75.「一思いに暴れてこい」
「ルーチェ、不敬で斬首にされても文句は言えねぇなあ?」
「この首を取れるとお思いで?」
「俺が直々に叩き斬ってやろう、不愉快だ」
「不愉快なことをしているのはどっちだよ?」
はぁぁあああ。カイル兄上が大きなため息を吐いた。それに私と陛下の意識が逸れる。興が醒めた。ちらりと陛下を一瞥して、カイル兄上を見た。
「ルーチェ、先にすることあるよな?」
「あるけど、」
「そんなことをする暇があるなら、先にすることをしような」
「…はい」
「そんなこと、な」
厭らしく笑った陛下。カイル兄上の言葉が癪に触ったらしいが、知ったこっちゃあない。カイル兄上はそう判断したらしく、私に視線をやって頷く。
行け、ということ。
「ーーー陛下、失礼します。カイル団長、魔物が城の近くに上陸しました!!数は黙視で百以上!」
バンッと慌ただしく入ってきた騎士。そして、報告するだけ報告して、足早に出ていく。なるほど、この近くに上陸したのか。向かう手間が省けたな。
「ルーチェ」
「私だけで向かうわ」
「そうだな、一思いに暴れてこい」
「んふふ、帰って来たら覚えとけよ」
ルル王女のこと、詳しく話し合おうじゃないか。私は言外に告げ、上陸した魔物を殲滅させるべく執務室を後にした。
にしても、一体誰が陛下がヤンデレになると思っていたのやら。いや、そもそも前世が千景君だから仕方がないのか?飢えた孤独感が、執着心に移り変わるとは。
《ルーチェ》
「飛鷹?どうかした?」
《何やら魔物の大群が押し寄せて来たが?》
「らしいね。今から殲滅しに行くんだけど、お前も来る?」
《狙いは王女か?》
「多分ね。こればかりは、エノクの怪物がいるから、なんて通用しないし」
魔物相手に、人間の都合は通用しない。通用したらしたらで、戦闘狂の魔物が押し寄せてくるだろうなあ。メル兄様なら嬉々として戦うだろうけど、実際そんなことがあったら困る。いや本当に。
《側を離れても良いのか?》
「うん。どうせヤンデレ陛下に軟禁されてるんだもの。オプションで監視付きね」
《…ヤンデレ?》
「孤独感をこじらせたらしいの」
《……そうか》
流石に飛鷹でも次がなかった。こじらせてこじらせて、まさかのヤンデレに。やだわ、私ったら。まだ陛下のヤンデレに驚きが抜けない。いい加減にしないとね。何回も同じ事を繰り返すの飽きる。
「よし、殺るかね!あ、貴方たちは後ろで見ていなさいな」
目の前には魔物の軍勢がいた。黙視で300以上。ストレス解消に持って来いだな。先に駆けつけていた騎士たちを私の後ろに下がらせ、大きく息を吸い込む。私は海の怪物セイレーン。どこまでも響き渡るように。腹の底から声を出す。歌う。魔物にとって刃となる歌を。
「深い闇の底に帰れや。お前らに渡すものはない」
『世界』と『世界の理』を守るためならば、この命惜しくない。




