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68.「どこで教育を間違えたのかしら」

これから仕事だと言うカイル兄上にルル王女を預けて、私はアマルティア様とイゼベル姉上がまとめた報告書に目を通していた。所謂、報告会を行っていた。犯人は第一王子、斗樹。そう決めつけた結論が最後に締めくくられている。





「ルーチェ?」




「報告書としては上出来ですが、文末の犯人はこれだという決めつけた結論は不要でしたね」





「えー!だって、そうカイル兄様が」




「そうやって刷り込みをされて、思い込むのは良くないんですよ。自分の目で見て、耳で聞いて、自分で確かめた物が答えですから」




「…む」




「アマルティア様、例えカイル兄上や三の皇子、それからそこにいる陛下や海燕殿がそう言っていても、それが本当に正しい答えだと思いますか?」




「……ルーチェは、どうしてそう言うの?ルーチェだって、斗樹様が陛下を引きずり下そうとしているって思ってるんでしょう?」




「おや、私はいつ黒幕が一の皇子だと断言しましたか。私はセイレーン、言葉を操る力を持っているんですよ」





アマルティア様の不服そうな顔が可愛らしくて、ついつい頬を撫でてしまう。第一皇子、彩牙斗樹。彩帝国に入って一度もお目に掛かれていない、要注意人物。





「ルーチェも斗樹様に会いたいとか言うんじゃないでしょうね?」




「え?私、も?」




「ルーティが言ったのよ。一目会いたいって」




「…へぇ」




「べ、別にそう思っただけだから!!」




「――良いんじゃないですかね。百聞は一見にしかず、と言いますし。その時は私も一緒に連れて行って下さいよ?」





私の言葉にアマルティア様とイゼベル姉上が目を見開いて固まった。2人揃って、私がそう言うとは思ってなかったんだろう。だが、私も会ってみたいのだ。





「…る、ルーチェ?」




「自分の目で確かめたいんです」





どんな人物なのか。第一皇子という立場なのにも関わらず、要注意人物として周囲ひいては国から認識されている。それはまさしく興味。これを興味と言わずして、一体何になろうか。





「やっぱり、ルーチェもルーリアも変わってるわねぇ…。王妃、どこで教育を間違えたのかしら」





「イゼベル姉様、それは母様にちょっと失礼では?」





「あら、王妃ならそうねぇって笑う筈だわ。2人とも、個別に動く時は警戒心を持って頂戴よ」





「勿論、翔陽様や陛下の不利になる動きはしないわ」





「ルーチェも分かった?」




「そんなヘマするわけないよ」





アマルティア様は14歳に見えない強きな笑みを浮かべた。王女として、第三皇子の花嫁にしておくには惜しいとさえ思う、この生まれながらに持った女王の風格。エノクが滅びなかったら、将来この子が女王として国を支え守った筈なのに。





「ルーチェはこのあと、何か予定とかあるの?」




「鎮魂祭の準備に、少々動こうかと」




「…あぁ、次の新月ね」




「鎮魂祭って、何をするの?いまいち分からないままなんだけど」




「ぶっちゃけ簡単に言いますと、祈りを捧げるだけです。私が鎮魂歌(レクイエム)を歌い、それをイゼベル姉上が風に乗せて世界へ流します。アマルティア様は告げるだけです、エノクは滅びたと」





『エノクの国が滅びた』ことは事実。何にも隠せず、何にも偽れない真実だ。だが、エノクの王女であった彼女はもう俯かない。瞳を翳らせることもなく、ただ前を向いて、私の言葉を受け止める。




「そう、告げるだけなのね」




「だって貴女はエノクの王女であり神子だ。それだけで、全ての(ルール)は更新される」





嗚呼、気高き我が王女よ。歳はまだ幾何と行かずとも、その魂は高貴な光とヴェールに包まれている。唯一無二の世界。




私が、見守り続けなければならない白き闇。




「あとは私が行います」




「任せるわ、ルーチェ」





深い闇と宿命を背負ったエノクの民。誰も知らなくて良い。誰も分からなくて良い。誰も、何も、気付かないままで良いのだ。ずっと、ずっと――…。





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