巻き起こるでしょう。まぁ、これは私の予想と言うよりリットとリーゼと話し合った結果、ほぼ的中すると確信しているわ。後はそれを察知できるだけの情報網を構築していれば問題ないわ。そして大森林を東に抜けた先の砂漠の国シヴ。もともと他種族にも寛容で裕福な国よ。魔法技術に於いては、最新技術を生み出すと言われている南方の帝国の2世代は先を行っている魔法先進国家ね。ラテール共和国が滅ぼされた5年前にも、亜人を救出するために正規軍・義勇軍を送り出している。結果多くの元ラテール共和国の住民を多く救出することに成功。元共和国民に限るけれど、亡命者の受け入れも、大国の誹りを受ける覚悟で大々的に行っているわ。余裕ができたらシヴに使者を出してもいいかもしれないわね」
ふぅ、と一息つき温くなった紅茶を啜る。
「ごめんなさい、レイモンド。お茶が温くなってしまったわ」
「あらぁん!大変ね!すぐに淹れ直すわよぉん!御姉様は何か希望のお紅茶はあるぅ?」
レイモンドと呼ばれた女性…?は野太い声で、ツインたちとは異なり袖の無いメイド服を着ており、その上腕二頭筋を見せつけるかのようにイーリスからティーカップを受け取る。
「レモンティーがいいわ」
「畏まりましたわぁん♪他のお姉さま方は如何致しますぅ?」
その野太い声の気遣いに、姉妹たちはにこやかに答える。
「儂はミルクココアがいいのじゃ!」
「ホットミルクにゃー!」
「日本しゅ…」
「お姉様っ!会議中ですよ!何考えてるんですか!」
「アイスコーヒーで」
「…私もパニエ姉様と同じものを」
「あっしとミストにゃ緑茶でー」
「うふん!分かったわぁん!で・もぉ~さすがにお酒はダメですよぉん?リーゼお姉様は如何しますぅ?」
「わ、私は…ミルクティーで」
「ふふっ!畏まりましたわぁ!少々お待ちくださいねぇん♪」
レイモンドがその逞しい筋肉を使いポーズをとりながら会議室の横にある給湯室へ移動していく。
イーリスたちはその嵐のような筋肉を見送り、会議を続行する。
「さて、お茶が来るまでに話を終わらすわね。これからの諜報方針としては、西方、南方を重視した諜報、工作活動を重点的に行っていくわ。特に南方にある中央国家諸国、二大国と聖教国、超大国の帝国ね。この南方諸国の概要と詳細は、さっき配った冊子に書いてあるわ。後で確認しておいてね。私からは以上よ」
イーリスが話し終えると会議室の扉が開き、レイモンドがワゴンと共に入室する。
「はぁ〜い、おまたせ!淹れたてほやほやよぉ〜ん!」
「流石レイモンドね。早くて助かるわ」
「ふふっ。大切なのは愛情と筋肉よぉ〜ん?あら、私ったら御姉様になんてことを!恥ずかしいわぁ!」
「ふふ、可愛いわよレイモンド。その調子でご主人様を共に支えていきましょう」
「お、御姉様…私ぃ、頑張っちゃうわ!」
そうしてレイモンドが各自に配り終えると、再び会議は進行していく。
「さて、ご主人様が示した方針では諜報活動と並行に各々のスペック調査があったわよね。皆、今のところでいいわ。どれだけ確認できてる?」
「ウチは固有スキルと魔法はヒストリア内と同様に使用できたえ。あ、いや、少しぱわーあっぷしていたようにも感じたえ」
「儂もじゃ。問題はないんじゃが、鈴お姉様の言う通り威力や性能が上がっているのは確かじゃな」
「あっしとミストも右に同じくーっす」
「私とパニエ、ルピナ、ラザエラも同様ですね。ただ…」
言い淀むリーゼ。イーリスは急かさずにリーゼの言葉を待つ。
「ルピナの固有スキルに変化が見られました」
「っ!…どういうこと?何があったの?」
「はい。結論から申しますと、ルピナとご主人様次第でこの異世界を征服、支配することも可能です」
「…何じゃと?詳しく申せ」
「はい…」
―――
――
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「なるほどのぅ…ヒストリア内ではイベント事やデバフ程度にしか使えなかった固有スキルが…異世界においてはそう化けたか」
「ひひひ、ほんにおもしろいえ~。ほぉらぁルピ~おいで~。おねえちゃんが撫でてやろうえ」
「にゃふ~ん」
鈴がルピナを抱きかかえ、ネコミミの頭を撫でまわす。ルピナも鈴に甘えるように鈴の豊かな双丘に顔を埋め、姉の愛情を受け止める。
「とんでもねぇっすね…もうルピナ一人でいいんじゃないっすかねぇ…」
「パーシェルお姉様、ルピナは私たちの妹ですよ。そんなことを言ってはなりません」
「…そうね。でもご主人様は異世界を征服なんてしようとは思わないでしょう」
「はい」
ルピナが持つ固有スキルの変化に姉妹たちは驚愕しつつ、イーリスが結論付ける。リーゼもそれに頷き、自身の考えを述べた。
「ただ実際に使用するとなると、魔力の消費量の関係で本人のレベリングと魔力増強系の装備・アイテムが必要になります。本人はやる気ですので、明日にご主人様に許可を貰おうと思っています」
「分かったわ。許可が頂ければ今後ルピナはリットとリーゼの下についてもらうことになるわね。リット、リーゼ、しっかり基礎から教えてあげるのよ?」
「承知じゃー」
「畏まりました」
「それじゃあ一度休憩に入りましょうか」
会議はつつがなく進行し、早朝に近い時間に気付いたイーリスのその一言で休憩に入る。その際、姉達に撫でまわされ嫌がったルピナがカナタの部屋に突撃し、マロンと同衾している現場を目撃され一波乱あったそうな。
カナタが騒ぎで起床してしまったため、会議は一度中断となり、続きは次の日に持ち越されたのであった。




