76.「一難二難が来たかも」
私は力強く、それでいて甲高い声で歌い続けた。何分経ったんだろう。声は私にとって最大の武器であり防御になる。だから、幾千の幾万の魔物を前にしても、恐れず歌えるのだ。
《減らんなあ》
「そんなもんよ、飛鷹」
《もう歌うのは止めたのか?》
「粗方、数は削いだからね。あとは力業っしょ」
刀を抜いて、私は大きく一歩を踏み出した。魔物を狩って、狩って、狩りまくる。背後から、感嘆にも似た囁きを感じながら私は刀を振るう。私自身のストレス発散にもなるし、一石二鳥だ。
「飛鷹、アマルティア様とルル王女は無事ね?」
《あぁ、アマルティアにはイゼベルが傍にいる。あの王女にも、何人か騎士がついているようだ》
「ふむ。でも、奴等の狙いは彼女たちだわ」
《どうする?》
「これから、度々来ると思うから対策を練らないとねぇ」
右足を軸に回転して、反動のままに刀を振るう。騎士たちも戦っているのが見えた。あ、カイル兄上もいる。いつの間に来たのかな。
「ーー剣を振るえ!我らが勝利をもたらしてやろう!」
その迫力ある怒声といったら。叩き上げで騎士団長になったカイル兄上。この背中についていけば、絶対に勝てる。そう信じれるものがあるから、騎士たちはついていくんだろう。
《負けてはおれんぞ、ルーチェ》
「だねぇ。私も頑張るかなあ」
着々と魔物の数が減っていく。減っているんだけーれーどーも、一向にゼロにはならない。どこかに仲間を呼んでいる奴がいる。じゃなきゃ、おかしい。
「カイル兄上!」
「なんだ、ルーチェ」
「このままだとキリがない!」
「そんなこったあ、分かってる!」
「カイル兄上、ここは一つーーー」
ドンッと鈍い爆発音を伴った5本の火柱によって、私の言葉はかき消されてしまった。その火柱が魔物を焼き尽くしていく。響く魔物の悲鳴は業火に呑み込まれていく様はまさに地獄。えー、誰だよ。皆が私を見るけど、私はやってないよ。そもそも魔術使えないしさ。煙の向こうに見えるのは、男の背中が一つ。
「ーー雑魚ごときに、何を手惑う?」
「…っ斗樹様!?」
脳髄を溶かされるような、低くて甘美な声。けれど、どこか気だるそうでそれがまた蕩けそうだ。耳から孕みそう。もっかい喋らないかな。声フェチなんだよね、私。前世から声フェチだから、年季入ってると思う。
「と、斗樹様って一の皇子の?なんで、こんな所に」
「さぁな、だが不味い」
「なんでさ。魔物も消してくれたんだから、別に良いじゃん」
「思考が単純過ぎるぞ、ルーチェ」
「馬鹿かって言いたいんだね、カイル兄上は」
「知ってるだろうが、一の皇子と陛下たちは仲が悪い。今にも殺さん勢いでな」
「ふーん。まあ、あれだね。それは同族嫌悪ってやつもあるんじゃないかなあ」
「はぁ?」
見たところによると、この一の皇子と陛下の魂が似たような?似てない、ような?ん?何で似てるんだ?何で?何で?おかしくね?
「何か、分かんない」
「ーーー…真夜?」
「えー…そういうパターン?マジで?やだなあ」
振り返った男の顔は、陛下に、駿河千景にそっくりだった。一難二難がやって来た。めんどくさぁ。




