フィクサー
カナタがショコラに引き摺られ会議室を出ていく。
会議室にはリーゼたち4人の姉妹が残り、カナタがいたときには無かった赤い表紙の書類がリーゼの手の中にあった。
「…始めましょう。カナタ様の身の安全を完全なものとし、カナタ様の平穏なる日々を確実なものとするための第一歩、私たちだけの話し合いを」
「「「…」」」
予め「姉妹だけで話し合いをしたい」と聞かされていた3人は、少し疑いながらも解散することなく残っていた。リーゼはカナタが会議室にいたときと違い、纏う雰囲気がガラッと変わっている。その姉の様子にただならぬ気配を感じた3人の姉妹は一度席を立ち、姉のリーゼに対し一礼をすると、質感の良く高級感のある椅子に腰を掛け直す。ルピナもラザエラの膝から降り、自分に宛がわれた椅子に座り直していた。
リーゼは無言で一枚の絵が描かれた紙を人数分渡していく。それは手書きの地図。上空と地上から測量され、縮尺も高度に計算された正確なこの大陸の地図であった。
「カナタ様には敢えて伏せた情報があります…その地図上の中央に描かれている森が我々が今いるリフ大森林。そこから北に森を抜け、平原を抜けると北方大山脈というこの大陸でも一番高い山々が聳え立っています。そして今回、私がまずあなたたちに聞かせたいことがあるのは森を抜けた先の平原。まだ正確な数までは把握できていませんが、その平原には数百に上る部族間から構成された遊牧民…蛮族たちが跋扈しています」
そして一呼吸置き、リーゼは続ける。
「そしてこの蛮族たちは冬越えや独自の儀式のため、魔物や動物を狩りに我々がいるリフ大森林に定期的に入ってきていることが確認されています」
「それは…私たちがいるこの屋敷まで…?」
パニエの質問に首を横に降るリーゼ。その反応にパニエは一瞬の安堵を得るが、リーゼは続けた。
「彼らの進路までは予想できませんが、最長で2ヶ月は探索をするそうです。見つかるのは時間の問題で、かなり高い確率で私達は発見されるでしょう。そして残念なことに彼らは平原以外に住む種族や民族に好意的ではありません。まあ彼らが好意的であれば最初からこんな話はしていないんですけどね」
「っ!ではカナタ様に御報告した方がいいのではないのですか!?」
そしてそれに対しても首を横に振るリーゼ。
これにはパニエ以外にもルピナ、ラザエラさえもがリーゼに対し強い疑問を抱き、その表情が歪む。
「どういうことにゃ?腹黒姉様には何か考えがあるのかにゃ?」
ルピナはテーブルに肘を付きながら質問を投げかける。その態度は凡そ姉にしていいものではない。だがそれを見てもリーゼは気にも留めず答える。
「ええ。いろいろ考えたのだけれど結局、北の蛮族どもを平定、可能ならば殲滅したほうが早いことに気が付いたの。森ではない広い土地も実験用に確保しておきたいわ」
「なっ…!」
「おー…」
「………」
まるで近所にお使いに行くような気軽さで数百に上る部族たちを平定、殲滅と言い切った姉に対し、3人は様々な反応を返した。それでもリーゼは気にせずに続けていく。
「念のためあなたたちにも待機してもらうけれど、基本的には私が一人でやるわ。3人には私が打ち漏らした虫どもを処理してほしいと思って予めこの件を話しておこうと思ったの」
リーゼはニコニコと微笑みながら話している。3人はその笑顔に何か得体のしれないものを感じ、同時に自分たちの姉に対し底知れない恐怖を感じた。そんな姉のリーゼは怪しげな微笑みを湛えたまま3人の妹たちを順に見ていく。そして一瞬のうちにその表情は能面のような表情に変わった。
「カナタ様が先ほど仰られていたように、明日にはイーリス御姉様方が召喚されるわ。いい?この件はお姉様たちには内緒よ?特に私たちのエルダー・シスターであるイーリス御姉様には絶対に知られてはいけない。あのお方は私の浅ましい考えなんてすぐに読み切ってしまう。そしてリーズお姉様にもよ?」
「「「………」」」
「私は明日から下準備に入るわ。あなたたちは引き続きリフ大森林の制圧化を急いで頂戴ね?森を南に抜けた先の野蛮な虫たちが少し騒ぎ出しそうな気がするから、早めに大森林を手中に置きたいの。安心して。諜報活動は引き続き行うわ。何か分かればカナタ様にもあなたたちにもきちんと報告するわ」
「そ、そうですか…」
「ええ。もちろんよ。私はやると言ったら最後までやり遂げる主義よ?知ってるでしょ?ふふふ」
パニエの絞り出した声にもはや覇気は感じられず、目の前で同性でも見惚れるような微笑みを崩さない姉に対し、3人は異世界初日にして初めて疲労を感じていた。そして召喚された彼女たちには睡眠と食事と言ったものを必要としないはずなのに、今あったことを眠って忘れてしまいたいと感じてしまっているほどである。
「なぁに?もう疲れちゃったの?私たちの話し合いはここからが本番よ?」
「…まだ何かあるのですか?」
「怖いにゃ…」
「…リーゼ姉様、それは」
そんな3人の疲れ切った反応を無視し、カナタが会議室を去ってから取り出していた赤い表紙の冊子を3人に配った。
表紙には日本語で『赤計画』とだけ書かれており、その冊子の厚みからも不穏なものが感じられた。
3人はお互いに顔を見て一斉に表紙を捲る。そして最初に書かれたその一文を見て、この話し合いが始まって以来の何度目かの驚きを示す。
「リ、リーゼ姉様…」
「これは…凄いにゃ…」
「…」
「じゃあ本当に話したかったことを今から話していくわね?大丈夫よ?これについては北の蛮族の件とは関係なくあなたたちにも最大限協力してもらうつもりよ。これから忙しくなるわね?姉妹同士、協力し合いましょうね?」
普段なら姉妹愛溢れるような笑顔。3人は戦慄と、これから自分たちが協力することになる『赤計画』に不遜だとは理解していながら、若干の期待と興奮を隠せなかった。
表紙を捲った1頁目のとある一文には「カナタ様を絶対とした現御神化計画。その概要」と書かれていた。
「じゃあまずは目的と概要からね。2頁目を開いてちょうだい」
この後も彼女たちの話し合いは深夜遅くまで続いた。夜が明ける前に姉妹たちの話し合いは終わり、リーゼ以外の3人の姉妹は疲れ切った表情の中にあっても、かつてない真剣な眼差しで夜明けの空を見据えていた。
おいてけぼりのカナタくん_(´ω`_)⌒)_ ))




