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74.「弟の嫁に守られろと?」

「陛下、緊急のご連絡が」






「なんだ」






「北北西より、魔物の大群が押し寄せていると連絡がありました」






カイル兄上について執務室に入った。陛下は無表情に書類を捌いていて、いや、笑っていたら可笑しいけど、その無表情が少し印象的だった。仄暗い光を灯した黒の瞳は、いつもながら怪しげで、どこか冷めているように思える。






「へぇ?」






「上陸する可能性を考え、駐在する騎士たちに声を掛けております」






「騎士団で事足りるのか?」






「宮廷魔術師にも声を掛け、我等エノクが前線に立ちますが」






「城が丸腰だな、まあ俺が居るから構わんが」






何か、何かが引っかかる。何だ。この引っかかりの正体は、何だ。あらゆる所に目を向ける。何だ、この焦燥感は。






「いえ、アマルティア様が城をお守りくださるでしょう」






「弟の嫁に守られろと?」






「アマルティア様は率先して、この城を守られるでしょう。彼の姫は守られる側ではございません」






「それでもお前等の姫か…?普通は守られろと言うだろう?」






「アマルティア様は、翔陽様の為にこの城を守るでしょう。それならば、我等は止める必要はないのです」






分からない。分からないことがマズい。何が、マズい?何に、マズい?カイル兄上と陛下が話をしている。大事な国に関わる話を、しているのにーーーどうして陛下は魔力に対する集中力を欠かさない?常日頃の陛下の魔力はただ漏れ、制御なしの状態だ。それがどうした、今じゃ集中して魔力の統率に意識の大半を注いでいる。なぜ。どうして。






監視のように感じていたソレは、第三者ではなく陛下の魔力だったのか?陛下ほどの魔力だったら、複数の人間に間違いかねない。それほどの濃さと量なら、出来ないことなんてない。出来てしまう、勘違いをしてしまう可能性は大いにある。






よくよく考えてみると、城全体に漂っている魔力は陛下が8割、ルル王女が2割といったところか。ルル王女の魔力は以前よりナリを潜め、陛下の魔力が覆い隠さんとしている。






ーーー覆い隠す?






「ねぇ陛下、ルル王女は部屋にいるのよね…?」






「ん?当たり前だろ。ルルが何か?」






「…ほんとうに?」






返事の代わりに浮かべたうっすら寒い笑みに、背筋に冷たいものが走った。うそつき。陛下は、嘘を吐いた。よりにもよって、この私に。






「ルーチェ?どうした、気が荒ぶっているぞ」






「ーー殺すぞ、千景」






「ルーチェ!?」






「お前、自分が何をしているのか分かってるの?」






陛下は、自分の部屋にルル王女を軟禁しているんだろう。幽閉や監禁では、ルル王女の父親と同じ事をすることになるから、多分軟禁していると思う。






やだなあ、ほんとやだなあ。駿河千景だった頃の孤独感を、何をどう間違えたのかヤンデレに転換してしまったらしい。ヤンデレ予備軍は第三皇子だけだとおもっていた。思わぬ伏兵だ。信じられん。

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