39.「彼女が冷ややかなのはいつもの事」
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暑い暑い夏のある日のことだった。夏休みも間近なのに、授業するとか何。ふざけんなっつうの。保健室でサボタージュしていた俺の耳に、保険医以外の声が聞こえた。俺に向かって、放たれた冷徹の矢にも似た言葉が。
「千景、いつまで寝てるつもり?」
「…ずっと、かな?」
「ひょろっこいモヤシ野郎め。さっきも体育サボってたでしょう?」
「なんでわざわざ体育館で蒸されないといけないの?」
「なんでわざわざ体育だけ保健室にサボリに来ないといけないの?」
冷たい視線に凍えそうな俺、駿河 千景今年で17歳。未だにベッドの中でゴロゴロしている俺に、遠慮も恥じらいもなしに馬乗りになっている少女、雑賀 真夜同じく17歳。
「俺、一応びょーじゃくよ?」
「だから何?適度な運動しないから病弱なんでしょう?」
ちっとは動け、この面倒くさがり!と罵られる。なんて可哀想なんだろう。幼馴染で恋人に対する態度じゃないと思う。
「ねぇ、もうちょっと俺に優しくしようと思わないの?」
「え?」
「え?」
「アンタに優しくするの?何で?どうして?」
「え、」
俺が泣きそうなのはいつものことだ。この態度、今に始まったことじゃない。いつものことだ。
「ふふ、冗談。一緒に帰りましょ、今日はアイス買って帰るんでしょ?」
「いや、今の本気だったでしょ。目がガチだったんだけど。はぐらかされた気もするけど、今日からキャンペーン始まるんだわ」
ベッドから起き上がって、床に足をつける。同じように床に足をつけた真夜は、いつの間にか正面に立って俺の髪を撫でるように整え始めた。
俺と真夜は生まれた頃から一緒だった。そう、生まれた頃から。真夜の方が先に生まれて、数秒遅れて俺の産声があがったらしい。
偶然にも、誕生日が同じ。
家も隣同士で、ずっと一緒だった。何をするにしても真夜が隣に居た。お食い初めや七五三、入学式という行事全てにおいて隣に真夜が居た。
真夜が居ないということが珍しいぐらい、俺たちはずっと一緒だった。それは、高校に入っても続く。登下校、クラスも今の所一緒。昼休みは互いの友人たちと同じ空間で、離れることはあまりなかったように思う。
「よし、寝癖も治ったし行きましょー」
「カバン、教室だから寄るけど良い?」
「と思って、持ってきた私に感謝しなさい」
「ラッキー。アイス、奢るよ」
幼馴染で恋人。愛情、恋慕、独占欲、それらが芽生えたのは中学生の時。周りの人間が増えて、真夜が居なくなるとでも俺は思ったのだろう。
真夜が居るから俺が居る。
それは一種の存在理由だった。否、2人で1つだとは言わない。それぞれの考えがあるし、ただ性格やその他諸々が似通っていただけで。
夜鷹と飛鷹に出会ったのも、ちょうどこの頃―中学時代―だったかな。
「今日、夜鷹姫は?見てないんだけど」
「俺も見てない。けど、飛鷹と狩りにでも出てるんじゃないか?」
種類の違う2羽の猛禽類が、互いの身を守る様に寄せ合って雨に打たれていたのを真夜が見つけたのが始まりだった。




