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ヒストリア  作者: パリィ
1章 兆し
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『御告げ』

初の異世界人視点

カナタ達が転移したリフ大森林は大陸のほぼ中央に位置し、大森林の南には人々が住む国々がある。東へ行けば砂漠が広がり、砂の民と呼ばれる南の国から移住した人たちが魔法技術を発展させ、豊かに暮らしている。西に抜け、『災禍の亀裂』の先には魔族たちが暮らす魔鏡国がある。


そして森を北に抜けると、見渡す限りの平原が広がっている。南の国々はカレアス平原と呼び、その平原には約数千からなる部族が移動しながら生活している。平原の民と呼ばれる彼らはの生活は、他の部族と時に争い、時には協力し合い生活している。


そしてカナタたちが転移してくる10年前。その数千からなる部族を一つに纏め上げた一人の男がいた。


男の名をギ・ド。カナタたちが転移してきた年に齢46になり、この世界では初老に入ろうかと言う年齢の男である。

今では、平原の皇帝を名乗り、北方平原を支配する唯一の王である。



そんな彼の出身の部族には『巫女』と呼ばれる女性がいる。地球で言うシャーマンや祈祷師と言った職業だ。巫女は神の声を聞き、『御告(おつ)げ』と呼ばれる託宣を皇帝になる以前のギ・ドに告げていた。


『平原の民を纏め上げよ』


それを聞いたのはギ・ドが齢15歳の時。この世界では成人する年齢である。ギ・ドは『御告げ』の内容を聞くと早速動き出し、約20年の歳月を経て、遂に平原の民全てを纏め上げてみせた。

これは平原の民らの有史以来の快挙である。大森林の南にある国々からは、祝辞と祝物と称した金品や美女、奴隷が大量に送られてきた。


彼らの本音は不可侵条約だと見抜いていたギ・ドはそれらを全て受け入れ、名実ともに平原の支配者となった。

様々な国から技術者を呼び、金と銀、大理石をふんだんに使った宮殿を拵え、酒池肉林を愉しむ日々。内政と言う概念は乏しく、部族間のトラブルの解決や、南の国々や砂の民との外交が偶にあるくらいで、享楽の日々を謳歌していた。


だがそれは平原を支配し、5年が経つ頃に新たな『御告げ』が下ったことにより終わりを告げた。


『軍備を整え災厄に備えよ』


ギ・ドの中で『御告げ』は絶対であった。長く享楽に耽り、国や民を蔑ろにしていたことに気付き、現実に戻ったギ・ドはすぐさま行動に移した。しかし、かつて並み居る部族と戦った猛将たちは腑抜けになり、官位を持つ文官たちは賄賂に溺れ、下級士族たちは虎視眈々と皇帝の座を狙う。そこにはただ魑魅魍魎が跋扈する魔の宮殿となっていた。


ギ・ドは激怒し、かつての家臣たちや将軍、文官、下士官…無能な者は全て自らの手で斬り捨てた。


外様となっている部族から新たに士官を募り、税の減税を餌に厳しく徴兵を課した。

己の能力全てを発揮し、新たな平原の民の軍団を作り上げた。

戦術や戦略、最新の技術をふんだんに取り入れた武器や装備も金に糸目をつけず取り入れた。


元々彼には人の上に立つ才能があった。そして『御告げ』による絶対の後押しと、何事にも新しいものを受け入れることのできる器。


時代が違えば彼は英雄としてその生涯を送り、後生には賢王として名を残せただろう。



そして彼に最後の『御告げ』が下った。


『大森林に潜む災厄の種を排除せよ』


5年前に『御告げ』を聞いた時から内政改革、軍事改革、軍備増強と富国強兵に努めてきた。そして再び『御告げ』が下った今、彼が齢15の時に下った『御告げ』の時と同様に、迷いはしなかった。


即時全軍に召集を掛け、自分の次男に後を託すと、ギ・ドは宮殿を出て単騎でリフ大森林に向け馬を走らせた。


リフ大森林に一番近い部族が管理する兵営に辿り着くと、彼は召集していた軍が集まるのを待った。やがてギ・ドの息子であり、長男であるギ・デが全軍を率いてギ・ドの下へ馳せ参じた。


全軍合わせて100万は下らない騎馬軍団。やがて大森林で何かが起こることを『御告げ』の内容から読み取っていたギ・ドは、予め大量の物資を溜め込んでおり、首都からの補給線も自らが携わりインフラを整え、整備は万全だった。


息子のギ・デが指揮権をギ・ドに返還すると、ギ・ドは大森林に向け斥候を放ち、数日遅れてゆっくりと進軍を開始した。いち早く情報が欲しかったギ・ドは息子のギ・デに本体の指揮を任せ、数人の側近と共に、自ら先鋒の部隊へ紛れ込んだ。


大森林まであと2日の距離。斥候を放ち5日が経ったが、誰一人帰ってくることはなかった。

嫌な予感がした。大森林は場所によっては強力な魔物が出現する森であり、人が住んでいるとは聞いたこともない。だが、いくつかの縄張りとも呼べる場所を避ければ、脅威となる魔物はいない。斥候に選出した者たちは大森林に精通している者たちだ。全員が全員ヘマをするとは考え辛い。

一瞬、例の亜人の村が関係しているのかとも思ったが、それはすぐに可能性から消える。

ギ・ドは訝し気に思いながらも軍を進めた。





そして次の日。大森林まで一日の距離まで進み、野営の準備を進めている時にそれは起こった。


「陛下、ここから南の位置にアンデッドの群れを発見しました」

「…何?」


大森林まで1日の距離。ここに来てアンデッドの群れと聞いて、ギ・ドは顔を歪ませた。

何かがおかしい。何故平原のど真ん中にアンデッドが出現する?戦いが起こったなど聞いたこともないぞ?そして戻ってこない斥候たち。斥候たちはこのアンデッドにやられた?


馬鹿な。有り得ん。


ギ・ドは自ら知っている常識で考え、アンデッドの特性を思い出し、そう結論づける。

アンデッドとは種類に関係なくただの動く死体。騎馬民族の自分たちからすれば、たとえ群れていても脅威には全く値しない最下級の魔物…。


だがそれでも拭えない違和感があった。

アンデッドは戦場跡やダンジョン内で出現することが多く、ギ・ド自身も大規模な戦闘後に、処理しきれない死体がアンデッドになっていく様を見たことがある。

何故こんな平原のど真ん中でアンデッドが群れをなしているのだ?


「…見てみたい。案内せよ」

「はっ!」


ギ・ドは一先ず自分の目で見てみることにした。戦場に不釣り合いなくらい豪華な装飾が散りばめられた天幕から出ると、空は赤く染まり、すぐに夜の帳が落ちる頃だった。


「ここから南の位置にございます。よろしければお使いください」


そう言って恭しく礼を執りながら筒型の遠見鏡が渡される。南の帝国が開発した最新の遠見鏡だという。


早速片目に筒をつけ、覗く。

そして覗いた先には、ゾンビやスケルトン、少し珍しい種類だがグールやワイトが蠢いている。数は多いようだが、すぐに処理できない数でもない。

そう思いながら見ていると、数百のアンデッドが蠢く後方に、黒い騎士達が佇んでいるのが見えた。


…あれもアンデッドか?


騎士のアンデッドも戦場では珍しくは無いが、あの騎士は騎乗しているようにも見える。騎乗したアンデッドなど聞いたこともない。


さらに筒を絞り込み、視野を絞る。すると、佇む騎士たちのさらに後方に一際巨大な赤黒い鎧の騎士。そしてその隣には黒いローブを纏った小さな人型…。


あのデカイのが親玉か?そしてあの小さなローブの人型……あれはリッチか?


蠢くアンデッドや静かに佇む騎士たちが、その二人を取り囲み守るように配置されている。


どちらが親玉でも、全滅させなければ少なくはない被害が出そうだな…。


ギ・ドは、未確認のアンデッドに対して無自覚に脅威を覚えていた。


筒から目を離し、思考する。

アンデッドは放置できない。放置すれば野営地を襲われる可能性もある。奴らは病気を運ぶ者としても有名だ。放って置いて平原に流行り病でも広げられると厄介だ。

ならばやはり殲滅だろう。


ギ・ドの決断は早かった。状況的にもどこか違和感が残るが、アンデッドは放置できない。群の数は千にも満たない。あの佇む騎士や一際大きな騎士は手強そうだが、所詮はアンデッド。死んだ騎士が生きている騎射に敵うわけは無い。


だが『御告げ』の事もある。念には念を入れて…。


「ズィ・ト将軍に当たらせろ。兵は2万ほどを持っていけと伝えろ。囲んで遠距離から潰せ」



簡潔に命令を下す。


数千にも満たないアンデッドに、万単位の騎馬兵で向かわせるのは臆病と思われるかもしれないが、『御告げ』の事もある。

天幕に戻り、無駄に広いベッドに転がる。正体の分からない違和感に囚われ、普段の自分を見失いそうになる。


もう一度最初から考え直してみよう…


と彼が思った時に、視界が回った気がした。


「ん?何だこの感覚は…」


軽い眩暈に襲われ、次第に冷や汗が噴き出てくる。少しずつ体は震え始め、力が抜けていく。


「これは……魔力欠乏症か?」


魔力欠乏症は自身の魔力残量が無くなるにつれて現れる症状。初期状態では冷や汗や体の震え、微熱の症状が出てくる。


「魔力を使った覚えはないぞ…?」


急な魔力欠乏症の発症…。

やはり何かがおかしい!どこだ?『御告げ』の内容か?戻ってこない斥候か?急に現れたアンデッドか?


次第に全身の力が抜けていき、鉛のように重くなる。

ギ・ドはベッドから転げ落ちるようにして這い出ると、地面を這いながら天幕から出る。その場に落ちている槍を見つけ、それを杖代わりに立ち上がる。すると、遠目に2万の騎馬兵が駆けていくのが見えた。


「へ、陛下…ご、ご無事ですか?」


声のする方へ目線だけを持っていく。もはや首を動かす事すら辛く感じるほどだ。

声の主は地面に倒れこんでいた。先ほどアンデッドの群れを報告してきた兵士だ。


「これは…どういうことだ?」

「分かりません…皆、次々に倒れて行っています…このままでは…」


何故だ?どういう事だ?何故皆倒れている?

天幕が張られているのは小高い丘になった位置。周囲の陣容が見て取りやすい位置である。周囲を確認すると、そこには見渡す限り倒れた者たちで溢れかえっている。


「こ、これは…」



そして、遠くの方で戦端が開かれた爆発音が聞こえた。


それを聞いたギ・ドはとうとう倒れこみ、そのまま意識を失っていった。








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