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67.「賢王になりうる皇子だった」

***アマルティアSIDE***



「まったく、すぐに喋れば良いものを」



「さすがアマルティア様ですね」



「カイル兄様、それどういう意味?」





陛下とルー姉様、それから見知らぬ姫君を見るのが嫌で私はカイル兄様とイゼベル姉様、それから覆面の男たちを連れて隣の部屋に移動した。そして、ただ意の向くままに、答えのない苛立ちのままに覆面の男たちを嬲った(吐かせた)




「立派になりましたな、という意味です」




「嘘っぽいわぁ」




「ふふ、ルーティ。カイルの言葉にウソはないわよ。ただ、母君にそっくりになったっていう意味も含んでいると思うわ」




「イゼベル姉様、私は…」





ルー姉様は綺麗な瑠璃色の瞳に、仄暗い光を灯しながら嗤っていたことに思わずゾッと背筋が凍った。ルー姉様と何年も過ごして初めて見る目だった。怒ることも、泣くことも、笑うことも、ルー姉様は喜怒哀楽をちゃんと表現する人だったのに。





あんな目をするなんて。





「だぁいじょうぶよ、ルーティ。あの子(ルーチェ)は、己を知っているんだから。メルキゼデク様とレイヴァール様、それから竜族が育てた子よ。エノクの怪物に呑まれるなんてことないわ!」





「…イゼベル姉様、そうじゃないの」





イゼベル姉様の言う事は、私だって解っている。怪物の統率者であるメルキゼデク様とレイヴァール様に育てられ、竜族の頂点に立つラドン様とヘルシリア様に育まれた唯一のエノクの民。それがルーチェ・アルグレッセル。




私たち(エノクの民)の愛する女性だ。





「――…この人たち、色々吐いてくれたけど死んだじゃない」




「……あぁ、そっち」



「なんだ、てっきりルーチェのことかと」





「ルー姉様のこと気になるけど、ルー姉様から任されたことを私は先にするわ。で、どうしましょう?」





呆気なく死んでしまった覆面の男たちを見下ろして、私は小さく溜め息を吐いた。嗚呼、やり過ぎたわ。





***カイルSIDE***




まるで壊れたおもちゃを見る様な目をして、侵入者共を見る我等が愛おしき宝。ルーチェより任されたことを最優先事項として、無意識に認めているところがエノクの民らしい。





「コイツ等はこれ以上の情報は持っていないだろうし、良いんじゃないか?」




「あら、そうなの?」




「所詮、手先の手先だ。コイツ等を生かしても、殺しても大本(一の皇子)には辿り付けないからな」




「…一の皇子、ね」




「もう皇子だからって括りで許される範囲じゃないわよ、コレ」





一の皇子とは、千景様と翔陽様、それから三人の姫君と二人の皇子の計七人兄妹の上に立つ、世間では長男と言われる立場の男である。名は斗樹(トキ)といって、御年28歳。




「賢いからなあ」



「え?」



「一の皇子は賢い。それこそ、陛下や翔陽様を凌ぐぐらいに。賢王になりうる皇子、そんな存在だったんだ」




生まれた頃より見て来た一の皇子。優しくて、温かくて、何よりもこの国と国民を愛して居たのに。何時の頃からか、大きく変わってしまった。全てを憎むような目をして、俺たちに見えぬ剣を向けた。




「へー、でも関係ないわよね?」




「関係ないな。彼は皇帝にゃなれやせん」




「…一度ぐらい、お目に掛かりたいなー」




「何言ってんの、ルーティ!?」




「ふふ」




アマルティア様が、珍しく悪戯を思い付いた子供の様に年相応の笑顔を咲かせた。俺はそのことに驚きつつ、多分近いうちに会うだろうなと思いを巡らせる。





――敵だということが分かっているのに、どうしても殺せないというもどかしさ。それを感じているのは俺だけではない。陛下も翔陽様も抱えている感情だ。






今までも、何回かチャンスはあった。あったにも関わらず、トドメをさせていないという事実。ルーチェが知ったら笑いながら嫌味を言いそうだから、その時まで黙っておく。





優しかった斗樹様を思う。何故変わってしまわれたのか。何故、そんな目をして世界を見据えるのだろうか。俺には分からない。誰なら、この答えを導き出してくれるのだろう。





***SIDE END***





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