黒の胎動
(:3っ)っ 三=ー [▓▓▓]
燃え盛る炎
焼け落ちて行く建物
響く悲鳴と怒声
重たそうな鎧と槍を持った兵隊たちが逃げ惑う人々を次々に刺し殺して行く
嗤っている
楽しんでいる
悲鳴が上がり命が消えていく瞬間を
心の底から楽しんでいた
子供が与えられた玩具を楽しんでいるようだった
俺はそれを眺めることしかできず
力無きもの達への蹂躙劇は続く
正に悪夢
握り締めた拳から血が滴り落ちて。
ただ、じっとこの悪夢が終わるのをひたすらに眺めていた
―――
――
―
気付けば轟々と燃えていた炎は鎮火し
後に残ったのは瓦礫の残骸と
数多の亡骸だけだった
獣人 エルフ ドワーフ 魔族 人間
皆死んでいた
中には人間を庇って死んでいる魔物もいた
悪夢は覚めない
小さな影が此方へヨタヨタと歩いて来る
今にも崩れ落ちそうな程ボロボロで
それでも俺の側まで来ると
握り締めている拳を血だらけの小さな手のひらで包み込んだ
顔は見えなかったが長い耳が見えた
白い髪の女の子だった
白い長い髪は血で汚れ
着ている服もあちこちに焦げ跡と血に染まり
ずっと俺がここにいたことを知っていたかのように
俺の血だらけの拳を両手で包み込んでいた
こちらを見上げ儚い微笑みを見せる
少しずつ全身に入っていた力が抜けるが分かった
次第に拳の力も抜けはじめ
少女の手を取ろうとして
少女の胸元から剣が生えた
抱きとめることもできずに
少女は斃れた
その後ろには少女を刺した兵士
鬼の首でも取ったかのように喜び、高笑いをしている
高笑いをしている兵士その側で剣、槍、杖の先端が打ち合わされた旗が静かに靡いていた
殺す、
殺す、殺す、
殺す、殺す、殺ス、
殺ス
「夢か…」
「どうなされました?ご主人様」
視界の右下に薄っすらと見える数字は07:38。
声がした方へ振り向くと、そこにはリーゼとツインがこちらを心配そうに見ていた。
「おはようございます、ご主人様。どこか体調が悪いのですか?」
リーゼが俺が寝ているベッドの傍に寄り芸術品のような美しい顔を寄せてくる。
「おいおい、朝から近いぞ。心配するな。夢見が最悪だっただけだ…」
まさに悪夢といったものだった。何かの暗示か正夢にならなければいいが。まぁ正夢になる前に何とかしたいものではあるが…。昨日のリーゼの報告の内容が思ったよりショックだったのかもしれないな…。
「失礼しました。カナタ様、起き抜けのところで不躾ながらお願いしたいことがあって参りました。ご朝食後でよろしいので少々お時間を貰えませんか?」
「ん?あぁ。分かった。飯食った後はイーリスたちを召喚しようと思っていたくらいだから。昼までは特に他に用事はないしな」
「ありがとうございます。それでは一度失礼します。また後ほど出直しますので、ごゆっくりご朝食をお摂り下さい」
リーゼはその場で恭しく一礼をするとそのまま退出していった。
その後ろ姿を見ていると、ちょんちょんと肩が叩かれる。
「ご主人様、お皿洗いが終わらなくなるから早く食べてください」
そこには相変わらず不機嫌そうな表情のツインの顔が、リーゼの時より近くにあった。
少しでも前に顔を突き出せばキスができてしまうような距離だった。
「…顔くらい洗わせてくれ」
そうして異世界の2日目が始まった。
異世界2日目、その日の朝食はサンドイッチというよりもハンバーガーのようなものだった。
サイドメニューのように細長いポテトが添えられてある。そしてオニオンスープ。
これ作ったのショコラだな?確かジャンクフード好きだったはずだ。もちろん設定したのは俺だがな!ショコラ作った時に食べてた気がするし…間違いない。
しかし朝から重そうだ。ポテトはまだ許そう。しかし、メインであるハンバーガーの中の肉の比率が異常に高い気がする。…高いってか、これ肉しか挟まれてないじゃん…。
現実だったら確実に胃もたれ決定だな。ヒストリアのステータスを引き継いでいる俺には無縁だろうが。こんなときに状態異常耐性カンストが役に立つとは思わなかったぜ…。
「いただきます」
「はい。早いとこいただいちゃってください」
そしてモクモクとハンバーガーを齧っていく。味は悪くない。って言うか油っ濃くない。意外とアッサリ系じゃないか。この肉何の肉だろ?食べたことない味だ。
「ツイン、これ何の肉だ?」
「パニエ姉さまが狩ってきて下さったとある魔物の肉です」
「ブハッ」
思わず吹き出してしまった。おいおいおい、味は悪くなかったけど大丈夫なんだろうな!?
「きちゃないです。ご主人様」
「すまん。…違うそうじゃない。これは何の肉だ!?何故倉庫に保管してある肉を使わなかった?」
「オークです。倉庫の物資を使ってもいいと聞いていませんでしたから。私たちは許可がない限りご主人様の私物に触れることはできません」
「あー………うん。オークね。何こいつ豚のくせにうまいじゃん。結構いけるじゃん。後でショコラを撫でまわして褒めてやろう。すんませんでしたはい。地下倉庫は姉妹全員使っていいから。取り扱いが難しいものが結構混じってるから村の生き残りの人たちには触らせることはできないけど。その辺の管理も決めなきゃなぁ…痛い痛いもうヤメテェ!」
オーク肉を褒めたりショコラを褒めても話は誤魔化せなかった。人差し指で頬をずっとグリグリしてくるツインの前では俺は無力だった。おかしいな。物理耐性もカンストしてるはずなんだけどな。
「ショコラだけじゃない。パニエお姉さまとマロンも褒めて下さい」
「分かった分かった!あぁ、もう反抗期っか!」
俺の頬をグリグリと突いていた手を掴み引っ張ると、ツインは抵抗する事なく俺の膝の上に俯せに乗る。
「あ~…」
そしてそのまま灰色の髪を撫で回す。
ツインはされるがままに撫でる手を受け止めている。
「ツイン。お前軽いな。ちゃんと食ってるか?ほら、ポテトお前も食え」
と片手で撫でながらもう片方の手でポテトを掴みツインの口元へ持っていく。
ツインは何も言わずにパクっとポテトを咥え、もしゃもしゃと食べ始めた。
あぁ。これなんか癒されるな。猫耳触ったら怒るかな?
「うまいか?ほら、もっと食え。あと猫耳触ってもいいか?」
「ダメです。3本同時に下さい」
「ほんとにコイツは…可愛いなぁもう!」
なでりこなでりこ
表情は不機嫌なままだが、腰から出ている灰色の尻尾は機嫌良さそうにぱたぱたと揺れていた。
そんな癒される朝食後、コーヒーを飲みながら前日の報告書に目を通していると自室の扉がノックされた。
「入っていいぞ」
「失礼します」
入ってきたのはリーゼ。一瞬視線を俺の膝に移すと何事も無かったかのように部屋へ入ってくる。
「突っ込んでもいいんだぞ?」
「いえ、妹の幸そうな表情を見ると突っ込むのは無粋かと…」
「そうか…?」
朝食を食べ終わった今はソファーの上に座っている。そして相変わらずツインは俺の膝の上で器用に丸くなっている。
「それで、お願いだっけ?言ってみて。よっぽど無茶なお願いじゃない限りはなるべくOK出すつもりだから」
「はい。北方平原への偵察も兼ねた情報収集へ赴きたいと思っております。どうか許可を頂けないでしょうか?」
「ん?北方平原?確かこの森から北に抜けた場所だったよな?配られた資料の中に確かやたら正確な地図があったが…そこに何か気になるものでもあったのか?」
「はい。パニエと協力して今朝がた判明したのですが、この我々がいるリフ大森林から北方大山脈までの間…どうにも魔力の流れや質、量が他の地域とは異なるようでして、不自然に溜まる魔力の澱みなども確認できました。配下だけでは魔力感知にも限界があるので私自ら確認しようと…」
確かにこの森はどこか不自然な所が多いとは思っていた。昨日の村へ行った時もそうだったが、酸素と同じように大気中に満遍なく存在しているはずの魔力が、村の近くでは極端に少なかった。ちなみにこの屋敷の周りもそうである。それに気付いたのは炊き出しをしている頃だったが…。変異種の件もある。生き残って保護した者たちに被害が出てからは遅いしな…。
そして調査するにも使役している者たちでは限界がある。使役している魔物などは術者から遠く離れて行動はできるが術者からの恩恵は受けずらく、自らの個体値に頼るところが大きくなってしまう。
うーむ。
「…うーん。許可は出そう。だが条件がある。定期的な連絡と緊急事態になった場合の対処と固定転移スクロールを常備、俺が持っている各種能力値向上系アクセサリの装備を必ずしていくこと。これを守ってもらう」
「畏まりました。固定転移スクロールはすでに座標を屋敷に設置済みです。今はルピナとレイモンドが屋敷に転移陣の設置も行っております。近いうちにスクロールの大量生産も行いたいと思っております」
「流石は俺のリーゼだ。俺が呑気に寝ているうちにそこまで進んでいたか。皆には頭が上がらないな」
今のメンツだけでもこれだけ動けるのなら、他を召喚すると本格的に俺はいらない子になるな…。
いやいや、一緒に頑張っていくって決めたからな。俺は俺にできることを精一杯やろう。
「全てはカナタ様のためでございますれば。では、私の北方平原への偵察は」
「あぁ、許可する。だが無理だけはするなよ?お前は一人しかいないんだからな」
「仰せのままに。では私はこれから準備を致しますので一度失礼します。装備を賜った後に出発するつもりですので、御姉様たちを召喚した際にはお手数をお掛け致しますが…」
「ん?そんなに早く出るのか。うーん…分かった。イーリスたちには説明ついでに今の魔力の話も聞かせておく。安心して行ってこい」
イーリスたちへの事情の説明にはリーゼに立ち会ってもらうつもりだったんだがな…。さっきの魔力の話は俺も気になっているから仕方がないか。自分たちが住んでいる場所周辺の環境くらいは早めに知っておかないと面倒ごとが起こってからでは遅いしな…。
「はい。ありがとうございます。それでは失礼致します」
「ああ」
そうして再びリーゼの後ろ姿を見送る。姉妹たちの中でも精力的に動く彼女にはどこかで恩賞を与えてやりたいくらいだが、彼女たちには何か欲しいものがあるのだろうか…。
俺は暫く思案に耽ながら、ツインの頭を撫でていた。
カナタくんのおちごと=ツインを撫でる。




