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08.「久々の恐怖かと思ったら違う」

「カイル、彼女は?」




「アマルティア様の侍女ですよ」




「侍女があの山を越えて来たのかい?」




「彼女は私と同類なので」






アンタと一緒にしないでくれ。これでも、私は怪物の中では底辺を這っているからな。まぁ、一番の若手ということもあるし。うん。その辺は割愛して。





「へぇ!それは凄いね。それなら兄上に殺されずに済むかもしれない」





「あぁ、そうかもしれませんね」






いや、ちょっと待て。何を言っているんだ、第三皇子よ。兄上というのは、現皇帝か?それとも、皇位を狙っている方か?いや、それはどっちでも良い。どうして、その方に私が殺されなければならない!!






地位の低い者は、発言権を与えられてから喋ることがマナーだ。なんて面倒くさいマナーなのだろう。







疑問に思うけれど、私はただの侍女にすぎない。例え副業でもだ。カイル兄上は騎士団の団長で、翔陽様に至っては第三皇子だ。私に喋る権利は1ミリもない。







「不思議そうな顔をしているね。君はウチの話を聞かないのかな?」





「彼女は、私と同じく他国に興味がありませんからね」





「おや、それでよく侍女などを勤めれるね。こうやって単騎で乗り込んでくるクセに」






ほっといてくれ。単騎で乗り込んだのは、仕方ない事だろう。第三皇子はにこにこと笑いながら、私の顔を伺って来る。






カイル兄上はそんな皇子を一瞥しただけで前を向いた。






「彼女は優秀な侍女ですよ。さて、ルーチェ。心の準備をしておけよ」





カイル兄上の後者の言葉に私は首を傾げたが、扉が少し開いたことによってその言葉の意味を理解する。





濃い、濃い、濃い魔力の匂い。






その濃さは、私たちエノクの民に劣るけれど、慣れていない人が感じれば卒倒モノだろう。





「皇帝陛下、エノクの者をお連れ致しました」




「エノクの?入れ」





低い艶やかな声は、脳髄を揺らして眩暈を引き起こす。蠱惑的で魅力的、誘惑的な声はまさに甘美。






これが、この国を、いずれはこの大陸を支配する皇帝の声か。





なんという美声だろうか。声だけで、ここまで支配されてしまうなんて、思っても見なかったことだ。最初に入ったのが第三皇子で、その後を続く様にカイル兄上と私が入った。部屋に充満した魔力が圧迫、威圧、それぞれの恐怖を誘ってくる。







冷や汗が背筋を流れて行くのが分かった。震えが現れないだけ、まだマシだろう。震えたら失礼極まりない。それこそ、第三皇子が言ったように殺されてしまう。







臣下の礼を取ったまま、私の視線は床を這う。顔を上げることが出来ない。まぁ、上げろと言われていないからな。言われても、上げれるかどうかだ。








「顔を上げろ」







言われた。顔を上げろと言われた。声ひとつに支配された体は従おうとする。恐る恐ると顔を上げて、思いっきり顔の表情筋が引き攣って行くのが分かった。



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