午後のひととき
予約登校
「さてご主人様。一息付いた事じゃし、今後の方針と、それに伴う役割分担でもしませぬか?」
一頻り騒ぎ、皆でお茶をして、遅くなった昼食を摂った後に食後のコーヒーを嗜んでいると、リーズリットがそう提案してきた。
「方針…かぁ。まずは何よりこの世界の事をもっとよく知らなければならないな…。だがそれと同じくらいに、俺たちがゲーム内でのスペックを引き出せるかを確認しなけりゃな。あんな大見得きって使えないスキルがありました、なんて笑えないからな…」
リーズリット…リットは「ふむ」と一言発し、トコトコとやってきて膝の上にぽふっと乗り、
「ではまず諜報活動の強化じゃの。並行してご主人様と我らのスペック調査。儂としてはさらに並行して、このリフ大森林?の完全掌握と防諜活動の強化もじゃな。ご主人様の地下倉庫のアイテムを使用して良いのであれば物資は問題無いから楽チンなのじゃ!」
「こらリット。ご主人様のお膝に乗る許可を得ていませんでしたよね?ミスト、後でリットのお尻ペンペンしておきなさい。私が許可します」
「はい、御姉様」
俺の膝の上でクッキーをもしゃもしゃ食べるリット。確かに物資面は当面は大丈夫だ。料理スキルの修練の為にとんでもない量の食材。鍛治スキルの修練の為に様々な鉱石。裁縫スキルの修練の為に布や生地や型紙。調合スキルの修練の為に薬草や、混ぜ合わせで使用する汎用的な素材。生活スキルの修練の為に折り紙から電池の代わりの魔石まで。
何でも御座れである。特に食料と魔石がふんだんに残っているのは大きい。食料は言わずもがな。魔石は様々な用途がある。まあ、この世界で使用できるか試してみないと分からないが。
「儂のぷりちーなお尻に触れていいのはご主人様だけじゃ。ご主人様、叩くなら優しく撫でるように叩いて欲しいのじゃ!」
「ん?あぁ。うん、なでりなでり」
リットの頭を撫でる。ふにゃあと最大限に緩んだ表情を見せ、見た目相応の幼女に見える。
「確かにリストを見せてもらいましたが、物資面に問題は無いようですね。しかしそれは『当面は』ですが。生産設備も追い追い作るべきでしょうね。特に食料は私達は関係ありませんが、ご主人様は食欲、睡眠欲等の欲求がおありのようですからね。パーシェル、設備関連の事はお任せしますよ?」
「へいへーい、あっしにお任せっす。生産スキルじゃ元プレイヤーのご主人様にも負けないっすー」
確かにいくら物資が豊富でも、所詮は消耗品だ。いつかは無くなる。ならば早いうちにイーリスの言っていた生産設備も必要になるか…。
そしてイーリスは設備周りをパーシェルに任せたか。まあ、その判断は正しいが…。
「パーシェル、やる前には何処に何を作るのかを教えてくれよ?報告を面倒臭さがって事後報告でもしてみろ?夜這いしてやるからな」
「マジっすかっ!?毎晩勝負下着つけときまぶっ!!」
「ご主人様、ふざけないでください。話を戻しますよ?方針はご主人様の諜報活動の強化および我々全員のスペック調査を最優先として、次にリフ大森林の完全掌握並びに防諜活動の開始。でよろしいのですか?」
「あ、あぁ。それで問題ない。パーシェルは大丈夫なのか?」
俺のおちゃめなジョークの所為で、イーリスの拳骨を喰らい悶えているパーシェル。
並みのプレイヤーならあれだけでHPが消し飛ぶだろう。
「大丈夫です。姉妹の中で一番HPと防御力が高いのですから」
「そ、そうか」
くわばらくわばら…。
「方針は決まりじゃな。後は各々の役割分担じゃが、リーゼとパニエはもう決まっておるな。リーゼには事後報告になるが、リーゼは引き続き諜報活動、パニエは大森林の掌握を続けるのじゃ」
「はい、お姉様」
うーん。俺が方針を決めると、イーリスとリーズリットを中心にどんどん物事が決まっていきそうだ。こういう時はあれか。トップは口を出さない方がいいんだっけ?
「パニエ、お茶しながらでいいので議事を取りなさい。ツインは…今は村の生き残りの方達の所でしたね。ならばリリル、後で議事録を複製スキルで姉妹達全員分のコピーをお願いね」
「畏まりました、御姉様」
「そうじゃのう、ご主人様をトップとして…副官としてイーリス御姉様と鈴お姉様。儂が相談役じゃの。さっきも言うたがリーゼが諜報担当でパニエが大森林担当じゃな。ルピナ、ラザエラ」
「にゃい!」
「はい」
「お主等は何ができる?正直お主等は特殊過ぎてのぉ。ぱっとは思いつかなんだ。で、あれば当面は適当に遊撃か、お主等の希望を聞いてそこに配置したいと思っておる」
「ご主人様のお膝にゃ!」
「ご主人様の護衛に!」
「お主等………。あぁ!分かった分かった!ラザエラにはご主人様の護衛を任せよう!イーリス御姉様と鈴お姉様が居るのに必要かどうかは分からんがな!じゃがルピ!汝は駄目じゃ!汝は真っ先にスキルの確認とそれに合った配置をするからの!!ご主人様の膝の上は儂のものじゃ!」
うんうん。いや、それはおかしい。
「にゃー!御姉様方のためにずっと黙ってたけどもう我慢の限界だにゃー!ご主人様ぁー!リット姉様がいじめるー!」
「な、何じゃと!?この姉不幸者め!こら!この膝は儂のもんじゃー!」
「騒がしい妹達え。まだまだお子様よのぉ。ショコラぁ、日本酒はあるかぇ?」
「鈴お姉様、お昼からお酒はいけませんよ?緑茶で我慢して下さい」
「ミストもぉ、ワインがそこにあったら飲むえ?同じことよぉ?」
「意味が分かりませんし、私はワインが目の前にあってもお昼からは飲みません。はい、緑茶ですよ、お姉様」
「……仕方ないえ」
こうして、お茶をしながら今後の方針と皆の役割が決まった。何だかんだと仲の良い姉妹達を見るとこっちまで笑顔になれる午後のひとときは、人生で感じたことの無い時間の流れだった。
「あーるぇー?あっし忘れられてます?」
「忘れるわけないだろ。ほら、こっちこい」
「へ?あぁ!ご主人様っ!私は膝の上に乗れませんよぉ!?」
「は?ぐぇ!お、重過ぎだ!ああぁ潰れる!潰れるぅぅ!」
「重くないっす!!乙女はいつでも羽のように軽いっす!!」
日は暮れ始め、夜の帳が下りる頃。
「行くのかぇ?ご主人様」
「鈴か。あぁ、行くよ。寂しがり屋なリーゼを迎えにな」
「おんや?出迎えるんじゃなかったのかえ?ははーん。成る程成る程ぉ。全く、妬ましい妹。ご主人様に態々迎えに行かせるなんてぇ、ねぇ。………ご主人様、共に行ってはだめかえ?」
「ん?」
あぁ、確か設定で鈴とリーゼはとびっきり仲が良い設定だったな。まあ一緒に来るくらいは良いだろう。
「あぁ、んじゃ一緒に行くか。とりあえず転移スクロールの履歴からトレースした位置へ飛ぶ。リーゼが何をしているのか分からないし、行けばあいつの邪魔になるかも知れないけどな。まぁ、あれだ。察しているとは思うが…。すまんが、リーゼの顔が見たくなったって言い訳に付き合ってくれ」
鈴は呵々と笑いながら俺に寄り添い腕を取る。
「ご主人様ぁ、ヘタレだぇ。それにしてもリーゼは本当に愛されてるえ。あぁ、妬ましい嫉ましい」
「俺は全員を愛してるよ。今回の事がリーゼじゃなく鈴だったとしても俺は迎えに行くぞ?」
「ふふふ、嬉しいなぁ。……ほな、いきましょう」
「あぁ」
俺は鈴の手を握りしめ転移スクロールを発動する。光が俺と鈴を包み込んでいき、俺たちは屋敷を後にした。
圧倒的語彙不足_(┐「ε:)_




