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09.「久しぶりの女王様系」

――前世の恋人にそっくりでした。艶やかな黒髪に夜闇を切り取った様な黒い瞳。スッと通った鼻筋に、切れ長の目、バランスよくついたパーツたち。所謂、絶世の美男という言葉が当てはまる男が、私の眼の前に居る。そういえば、彼もこんな顔をしていた。







否、アレだ。他人の空似ってやつだ。違いない。生き写しかってぐらいそっくりで、まぁ、そっくりすぎるっていうのも恐ろしいね。あんな美しい顔が2つも3つもあって堪るか!というのが本音だが。






「名は」




「ルーチェ・アルグレッセルと申します」




「ルーチェ?」





皇帝の今にも首を傾げそうな不思議そうな声に、思わず私の首も傾げてしまった。何、こんなところで不況を買っちゃった感じですかね。私、余所様の国に喧嘩を売った覚えは全くないんですけど。






「わ、私の名に何かございますか・・・?」




「いや、そうか。エノクは英名だったか」





うん、まぁそうだけど。英名っていう言い方、この世界にあったのか。確かに英名と漢名が存在するけどさ。ちなみに、この彩帝国は漢名だ。





「私は彩帝国皇帝、彩牙千景だ」





「……ちかげ?」





いや、悪気はないんだ。無礼を働こうとも思っていない。ぽろっと出てしまっただけだ。だから、第三皇子もカイル兄上も抜刀しないでくれ。その刀身を鞘に戻してくれ。てか、第三皇子は分かるけどカイル兄上まで抜刀とか。






流石に、今の私では力不足が生じてしまう。相討ちにすら持っていけない事実が、そこはかとなく悲しくなる。不眠不休じゃなかったら、イケそうな気もするけれど。





「何か?」





「いえ、昔の知り合いにいたも…」






ので、と言葉が続こうとして止まった。皇帝の少し後ろの止まり木に、見覚えのあり過ぎる鳥が居たのだ。






黒滔々たる夜を切り離したような黒い毛並みのなかに、零した血のような紅い瞳。飛鷹よりは少々小ぶりの――







「…夜鷹姫?」






いや、悪気も他意も無礼もない。





だから、その刀身を私の首に近付けないで下さい。





いや本当ですから。もう、侍女として失格なことを色々してきてますけど、まだ命は惜しいんです。あとで何でもさせていただきますから、命だけは助けてください。






「…お前、」





〈まぁ!さっきの笛の音、随分と懐かしいと思っていたら!!〉





鳥相手に〝彼女〟という言葉を使うには可笑しいが、夜鷹(ヨタカ)に使う分に対して違和感も何もなかった。かつて愛おしい恋人が可愛がっていた彼女を目の前に、思わず私は頬が緩んだ。





私の耳に届いたのは美しいソプラノの声。これには間違えようがないほど聞き覚えがあった。






間違いない、彼女は夜鷹姫だ。





私の下へと飛んできた夜鷹姫は、伸ばしかけた私の手に柔らかな毛の生えた頭を摺りつけて来る。



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