38.「愛しい娘の話をしよう」
【千景SIDE】
夜鷹に力を与えた。おかっぱ頭の黒髪。爛々と輝く紅い瞳。いかにも座敷童ですという雰囲気を纏う、推定4歳か5歳ぐらいの女の子。
「主、様?」
「もう名前で呼んでも良いよ」
「…ちか、げ」
ああ、こんなにも柔らかな声音が出るとは。もしかしたら、ルーチェにもこんな声で話しかけていたのか?
そうだとしたら、皇帝の威厳の欠片もないな。
目にいっぱいの涙をためて、俺の首に小さな手を回してくる夜鷹。今まで苦労かけたな、労いの意味も感謝の意味も込めてその小さな体を抱き締める。
「悪いな、夜鷹。暫くは我慢してくれな?」
「えぇ、します!他ならぬ貴方の為ならば!!」
「ありがとう。ほら、飛鷹もおいで」
物寂しそうな飛鷹にも片手を差し伸べる。此処にルーチェが居たら、きっと飛鷹を抱き締めてたんだろうけど俺で済まないね。
「千景、お主は死んではならん。幸せになるべきだ」
「私と飛鷹を糧にしてでも、幸せになって」
「――嫌なこと言うな。俺が幸せにしてやる、お前たちもアイツも」
夜鷹が左頬に、飛鷹が右頬にそれぞれ擦り寄って来る。嗚呼、可愛い。なにこいつら、マジ可愛い。そう思いながら、2人の背中を撫でていると、一番身近な所から不穏な視線を感じた。
「翔陽、海燕。お前等羨ましそうに見てるが、コイツ等は絶対に触らせないからな」
「へっ!?」
「べ、別に触ろうとなど…!」
お前等、嫁さん居るんだからそっちに頼め。まぁ、アマルティア姫はまだ幼いからな。翔陽、今が耐え時だ。大人になったら、気にせずヤれば良い。
「さて、お前等が不思議に思っていることだから話をしようか」
夜鷹と飛鷹が俺から離れて、椅子の両脇に立つ。なんだか、イケない皇帝の気分だよ。別に立たなくて良いから、俺の膝に座ろう?
「千景、そのデレデレとした顔を仕舞うがよい。お前は皇帝ぞ?」
「良いじゃないか。どうせ身内の様なものだろうに」
「公私の区別ははっきりつけましょう?ルーチェに怒られるわ」
「それは嫌だね。お前等、告げ口するなよ」
ルーチェは怒ると怖い。さっきも怒られたし、その仕返しがなんとまぁ破廉恥なことか。まさかあのまま気を失った挙句、ルーチェに逃げられるとは俺も情けない。
目を閉じて深く呼吸をする。心は落ち着いている。ルーチェのおかげで、魔力の循環も気持ちが良い程で来ている。スッと目を開け、俺は睨む様に前を見据えた。
「お前たちは前世を信じるか?」
「…前世、ですか?」
「そうだ。ある人生を起点として、それより前の人生のことを指すんだが、俺とルーチェ、それからこの2人の神獣は、共通する前世の記憶があるんだ」
何、ファンタジーな話をしてるんだよ!的な視線が痛い。だが、俺たちからすれば、よっぽどお前たちの話の方がファンタジーなんだ。何だよ魔力って。何だよ魔術って。そんなモン要らんから、携帯電話をくれ。それか車。幾度、そう思ったことか。
「世界は幾重にも存在するという思想があってな、まぁそれに則って話をしようと思う」
面倒だから質問事項は最後な。口を挟むんじゃねーぞ。夜鷹も飛鷹も立ちっぱなしじゃなくて、俺の膝に座れ。




